体力と収入面を考え、40歳を目前に車業界から異業種へ
「20年くらい車業界で普通車やレース系の車の整備を中心に仕事をしていました。でも、この先も続くと思うと体力面が心配で……。30代前半の頃は朝9時から夜中の24時まで働くこともありましたね。車が大好きなので体力さえあれば長時間働くこと自体は苦ではないんですが、将来を考えるととても不安でした。子どももふたりいますし、給料も満足できるほどもらっていなかった。40歳手前で転職しても、十分な待遇で働けるところは簡単には探せないと考え、大黒屋のフランチャイズに加盟しました」(小日向オーダー)
そう話すのは、2019年3月に「大黒屋 金沢文庫駅東口店(神奈川)」をオープンさせた小日向オーナー。大黒屋といえば創業40年以上を数える老舗の買取専門店です。2005年にフランチャイズ展開をスタートすると、現在は230店舗以上を出店。買取業界のなかでも抜群の知名度を誇るリーディングカンパニーです。
「大黒屋」のフランチャイズに加盟するまでは、車業界でキャリアを歩んでいた小日向オーナー。しかし40歳を目前にして独立への思いが沸々と湧いてくるのです。
「車業界は給料が安いので、暮らしていくだけで精一杯なんです。なので、ゆくゆくは独立しようと思っていたんですが、レースは狭い業界なんですよね。普通車を含めて車業界で自分の店舗を持って独立するとしても、設備投資にかなりの資金を持っていかれます。しかも、電子化された今の車に私の整備技術で対応できるかと言ったら、すべてに対応できるわけではない。どれだけ投資回収できるかを考えたら、あまりに厳しいと感じ、車以外の他の業界で独立しようと検討しました」(小日向オーナー)
明確なエリア分けをしている「大黒屋」の方針に安心感を覚えて加盟
そうして車業界以外での独立を検討した小日向オーナー。しかし数ある業態のなかから、なぜ彼は買取専門店に狙いを定めたのでしょうか。
「もともとブランドビジネスに興味があったんです。商品の値段ってブランドの有無でだいぶ変わってきますよね。車のホイールもブランドが付くだけで値段がまったく違うんです。ブランドという付加価値があるからこそ、値段が高くても買ってもらえる。ブランドを取り扱う商売はおもしろいなって思っていたら、買取専門店があるというので興味を持ちました」(小日向オーナー)
しかし、なにも買取専門店は「大黒屋」だけではありません。とくに首都圏では、街を見わたせば多くの買取専門店がしのぎを削っている状況です。
「大黒屋のフランチャイズに加盟している知り合いがいるんです。その知り合いはもう10年くらい前から加盟していて、過去に複数店舗を同時展開していたこともあったそうなんです。なので、やり方次第だとは思いますが、長く続けられるということに安心感を覚えました」(小日向オーナー)
しかし、小日向オーナーにはある懸念がありました。それは、マーケティング戦略のひとつであり、チェーン展開する小売店にありがちな「ドミナント戦略」でした。コンビニなどのチェーン店では特定の地域で集中的に店舗を出店し、その地域でのシェアを拡大する戦略が一般的です。
一方でフランチャイズオーナーとしては、店舗が軌道に乗ったタイミングで近くに同じような店舗がオープンしたら死活問題にもなるため、彼が大黒屋のマーケティング戦略に対して不安に思うのも当然のことなのです。
「すべて直営店でドミナント戦略をするなら問題ありませんが、なかにはフランチャイズ店の近くに直営がオープンすることもありますからね。そうなったらフランチャイズ加盟店はひとたまりもありません。
でも『大黒屋』は、出店できるエリアを明確に分けていて。一部例外はありますが、たとえば『10万人の商圏で1店舗』などと規定で決められているんです。なので、同じ『大黒屋』同士で潰し合うこともない。事業説明会でこの懸念がクリアになったので、割と即決で『大黒屋』に加盟することにしました」(小日向オーナー)
オープンからわずか2ヶ月で黒字を達成
そうして、2019年3月にオープンした「大黒屋 金沢文庫駅東口店」。車業界では20年以上のキャリアを誇る小日向オーナーですが、買取専門店はまったくの未知の世界……。はじめての起業ということもあって不安はつきものです。そんな彼が当時の心境をこう振り返ります。
