コンビニで働くことにやりがいを感じて独立を決意

(三井オーナー)「もともと独立したくて、独立開業誌の『アントレ』をよく読んでいました。一国一城の主になるのが夢でもありましたし、親を安心させたいという思いがあって。焼き鳥屋とかも検討しましたが、飲食業界は未経験だったので……。コンビニなら経験していたから、独立してもやっていけるって自信があったんですよね」
そう話すのは、コンビニ業界で3本の指に入る大手コンビニの店長から「セブン‐イレブン中央月島1丁目店」のオーナーとなった三井です。現在37歳の彼は自身の仕事感について、「コンビニで働いているのが趣味みたいなもの」といいます。
そんな彼がコンビニで働きはじめたのは学生時代。セブン‐イレブンではなく、競合のコンビニです。学校卒業後には、別のコンビニの床清掃のアルバイトに就くなど、三井の人生を語るうえで「コンビニ」の存在は欠かせません。
(三井オーナー)「自分にはどういう仕事が合っているのか、アルバイトをしながら模索していました。ほかの仕事もしていましたが、このときもやっぱりコンビニで働いていましたね」
そんな三井に大きな転機が訪れます。それは、学生時代にお世話になっていたコンビニオーナーの“あるひと言”からはじまります。2011年、三井が30歳のときでした。
(三井オーナー)「セブン‐イレブンの競合となるコンビニを複数店舗展開しているフランチャイズオーナーだったんですが、人材が不足しているということで……。店長(社員)として働いてみないかって誘いだったんです。そのときは特にコンビニが自分に合っていると思っていたわけではありませんが、経験もあったので働かせていただくことにしたんです」
かくして、コンビニ店長として働きはじめた三井に、アルバイトとして働いていたころには感じられなかったある変化が訪れます。
(三井オーナー)「それまで、自分のやりたいことをいろいろ模索していましたが、店長として働いたことで自分にはコンビニが合っているんだな、と。アルバイト時代は目標を決めて働いていなかったんですが、お店を任せてもらうことで責任感はもちろん、やりがいも感じるようになったんです」
とはいえ、雇われ店長としての現状に100パーセント満足していなかった三井は、いつしか「コンビニオーナー」というステップを意識しはじめるのです。
(三井オーナー)「店長として働いたことで独立志向も芽生えてきて。ただ、その時点ではセブン‐イレブンではなく、当時勤務していた競合のコンビニで独立しようと考えていました。でも、改めていろいろ調べてたら条件面なども含めてセブン‐イレブンで独立したほうが優位だと感じたんです」
当時働いていたコンビニではなく、セブン‐イレブンを選んだ理由とは?

セブン‐イレブンにも「従業員独立支援制度」があるように、それまで勤めていたコンビニで独立するのが一般的。もちろん、三井のように違うコンビニからセブン‐イレブンを選んで独立をするオーナーが多いのも事実ですが、彼はなぜその道を選んだのでしょうか?
(三井オーナー)「コンビニ最大手であり、セブン‐イレブンの商品はどれもおいしいことですね。おいしいものだったら自信を持って売れるだけでなく、その分、お客さんの笑顔をたくさん見れますよね。じつは、ほかのコンビニで店長として働いておきながらも、『コンビニ=セブン‐イレブン』みたいなものをどこかで感じていたんです……」
インターネットやテレビなど、各メディアで話題になることも多い表記セブン‐イレブンのオリジナル商品。SNSなどで爆発的に拡散されると、その商品が店頭から姿を消すことも珍しくありません。その圧倒的なブランド力こそ、競合となるコンビニとの差別化ポイントだといいます。
さらに三井の心を揺さぶったのは、セブン‐イレブンの運営母体であるセブン&アイ・ホールディングスの前会長であり、現在は名誉顧問を務めている鈴木敏文(すずき としふみ)氏の存在も大きかったといいます。
(三井オーナー)「鈴木氏の『真の競争相手は同業他社ではなく、絶えず変化する顧客ニーズ』という発言があるんですよ。つまり、お客さんの変化に対して自分自身がどう変わるかが重要とおっしゃっていて、その言葉に共感したんですよね。あとは、鈴木氏の出身が長野県の坂城町で、私の出身地の隣なんですよ。それで親近感が湧いたっていうのも一つの理由です」
セブン‐イレブンへの加盟を本格的に検討しはじめた三井でしたが、独身である彼に一つ大きな壁が立ちはだかります。それは、セブン‐イレブンに加盟する際に絶対に必要となる履行補助者の存在です。
コンビニフランチャイズは一部単身でも可能ですが、ペアで加盟するのが一般的。セブン‐イレブンでは、60歳以下の夫婦のほか、親子や兄弟、姉妹などの二親等、または、甥や姪などの三親等、義理を除く血縁の従兄弟(いとこ)であれば加盟できます。なかでも、夫婦の組み合わせが多く、2016年にセブン‐イレブンにフランチャイズ加盟者のうち、じつに70パーセント以上を占めます(Cタイプを契約した方の割合※土地・建物を本部が用意)。そんななか、独身である彼が履行補助者に指名したのは、実の姉である大向でした。
履行補助者として働くことの不安や葛藤

