2代目社長として会社を継ぐ前に、自身で新しく会社を設立
「新型コロナウイルスが流行り出した2020年の春頃は、自粛傾向が高まって売上が50パーセントくらいまで落ち込みました。ただ、ガッツレンタカーは観光需要がメインではなく、地元の方の普段の足やビジネス利用がほとんど。なので、その後は波がありつつも、10〜20パーセントの売上ダウンに収まっていました。2021年9月以降はコロナ前の売上水準に戻っていますよ」(佐久間オーナー)
こう話すのは、2016年12月に「ガッツレンタカー甲府駅前店」をオープンさせた株式会社ASBEATの佐久間代表。実は彼にはもうひとつの顔があり、山梨県内でウェディング事業を展開する株式会社アイコーポレーションの取締役でもあります。
「アイコーポレーションは父親が立ち上げた会社で、2003年から結婚式場の運営をしています。私は2011年にアイコーポレーションに入社し、営業として新規でお越しいただくお客さまの接客を担当していました」(佐久間オーナー)
次期後継者であり、いわゆる“二代目”社長候補に該当する佐久間オーナー。本来であれば、アイコーポレーションの新規事業としてガッツレンタカーのフランチャイズに加盟する選択肢もあったはず。
そんな状況のなか、佐久間オーナーは2016年に自身が名義の新たな会社を設立し、ガッツレンタカーのフランチャイズに加盟しています。なぜ彼はもっとも難易度の高いルートを選択したのでしょうか。その背景には、ウェディング業界が直面するある悩みが隠されていました。
ほかのレンタカー店とは一線を画すガッツレンタカーに魅力を感じて加盟
「2013年から3年間、経営者育成塾に通っていたんです。そこには自身で創業した方はもちろん、二代目や三代目の方もいらっしゃるんですが、やっぱり自分で一から事業を立ち上げた方のほうが、事業に対する思いや気持ちが熱い印象をうけました。そういった方々の影響を受け、二代目社長としてアイコーポレーションを継ぐ前に自分で会社を起こし、一からやってみたいという思いが強くなってきたんです」(佐久間オーナー)
繰り返しになりますが、自身がアイコーポレーションの代表に就任すれば、自由に新規事業を立ち上げることもできます。しかし、あえて新たに会社を立ち上げたのにはこんな理由が隠されていました。
「正直、ウェディング業界は少子高齢化などを理由に衰退していると言わざるを得ない状況です。山梨県内だけを見ても、2019年に結婚式を検討して結婚式場に新規来館した方は、2018年より2割以上も減ってるんです。結婚式を挙げる方が減っている状況でアイコーポレーションの代表に就任し、事業を立て直して継続させるのは簡単なことではない。それなら、エスカレーター式に二代目になるのではなく、会社を継ぐ前に自身で会社を立ち上げ、一から経営のノウハウを身につけて準備しておきたいと考えたんです」(佐久間オーナー)
そこで、彼がまず検討したのはレストラン事業でした。結婚式場で生じる食品ロスをどうにか利活用しようと考えたものの、飲食店開業は初期費用の高さを理由にあえなく断念。そのほかコインランドリーのフランチャイズに加盟することも検討しましたが、これも初期費用との折り合いがつかず諦める結果に……。
起業したいという意欲はあるものの、ピンとくる事業になかなかたどり着けない佐久間オーナー。そんな彼に運命的な出会いが訪れます。
「フランチャイズビジネス情報サイトのフランチャイズWEBリポートで良さそうなビジネスを探していたら、ガッツレンタカーを見つけました。レンタカー自体成長を続けている業界というのはもちろんですが、なかでもガッツレンタカーは長期の貸し出しに特化していたり格安でレンタルできたりなど、ほかのレンタカー店とは違うビジネスモデルを確立している点に魅力を感じました。また、ロイヤリティが固定なので、売上を上げれば上げるほど稼げる点もすごく魅力的でした」(佐久間オーナー)
結婚式場での接客経験を活かし、多くのリピーターを獲得
そうして、2016年10月にガッツレンタカーのフランチャイズに加盟するとともに、新たに株式会社ASBEATを設立。同じ年の12月に「ガッツレンタカー甲府駅前店」をオープンさせました。
敷かれたレールを歩むのではなく、自ら切り開いた茨の道を選択した佐久間オーナー。心機一転、新たな人生を歩みはじめたものの、そうそうにビジネスの難しさを感じずにはいられない状況に直面します。