「正直、どんなビジネスであっても絶対に儲かるなんてことはありませんからね。本部からも『こんなにすごい実績を出している店舗もありますが、一方で閉店している店舗もあります』と言われました。真贋を見分ける買取ビジネスなので、偽物を買い取って大損することもありますから。リスクはありますがこればっかりはやってみないと分からない。トライ&エラーを繰り返して覚えていくしかないと考えていました」(小日向オーナー)
しかし、いざオープンすると多くのお客が店を訪れ、早くも2ヶ月目で黒字を達成。買取専門店の需要を実感せずにはいられない状況となりました。
「1年目は広告宣伝費などにかなり投資をしましたが、それでも黒字で終えることができました。結構リピートしていただくお客さまが多いんですよね。最初は貴金属などをお持ちいただいた方が、次は株主優待権や切手などを売りに来られることもあります。大黒屋はチケット系も買い取れるので、お客さまと細く長くつながっておけるんです」(小日向オーナー)
なかには、貴金属やブランド品しか取り扱っていない買取専門店もありますが、大黒屋ではそれらに加えてチケット類も扱っています。買い取れる商材が多いのも「大黒屋」の特徴です。
また、買い取った商品の売却先が豊富なのも、初年度から黒字を出せた要因のひとつ。なかには、買い取った商品を本部にしか売却できない買取系フランチャイズもあるなか、「大黒屋」では、本部はもちろん、さまざまな売却先からオーナーが自由に選べるのです。
「本部も含めて買取額を比較し、利益がもっとも出るところに売却しています。本部に売却すると最短2営業日で現金が入ってくるんですが、それ以外だと2〜3週間かかることもある。なので、オープンするときは極力多くの運転資金を用意し、常に利益を優先して売却先を決められるといいと思いますよ」(小日向オーナー)
はじめての起業で不安に駆られながらも、1年目を黒字で終えた「大黒屋 金沢文庫駅東口店」。幸先よく2年目を迎えた小日向オーナーでしたが、そうそうに大きな壁が彼の前に立ちはだかります。
おうち時間の増加や自宅整理ブームが後押しし、コロナ禍にもかかわらず黒字をキープ
「2年目も頑張ろうというタイミングで、新型コロナウイルスの感染者数が増えはじめたんです。1回目の緊急事態宣言中は10日ほどお店を閉めたので、売上もかなり落ちましたね」(小日向オーナー)
しかし、買取ビジネスは不況などの外的要因に左右されにくいビジネスと言われています。飲食店をはじめ、多くの事業者を奈落の底に突き落としたコロナの影響はどうだったのでしょうか。
「結論としては、2年目の2020年も黒字でした。外出自粛でおうち時間が増え、家の中を整理していたら不要なものが出てきてお持ちいただく方も多かったですね。ただ家に置いているだけなら、現金化しちゃおうって感じで。また、自宅整理や生前整理がブームでもあるので、外出自粛が後押しをしてくれて大黒屋にお持ちいただいたんだと思います」(小日向オーナー)
さまざまな要素がポジティブに絡み合い、コロナ禍にもかかわらず安定した売り上げをキープ。しかし、周りには競合となる買取専門店がいくつかあり、顧客を奪い合っている状態です。そんななか、なぜ「大黒屋 金沢文庫駅東口店」は好調をキープできているのでしょうか。
「ネームバリューは大きいですね。『大黒屋なら安心』という理由でお持ちいただくお客さまも多いです。これまでも何店舗か近くに競合がオープンしましたが、1店舗は半年で、もう1店舗は3ヶ月くらいで撤退しました。いろいろな買取系フランチャイズがありますが、ネームバリューがあると、それだけで選んでいただけることも多いので助かりますね」(小日向オーナー)
大黒屋が長年かけて培ってきた信頼と実績にも助けられ、順調なオーナーライフを謳歌している彼に、会社員時代と今の違いを聞いてみました。
「会社員時代は21時に帰れれば早いほうでしたが、今は早いと閉店の19時でパッと帰ることもありますよ。もちろん、品出しや事務処理が残っていて23時までお店にいることもありますが、トータルすると働いている時間は短くなりました。収入も会社員時代と比べて3〜4倍に増えましたし、ひとりでお店を回しているのでストレスフリーな生活を送れています。車業界に別れを告げ、『大黒屋』のフランチャイズに加盟して良かったですね」(小日向オーナー)
現状に不満を抱き、自らの意思で独立という道を選んだ小日向オーナー。オープン前後は少なからず不安を抱きながらも、蓋を開けてみればそんな不安も感じさせない順調さを維持しています。現状に満足せず、今後はさらに売上を伸ばしていってくれることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。