履行補助者として一緒にセブン‐イレブンでの独立を相談された大向。しかし、彼女は当時、それまで勤務していた保育士の仕事にいったん区切りをつけて子育ての真っ只中でした。さらに、契約期間15年ということからも、履行補助者としてオーナーである三井のサポートをするには荷が重かったのも想像に難しくありません。
(大向マネージャー)「弟がコンビニで働いているのは知っていて、『独立したい』というのも前から聞いていました。弟を応援してあげたいとも思っていたんですが、私自身、コンビニでのアルバイト経験すらなく、どこまでできるかなっていう不安はありましたし、前職の保育士としても、いつかまた仕事をしたいなと考えていました。でもやっぱり、結婚していて娘もいて、夫の両親にもお世話になる部分が出てくるということで家族の承諾が必要だったので、私1人では決めることはできませんでした……」
その後、三井の誠意もあり、大向の家族については無事承諾を得ることに成功。そうして、姉、ひいては姉の家族の協力を得てセブン‐イレブンのフランチャイズに加盟するという夢を果たしたオーナーの三井。2016年8月にオープンしたのが「セブン‐イレブン中央月島1丁目店」なのです。


しかし、じつはセブン‐イレブンのフランチャイズに加盟するまで、大向は「アンチコンビニだった」というほどのコンビニ嫌い(!)。その印象は、加盟前と後ではどう変わったのでしょうか?
(大向マネージャー)「そもそも、『コンビニで売っているもの=体に悪い』と思い込んでいたんですよ(笑)。ペットボトルの飲み物を買うくらいはしていましたが、お弁当などを買う場所ではない、と。でも、加盟前研修に参加したら、じつは余計な添加物を使ってなかったことを学んだだけでなく、食べたらすごくおいしかったんです。いまではだいぶコンビニに染まって、自信をもって商品をおすすめできるだけでなく、私自身、仕事終わりに買って帰ってますよ(笑)」
お弁当やおにぎり、サンドイッチなど、セブン‐イレブンのオリジナル商品は、保存料や合成着色料などの添加物を使用していません。全国164カ所にある専用工場(※2018年2月現在)で作った「安心・安全」にこだわった商品なのです。しかし、大向のようにそれを知らない消費者は少なくないのかもしれません……。
また、コンビニ店員として働いたことで、もう一つイメージが変わったことがありました。
(大向マネージャー)「コンビニのことを全然知らなくて、レジ対応なども淡々と接客をしているイメージだったんです。まさか、お客さんとこんなに多くお話ができるとは思ってもいませんでした。保育士の前に福祉施設で働いていたこともあるんですが、人と触れ合う仕事が好きな私にとって、とても嬉しい発見でした」
加盟前と後で一変したコンビニ(経営)のイメージ

