クレープ界にイノベーションを起こした男の挑戦
「BAGEL&BAGEL(以下ベーグル&ベーグル)とは、不思議な縁を感じますね」——そう感慨深げに語るのは、「BAGEL&BAGEL City(以下ベーグル&ベーグルシティ)」や「MOMI&TOY’S(以下モミ&トイズ)」をはじめとした10の飲食ブランドを展開する株式会社アルテゴの川上社長。
かつて、“とろけるクレープ”で業界にイノベーションを起こした「モミ&トイズ」を立ち上げた人物です。
「もともと、オーナーパティシエとして洋菓子店を経営してました。その後、洋菓子の技術を使っておいしいクレープを提供したい——そういう思いで2005年にスタートしたのが『モミ&トイズ』なんです。それまでのクレープは、どちらかというともちもちした食感が主流だったんですが、口溶けのいいとろけるクレープをコンセプトに、巻き方も当時では珍しいブーケ状にして販売しました」(川上社長)
クレープ業界の異端的な存在としてスタートした「モミ&トイズ」でしたが、瞬く間に評判を呼び、スタートからわずか5年で世界各国に行列をつくるクレープブランドとして成長を遂げることになるのです。そんな彼が「ベーグル&ベーグル」などの経営に携わるようになったのは今から3年前のこと。
もともと、「ベーグル&ベーグル」と「モミ&トイズ」は、株式会社アスラポート・ダイニング(現、株式会社JFLAホールディングス)の連結子会社としてそれぞれ異なる会社が運営していました。ちなみにアスポラート・ダイニングは、「牛角」や「どさん子ラーメン」「とり鉄」など、全国に820店舗を展開する大手外食チェーンです。
2018年の経営統合により、「ベーグル&ベーグル」と「モミ&トイズ」の運営会社が合併し、新たに「株式会社アルテゴ」を設立。両ブランドともアルテゴが運営することになったのです。
「ベーグル&ベーグルが創業した20年前の、トレンドに敏感な人たちっていうのは、みんなベーグルを食べてたんですよ。朝食にベーグルを食べるのがかっこいい、みたいな(笑)。結婚前に初めて奥さんのご両親にごあいさつに伺うときって、何か手土産を持っていくじゃないですか。私の場合、『ヘルシーな人だな』とか『センスがいい』って思ってもらいたくて、ベーグル&ベーグルで買ったベーグルを持っていきました。憧れやステータス性のある食べ物が、当時はベーグルだったんです」(川上社長)
ベーグルへの固定観念が覆された地方イベント
「ベーグル&ベーグル」は、今からさかのぼること21年前、まだ日本でベーグルが流行っていなかった1997年8月に東京・新宿でスタートしたベーグル専門店です。
メイン商品のベーグルの特徴としては、しっとり・もちもちで日本人好みのソフト食感。さらに、原材料は水と小麦粉、練り込み素材のみなので、ローコレステロール、ローオイル、ローカロリー、ローファットと、ヘルシー志向はもちろん、アレルギーで悩んでいる方にも好まれる商品となっています。
ベーグル&ベーグル1号店の出店を皮切りにベーグルブームを引き起こし、30〜40代の女性をメインターゲットに順調に店舗数を拡大。都心の駅ビルやアパレルブランドが軒を連ねるファッションビル、大手百貨店など、超高額賃料の一等地に出店を続けてきました。
また、コンビニでコラボ商品が販売されたり、JALや洞爺湖(とうやこ)サミットの日本国政府専用機での機内食として採用されたりと、日本でベーグル文化を定着させてきたのが「ベーグル&ベーグル」なのです。
そんな「ベーグル&ベーグル」にとって、大きな転換期となる出来事が起こります。それは、2017年11月のことでした。
「ベーグルってやっぱりおしゃれな食べ物で、駅ビルやファッションビルなどじゃないと売れないっていう思いが20年間ずっとあったようなんです。ところが、地方の、しかも駅から離れた場所にあるショッピングモールで催事をする機会があって、『場所が場所だけに、どうせ売れないだろう』と思って出展したら、初日に用意した350個くらいのベーグルが午前中くらいには全部売り切れて……(!)。翌日以降は数を増やして販売した結果、1日1300〜1500個くらいのベーグルが売れたんです。この経験から、駅ビルなどの超一等地以外でもニーズがあるということが分かったんです」(川上社長)
かつてはおしゃれな存在として流行に敏感な人から好まれたベーグル。しかし、急激なベーグルブームが過ぎ去ったあとも人々の日常食として受け入れられるとともに、健康志向の高まりなどから世代や性別を超えて食べられる存在へと変化しているのです。
その結果、それまで抱いていた「超一等地でないとベーグルは売れない」という認識が覆されるとともに、「ベーグル&ベーグル」がずっと悩み続けてきた、“ある問題”も解決できるのではないか——そう仮定するのです。
