スーパードリームプロジェクトに2度目の挑戦
「実は、スーパードリームプロジェクトに応募したのは今回で2回目なんです。1回目のときは茨城県水戸市のホテルに着任したのですが、震災後というのもあって大変なことも多くて……。逃げ出そうと思ったこともありますが、半年くらい経つと慣れてきて、ふたりで出かけたりもできるほど余裕がでました。4年の任期後に独立して事業を立ち上げたのですがうまくいかなくて、リスタートという形で2018年に再びスーパードリームプロジェクトに戻ってきました」(N支配人)
そう話すのは、2回目のスーパードリームプロジェクトに応募し、2018年8月から「スーパーホテル東京・芝」の支配人として働いているN支配人。パートナーのT副支配人とともに応募しました。
スーパードリームプロジェクトといえば、独立開業を夢見る人たちをスーパーホテルが支援する業務委託制度のこと。契約期間の4年間、ペアで支配人・副支配人としてスーパーホテルを運営しながら、経営ノウハウを積めるのがこのプロジェクトの大きなメリットです。
経営力を身につけられるだけでなく、4年間の任期でふたりが受け取れる報酬は最低4650万円。業績に応じてプラスで報奨金を受け取れるので、2000万〜3000万円以上を積み立てることも可能で、まさに“夢”を叶えるためのプロジェクトです。期間中はホテルのスペースに居住しながら働くので、家賃と光熱費が一切かかりません。
さらに、フランチャイズや代理店契約ではないので、加盟金や保証金などの費用も不要。初期費用0円でスタートできるのもスーパードリームプロジェクトの特徴のひとつです。支配人・副支配人として働きながら、独立するために必要な経営ノウハウと資金の両方を得られる制度として注目を浴びています。
「辞めたい」と思うほど壮絶な半年を経験
N支配人とT副支配人が最初にスーパードリームプロジェクトに応募したのは、遡ることおよそ10年。N支配人が30歳、T副支配人が26歳のときでした。
「ずっとアミューズメント系の企業で働いていたのですが、退職してECショップを立ち上げたんです。最初のうちはビジネスとしてうまくいっていたのですが、1年経ったくらいから少しずつ業績が悪化してしまって……。何か新しい事業はないか探していたらスーパードリームプロジェクトのことを知ったんです。ECショップで負った負債もあったので、家賃などもかからず、4年という短期間でお金を貯められる点に魅力を感じ、まだ若かったのもあり、再出発という形で応募することにしました」(N支配人)
しかし、スーパードリームプロジェクトはペアでの応募が必須です。そこで、N支配人は迷わずT副支配人に声をかけたといいます。
「私たち、職場恋愛なんです。アミューズメント系の企業の頃から一緒に働いていて、2年半くらい同じ職場で働いたこともあったので、お互いの長所や短所が分かっていて。おそらく賛成してもらえると思って相談しました」(N支配人)
「彼の事情も知っていましたし、24時間一緒にいれるタイプなんですよね。むしろ、休みの日に彼から『遊びに行ってくるね』って言われると『一緒にいたいのに……』って思っちゃうぐらいですから。なので、同じ職場で働くことをポジティブに考えてOKを出しました」(T副支配人)
そうして、二人三脚で始まったスーパードリームプロジェクト。しかし、一筋縄ではいかない試練がふたりに襲いかかります。
「東日本大震災の直後に着任したので、利用客も少なかったですしゼロからの再スタートみたいな感じで……。それはそれでいい経験になったのですが、自分たちで責任を背負いすぎる部分があって、着任後の半年間は大変でした。ただ、少しずつスーパーホテルの本社に頼ってもいい部分が分かってきて、それが分かると実は対して悩む必要もなかったりするんですよね。半年経ったころには自分たちのリズムもできてきて、だいぶ楽になりましたね」(N支配人)
従業員の教育までこなせるようになるとふたりの負担はどんどん減り、プライベートの時間も作れるようになったと振り返ります。
「水戸で2年ほど働いたあと、仙台のスーパーホテルに異動になったのですが、スタッフに任せられるときは2人で出かけたり、牡蠣小屋に牡蠣を食べにいったり、バーベキューをしたり。育成してフタッフが成長すれば安心して出かけることもできました」(T副支配人)
「丸1日の休みも取ろうと思えば取れるのですが、たとえばお昼の12時から21時はふたりがいなくても業務に支障が出ない体制を作ったり、シフトを調整したり。週に2回は出かけられるようなサイクルになっていました」(N支配人)
4年間の任期後に残った資金は約1300万円
試練からスタートした1回目のスーパードリームプロジェクトも、気がつけば任期満了の4年が経過。スーパーホテルの支配人業務で得た経営ノウハウはもちろん、独立するには十分な貯蓄を手に入れました。
