はぐくみ弁当に加盟し、人件費率が30%から10%に減少
「飲食店経営は人件費が意外とかかるんですよね。もともと家業で中華料理店を経営しているのですが、『はぐくみ弁当』のフランチャイズに加盟する前の人件費率は30%ほど。これは一般的な比率なんですが、『はぐくみ弁当』に加盟してからは10%を切ってるんです。飲食店経営するうえで、この人件費率は普通に考えたらありえません。もちろんこれはスタッフへの給金を削っているわけではなく、国からの助成金と宅配弁当事業で収益をしっかり確保できているからです」(松本オーナー)
そう話すのは、2019年1月に「はぐくみ弁当」のフランチャイズに加盟した松本オーナー。「はぐくみ弁当」は障害者を雇用し、法人向けに宅配弁当事業を行なう就労継続支援A型事業所のフランチャイズです。
現在、国内には964万人の障害者がいる一方で、彼らの働き口のひとつである就労継続支援A型の施設数が不足しています。施設を運営しても事業収益の確保ができず、全体の7割の事業所が赤字で存続すらも難しい状況だからです。
対して「はぐくみ弁当」は宅配弁当の事業でしっかり売上を立てられるため収益の確保も問題なく、月250万円を超える利益が出ている事業所も少なくありません。「はぐくみ弁当」の本部は、法人向け宅配弁当の「やどかり弁当」や就労支援の「はぐポート」などを展開する株式会社GLUG(グラッグ)。「やどかり弁当」においては、全国でおよそ420店舗を展開するなど業界トップクラスの規模を誇ります。
そんなGLUGが2018年に新たなフランチャイズブランドとしてスタートしたのが「はぐくみ弁当」です。すでにノウハウが確立されていて、ブランド力もある法人向け宅配弁当の「やどかり弁当」がベースになっているので、本部が推奨する営業方法を忠実に実行すれば配食数は右肩上がり。就労継続支援A型事業所の弱点である収益性の問題を克服できるだけでなく、行政からの給付金と合わせてダブルで収益を得られるのが「はぐくみ弁当」の魅力のひとつです。
「売上の柱のひとつとなる行政からの給付金は、加盟から1年目くらいまでが利用者ひとりにつき月に12万〜14万円。出勤日数などによっても給付金の金額は変わってくるのですが、フルタイムで出勤する方の場合はひとりにつき20万円くらい給付されます」(松本オーナー)
社会貢献をしながら収益を上げられる点に魅力を感じて「はぐくみ弁当」に加盟
松本オーナーが家業である中華料理店で働きはじめたのは、今から20年以上も前。長きにわたって飲食の世界に身を置いていた彼は、飲食事業を安定して継続することの難しさを肌で感じていました。
「飲食経営は売上が安定しないんです。いい時もあれば悪い時もありますからね。なので、飲食関係で売上が安定する事業があれば、まずは副業として何かできないかと考えていました。そこで出会ったのが法人向けの宅配弁当『やどかり弁当』です。宅配弁当なので店舗がいらず、中華料理店の厨房を使って弁当を作れるので初期投資を抑えられる。何より、中華料理店とは違ってストック型のビジネスなので安定した売上が見込める。そんな点に惹かれて5年くらい前に『やどかり弁当』のフランチャイズに加盟しました」(松本オーナー)
すると、「やどかり弁当」のオープン当日にはすでに128の配食数を達成。オープンから1年半後には目標の200食に到達するなど、文字通り安定した売上を積み上げていくのです。しかし、いくら調子が良くてもこの先もずっと続くとは限らないのが経営の難しさ。新型コロナウイルスの流行によって、痛いほど実感した経営者も多いのではないでしょうか。
「世のなか何が起こるか分からないですからね。なので、中華料理店と『やどかり弁当』以外にもうひとつ柱になる事業をスタートさせたいと考えていました。飲食店経営は人件費が結構かかるのですが、 “人件費をほぼほぼゼロの状態にできる”という『はぐくみ弁当』の謳い文句に興味を持ちました。当時は就労継続支援A型についてはよく分からなかったのですが、社会貢献をしながらビジネスできることに魅力を感じました」(松本オーナー)
そうして、2018年に「はぐくみ弁当」のフランチャイズに加盟。新たな法人として「合同会社アスリード」を立ち上げました。