もちろんオーナーの三井自身も、セブン‐イレブンのフランチャイズ加盟に対してまったく不安がなかったわけではありません。世間のイメージと同様、彼もコンビニ経営に対して少なからず不安を抱いていた一人なのです。
(三井オーナー)「セブン‐イレブンはロイヤリティが高いから止めたほうがいいって言われたこともありますね。でも、実際やってみたら、そうとも言えないんですよ。ロイヤリティが高い分、水道光熱費や廃棄処分の一部を本部が負担してくれたり、経営の負担が減っているところもありますし、同じ日販であっても逆にセブン‐イレブンのほうが儲かってますからね。CMなどの販促にもお金をかけてやってくれるので、キャンペーンをやった時の反応がすごいんです。おにぎりセールは通常の倍は売れますよ」
ほかにも、業界1位に君臨し続けるがゆえ、世間ではノルマであったり「本部からの指示は絶対」などといった支配的なイメージが囁かれるセブン‐イレブン。その部分についても加盟して印象が一変したといいます。
(三井オーナー)「お店がよくなるためのアドバイスをいただけるのはもちろん、オーナーの利益のことを第一に考えてくれる。競合他社で店長をやっていたときは、廃棄を出してでも売り場にボリュームをもたせるように指導されていましたが、セブン‐イレブンの場合は、そこにオーナーの裁量があるんです。競合のコンビニと比べても、親身になっていろいろ考えてくれる。加盟前と後でまったくイメージが違うので、これは自分自身びっくりしているところでもありますね」
また良好な店舗運営ができているのは、「普段の関係性も大きい」と三井は続けます。
(三井オーナー)「競合他社を悪くいうわけではありませんが、当時、店長として働いていたころは、いつも上から目線で言われている感じでした。でも、セブン‐イレブンのOFC(店舗経営相談員)は、オーナーのことを尊重したうえで対等な関係性を作り上げてくれるので、オーナーとしての働きやすさを実感していますね」


それを証明する一つが、レジ横にある「綿あめ製造機」。隣に保育園がある「セブン‐イレブン中央月島1丁目店」では、地域に根ざした店舗を目指し、土日になるとこちらの機械が登場します(オーナーの希望を考慮したうえで本部が許可)。フランチャイズとはいえ、自身の考えを尊重してくれるので、「独立をした」という気持ちをより一層高められるのも、セブン‐イレブンに加盟することのメリットなのかもしれません。
オープンからおよそ2年が経過しましたが、売上は前年比よりも常に上回っているほどの好調ぶりを見せている「セブン‐イレブン中央月島1丁目店」。それを実現しているのは、大々的な販促はもちろん、オーナーと本部の関係性に秘密があるのかもしれません。
(三井オーナー)「お店を認知されることで、何もしなくても1年後には110パーセントになり、経営努力次第で120パーセントになると言われていて。実際、いまは120〜125パーセントで伸びているので、これからも声を出したりイチオシの商品をおすすめしたり。売る努力をしていけば、まだまだ伸びると感じています」
コンビニ経営やセブン‐イレブンへの不安を払拭するだけでなく、この加盟をきっかけに、姉弟でありながら“見えていなかった意外な一面”も見えてきたという二人。やりがいを持って二人三脚で店舗の運営に励んでいるといいます。
(大向マネージャー)「二人とも高校を卒業してからそれぞれの道に進んだので、こういう機会がなければ年に何回か会うくらい。なので、いま一緒に週に何回って働いているのが不思議な感じですね(笑)。支えてくれている夫や家族には感謝ですが、姉弟で働くって世間的にもレアなケースなので、すごくいい機会をもらったなって思っています。いつかは離れると思うんですが、やっぱり寂しいので完全に離れるのではなく、何かしらで関わっていきたいなって思うようになっています(笑)」
そんな三井と大向の今後の目標は、契約期間の15年の間に4店舗を展開すること。息の合った二人であれば、15年を待たずに目標を達成してくれるでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。