「じつはベーグル&ベーグルは、フードロスの問題にずっと直面していました。ベーグルが売れる時間は限られている一方で、駅ビルなど商業施設に出店している以上、商業施設が指定する営業時間で営業をしないといけない。さらに、商業施設側からの指導によりショーケースを空っぽにしてはいけないので、閉店間際にもかかわらず、売り捌けるわけのないベーグルを焼いて陳列していました。それにより、フードロスだけでなく、社会の資源である労働力もロスしている。でも、商業施設以外に出店できれば、これらを限りなくゼロに近づけることができると考えたんです」(川上社長)
「ベーグル&ベーグルシティ」が解決する社会問題
駅から離れたショッピングモールで催事を行ったことで、立地に関係なくベーグルの需要があることに気づいた川上社長。しかし、新たな気づきはそれだけではありませんでした。フードロスなど、ベーグル&ベーグルが直面してきた課題を解決できると同時に、社会が直面している大きな問題も解決できるはず——そう考えたのです。
「政府の基本方針に『すべての女性が輝く社会づくり』というのがあります。飲食業界でも人手不足が叫ばれている昨今、どの経営者も人材の確保に苦戦しています。今後、人手不足がより深刻になっていくとも言われていますが、それを解決するために目をつけたのが、地域に眠る女性です。子育て世代や子育てが終わった世代が、地元で活躍できる場を提供することで、働き手にとっても我々事業者にとってもWin-Winの関係が築けると考えました」(川上社長)
そこで、「ベーグル&ベーグル」ひいては社会が直面する課題を解決するため、ロードサイドや住宅街に出店することを想定したビジネスモデルが「ベーグル&ベーグルシティ」なのです。ではいったい、「ベーグル&ベーグル」と「ベーグル&ベーグルシティ」では、立地以外にどのような違いがあるのでしょうか。
「たとえば、ベーグル&ベーグルで販売しているベーグルサンドイッチは提供に人員が必要なだけでなく、ロスリスクがあるのでベーグル&ベーグルシティでは扱わない。その代わり、ベーグルの認知度が高くないエリアでも利用していただけるよう、大衆的に好まれているマフィンやブラウニーを販売するなど、ロスが出にくい商品展開にするとともに、商品構成をシンプルにしています」(川上社長)
また、ベーグルが売れる時間帯のみ営業することで、オペレーションの負荷を軽減することができるのもベーグル&ベーグルシティのメリット。その結果、子育て世代でも働きやすい環境を構築することができ、政府が課題としている問題を解決する一助となることができるのです。
「課題が解決できずにずっとモヤモヤしていたなかで、まずは、一等立地ではないショッピングモールでもニーズがあることに気づきました。そして、駅ビルなどの商業施設ではなくて郊外の路面店に出店し、従来の7時〜21時などといった出店施設に合わせた営業時間ではなく、そのエリアの特性に合わせた時間で営業すれば、女性が働きやすいだけでなく、一気にすべての問題が解決できるビジネスモデルができあがると感じたんです」(川上社長)
ベーグル&ベーグルシティがフランチャイズ展開を開始!
さまざまな思いから完成した「ベーグル&ベーグルシティ」。ベーグル&ベーグルが積み重ねてきた20年分のノウハウを総動員した「姉妹店」という位置付けです。
2018年2月、テストマーケティングの意味も含めて静岡県三島市にオープンした1号店では、オープンそうそう長蛇の列ができるほどの人気ぶり。もちろん、駅ビルなどの商業施設ではなく、大通りに面したロードサイド店です。
「オープン景気で初月などは売上が上がるのは当然。なので、ベーグル&ベーグルの過去のデータから、オープン景気の恩恵を受けるオープン月に対する平常月の落ち込み具合をすべて洗い出しました。その結果、もっとも落ち込んだのが、売上のいい月に対して7割程度でした。それでも十分に損益分岐点は超えていますが、7割程度にとどめることができればビジネスモデルとして成功するだろう、と。その数字が250万円だったんですが、それを1号店が上回り続けたことで、フランチャイズ展開に踏み切りました。標準収支モデルとしてご紹介している売り上げ250万円は、この1号店を含めた直営店の数字を元に計算しています」(川上社長)
その後は、2018年4月に静岡店、9月には沼津店を立て続けにオープン。この後も東京や大阪、徳島など、全国でオープン予定の店舗が待ち構えています。
賃料が高い商業施設などではなく、ロードサイドなど賃料の安い立地でも集客できるので、ランニングコストを抑えられる「ベーグル&ベーグルシティ」。健康志向の高まりによって地方でのニーズも高まっているベーグル&ベーグルが、商業施設を飛び出し、ロードサイドへの出店ということで地域密着が期待できるだけでなく、エリアの特性に合わせて営業時間などを変更するなど市場の変化に対応できるのも大きな特徴です。
もちろん、新たに発見した地方ニーズに答えるため、急速に店舗数を増やすことも視野に入れている川上社長ですが、それとともに、フードロスや「すべての女性が輝く社会づくり」など社会問題を解決するフランチャイズチェーンとして、これからも突き進んでいきます。
※掲載情報は取材当時のものです。