「“明日をリードする”をくっつけてアスリードと名付けました。障害者である利用者の方に次へのステップアップとして頑張ってほしい、という思いを込めています」(松本オーナー)
本部が推奨する営業を地道に続けた結果、配食数が右肩上がりにアップ
「はぐくみ弁当」のフランチャイズに加盟後、2019年1月に就労継続支援A型の開業に必要な指定申請が通り、そこから利用者(障害者)を募りはじめた松本オーナー。なかには、利用者が集まらずにA型事業が軌道に乗らない事業所もある一方で、彼は逆の理由で悲鳴を上げることになったのです。
「地域によって就労継続支援A型事業所の数は異なりますよね。事業所が多い地域なら利用者は集まりにくく、少なければすぐに集まる。私のエリアは就労継続支援B型は多かったんですが、A型事業所がなかったので、ハローワークなどで求人を出したらすぐに集まって、1月末で5名、2月には7〜8名になりました」(松本オーナー)
蔓延的な人材不足に悩む飲食店の状況を考えると、一見、順調に推移しているようにみえます。しかし、「はぐくみ弁当」のフランチャイズ本部としては月に2名ペースで、年間14名くらいを推奨していると言います。
「最初の段階で利用者さんが集まりすぎるとキャッシュフローが大変なんです。というのも、行政からの給付金が入金されるまでに2ヶ月の時差があって、最初の給付金が入金されたのが3月15日。最初の段階でトータル100万円くらいは利用者さんに給料をお支払いしていたので、オープンして半年間くらいはずっとキャッシュフローがきつかったですね」(松本オーナー)
そんな危機をなんとか乗り越えるとともに、弁当の配食数も順調に増やしていった松本オーナー。「はぐくみ弁当」をオープンした当初は1日270食くらいだった配食数が、半年後には300食に到達するまでになっていました。
「商圏を広げたのも理由のひとつですが、それよりも本部が言う営業をしっかりやっているからだと思います。営業といっても、配達に行った帰りに毎日3か所に営業したり、定期的にファクスDMを送ったり。これらを地道に続けていれば、認知度が少しずつ高まって配食数も増えると思います」(松本オーナー)
そうして、順調に事業を大きくしていった松本オーナーでしたが、またしても大きな壁が彼の前に立ちはだかります。
宅配弁当という業態が、今の世のなかの風潮にマッチ
「法人向けの宅配弁当なので、新型コロナウイルスの影響でかなりの打撃をくらいました。コロナの直前は1日320食くらいの配食数だったのですが、コロナになって1日100食近く減って220食くらいになってしまいました。売上で言うと90万円、純利益でいうと45万円のダウンです」(松本オーナー)
しかし、そんな状態は長く続かず、1ヶ月半もすると元の配食数に戻るどころか、コロナをきっかけに配食数を大きく伸ばす結果となったのです。
「結果として、コロナ前は1日320食だったのが、現在は420食くらいまで一気に増えました。あくまでも個人的な予測ですが、世のなかの風潮に宅配弁当がマッチしたんだと思います。要は、コロナ前までは外食していた方も、コロナ感染を懸念するなどして社内で弁当を食べるようになり、宅配弁当の注文数が増えていると分析しています」(松本オーナー)
宅配弁当事業はコロナをきっかけに業績を伸ばしている一方、既存事業である中華料理店はコロナ以降、閑古鳥が鳴く状態が続いています。
「本当に悲惨な状態です。ご存じのとおり宴会需要はありませんし、アルコールを提供できないので客単価も低い。それに、数年後にコロナが落ち着いても、コロナ前の状態に戻るかといったら100%には戻らないような気もします。いっても70%くらいまでと考えると、『やどかり弁当』と『はぐくみ弁当』に加盟してリスクヘッジをしていて良かったですね」(松本オーナー)
現在は「やどかり弁当」や「はぐくみ弁当」にとどまらず、網戸と襖の張り替え、電子部品の組み立て、焼き鳥の串刺し作業など、じつにさまざまな事業を展開している松本オーナー。今後はから揚げ店や就労継続支援B型などの新規事業を検討しているとともに、2022年1月にはグループホームをオープンする予定です。
何度大きな壁にぶつかっても決して諦めることなく前を向き続けてきた彼なら、すべての事業を成功に導いてくれるでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。