「オープンした当初は月100万〜120万円くらいの売上を想定していました。でも、蓋を開けてみたらオープン初月の12月の売上はわずか30万円で、翌月も80万円くらいと目標には届きませんでした。山梨県は公共交通機関が整備されていないので、一家に車が複数あるのは当たり前。事故や買い替え時に代車が必要なので、そういった需要を見越してオープンしたのですが、競合のレンタカー店が近くにあり、認知を取れずに最初はかなり苦戦しました」(佐久間オーナー)
ゼロからビジネスをはじめる場合、認知度の低さを理由にスタートダッシュを切れないのはよくある話。しかし、それ以外の問題が佐久間オーナーを窮地に追い込んでいたのです。
「山梨県には“無尽(むじん)”という文化があるんです。山梨県特有の文化で、何かを目的にした集まりのことを山梨県では“無尽”と呼んでいます。たとえば、経営者同士の飲み会や食事も“無尽”ですし、地元の仲良い友だちで毎月お金を出しあって旅行に出掛けることも“無尽”といいます。山梨県の方々は“無尽”による結束が堅いので、新規の営業にいっても『ほかのレンタカー店で契約しているので』と断られることが多くて。この状況をひっくり返せず、1年以上は苦戦を強いられました」(佐久間オーナー)
しまいには、追加融資を検討せざるを得ない状況まで追い込まれた佐久間オーナー。しかし、オープンから1年3ヶ月でようやく黒字に転換し、ギリギリのタイミングで追加融資を免れることになりました。
「地道なチラシ配りで認知度を高められたことはもちろんですが、リピーターのお客さまを獲得できたことが大きな理由だと考えています。店長も、もともと結婚式場で働いていた人間で、アルバイトスタッフは現在も結婚式場でお手伝いをしているんです。まったく違う業種ではありますが、接客という点では結婚式場での経験が活かされる。それが功を奏し、多くのお客さまにリピーターになっていただけた結果、黒字に転換できたと考えています」(佐久間オーナー)
一難去ってまた一難。コロナで売上が40パーセント以上もダウン
苦しい時期を乗り越え、ようやく軌道に乗りはじめた「ガッツレンタカー甲府駅前店」。2018年には、その功績が認められてガッツレンタカー本部が主催する「ガッツレンタカーフォーラム2018」において、全140店舗のなかでもっとも活躍した店舗が選ばれる「ベスト・オブ・ガッツ」を受賞。さらに、翌年の2019年には「ベストスタッフ賞」を受賞するなど、順風満帆な経営者人生を歩んでいました。
しかし、ビジネスには不測の事態がつきもの。新型コロナウイルス感染拡大により、悪いときで売上が40パーセント以上もダウンするなど、またしても彼の前に大きな壁が立ちはだかります。
「コロナが騒がれはじめた2020年春頃は売上が急激に落ちましたが、その後はすぐに回復していきました。というのも、山梨県独自のコロナ感染予防対策のひとつに『グリーン・ゾーン認証』というのがあるのですが、この制度の認証を委託している企業様からまとまった台数を長期レンタルしていただき、売上のベースが確保できたんです」(佐久間オーナー)
それだけではありません。法人のレンタルがコロナ前より増えたことも、コロナ禍を乗り切れた要因のひとつとして挙げられます。
「理由は定かではありませんが、今、コロナで半導体が不足して新車が買えない状況ですよね。半導体不足が原因で新車を買えない法人のお客さまが、それまでのつなぎとしてご利用いただいているケースも少なからずあると考えております。なので、コロナ禍でも売上は安定し、コロナ前の80〜90パーセントを維持することができました」(佐久間オーナー)
観光需要がメインのレンタカー店ではコロナによって売上が激減し、車の保有台数を減らしてなんとか営業を続けている状況が続いています。一方で、ガッツレンタカーは観光客がメインターゲットではないので、コロナ禍にもかかわらずコロナ前とほぼ変わらない売上をキープできるのです。
「むしろ、2021年9月はコロナ前よりも売上が上がるなど、最近はコロナ前の水準に戻りつつあります。コロナで一時的に売上がダウンしても、リピーターの方が7〜8割ととても多いので安定した売上をキープできていると考えています。なかには、2017年からずっとご利用いただいているお客さまもいらっしゃいます。ほかのレンタカー店ではありえないですよね」(佐久間オーナー)
困難に直面しても、その度になんとか乗り越えてきた佐久間オーナー。言うまでもなく、ガッツレンタカーのフランチャイズに加盟する前よりも経営者としてのスキルは上がっているはずです。今後、代替わりをしてアイコーポレーションの代表に就任しても、どんな困難にも打ち勝ち、よりたくましい会社へと成長させてくれることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。