「仙台にいた頃は趣味や食費などにかなりお金を使いましたが(笑)、それでも4年間で1200万〜1300万円は残りました。そこまでやりくりをせずにそれだけ貯まったので、頑張れば2000万円は貯まったと思います」(N支配人)
「アルバイトをそこまでシフトにいれず、支配人と副支配人で朝から晩まで頑張って働けばもっと貯まるでしょうね。でも、4年間を走り抜けようと思ったら、息抜きすることも大事かなって。どれだけ手元に残るかは、やりくり次第だと思いますよ」(T副支配人)
スーパードリームプロジェクトの卒業生は、4年の任期満了後にIT系の会社を立ち上げたり、カフェやバーなどの飲食店をオープンさせたり。手に入れた資金を元手にさまざまな業種、業態で新たな人生を謳歌しています。N支配人とT副支配人は、卒業後にどんなチャレンジをしたのでしょうか。
「友人から誘われて、震災復興事業をメインにした会社を立ち上げようと動いていました。ずっとサービス業で働いてきていたので、また違う業種を経験するのも今後のためになるかなって。それが2015年の頃でした」(N支配人)
しかし、計画は志半ばにして頓挫……。せっかく貯めた資金も多くが失われてしまいました。
「でも、まだ当時は38歳だったので、やり直そうと思えば何回でもやり直せますからね。うまくいかなくてもリスタートすればいい。そう考えて震災復興事業にチャレンジしたので、そこまでネガティブな感じではありませんでした」(N支配人)
一度は振り出しに戻ってしまったN支配人とT副支配人。しかし、そこで諦めるほどふたりのメンタルは弱くはありません。不屈の精神力を活かし、2018年に再度スーパードリームプロジェクトに応募するのです。
「ちょうどどうしようかと悩んでいるタイミングで、たまたまスーパードリームプロジェクトの資料を目にしたんです。4年働いたのですでに自分たちの形もできていますし、再スタートを切るにはやっぱりこれだって。近くで説明会が開催されるということで、ネットで参加を申し込んだんです。すると、すぐにスーパーホテル本社から電話がかかってきて『あのN支配人ですか?』『はい、そうです』って(笑)」(N支配人)
新規オープンのホテル着任で新たな経営ノウハウをゲット
かくして、スーパーホテルと2度目の契約を結んだN支配人とT副支配人。新規オープンの「スーパーホテル東京・芝」の立ち上げを任されるものの、それまでの経験を活かしてなんとか軌道に乗せます。
「既存のホテルならすべてシステムはできあがっていますが、新規オープンなのでファイル1個揃えるところからのスタートでした。大変でしたが、最初から妥協せずに体制を整え、自分たちが働きやすい環境を作れたのは良かったですね」(T副支配人)
メンタル的にも順調だったふたりですが着任からおよそ2年半後、またしても大きな試練が立ちはだかります。人々を世界中で脅威に陥れている新型コロナウイルスです。
「スーパーホテル東京・芝がある港区は、大企業の本社オフィスがたくさんあるエリアなんです。これまで8割ほどのお客さまがビジネス需要だったので、ほとんどの予約がなくなっている状況です」(T副支配人)
「コロナになって自粛ムードが高まり、テレワークが推奨されましたよね。緊急事態宣言直後くらいから予約数が一気に落ち込み、現在も2〜3割だけ戻ってきた程度なので、ホテルを運営していくにはかなり厳しい状況です」(N支配人)
企業努力では太刀打ちできないのが、新型コロナウイルスなどの外的要因です。感染拡大による需要の減少はホテル業界全体が直面している問題ゆえ、もどかしい日々が続きます。
「そのなかでもいかに赤字を減らせるか。マイナスを減らし、プラスに転じることができるかを日々考えています。最低報酬の4650万円の部分は変わらずもらえますが、報奨金は業績に応じた金額になります。アフターコロナに向けてV字回復できるように対策しているところです」(N支配人)
そんな状況ゆえ、任期が満了する2022年8月以降のことは「現在も考え中」というふたり。ちなみに、当初はどんな予定を立てていたのでしょうか。
「もともとは、これまでの経験を活かしてサービス業の経営者をターゲットにしたコンサル事業を立ち上げようと考えてきました。でも、いろいろと状況が変わってしまって、いまはまだその時期ではないなって。なので、状況を見ながら今後も考えます」(N支配人)
これまでも幾度となく挑戦し、そのたびに大きな困難に直面してきたN支配人とT副支配人。そんな彼らなら、新たなチャレンジも難なくクリアしてくれることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。