フランチャイズを活用して事業を多角化

「新しい事業をはじめる際は、フランチャイズを活用することが多いですね。初期投資など最初からパッケージとして提示されているのと、未経験でも本部のサポートがあるのではじめやすいんですよね。トライプラスをはじめ、これまで飲食店やゴルフ用品の販売店など、複数のフランチャイズに加盟してきました」(鈴木オーナー)
そう語るのは、6教室の「トライプラス」を運営する鈴木商会の鈴木社長。彼が鈴木商会に入社したのは28歳になる1991年のことでした。
「鈴木商会は祖父が1947年に創業した会社で、私が社長に就任したのは入社して13年目の2004年のこと。もともとは『光太郎商店』という商店で創業し、2代目の父の時代にガソリンスタンドの経営をはじめたんです。入社してから気づいたんですが、当時は利益を度外視して量を売る販売手法でした。ガソリンは原料である原油の価格変動が激しいので、隣の店舗の値段を見ながら販売価格を決めたりしてましたね。経営そのものがどんぶり勘定で、こんなのが経営なのかなって、社長に就任する以前から疑問視していたもんですよ」(鈴木オーナー)
そこで、鈴木オーナーの入社後は、最大7店舗展開していたガソリンスタンドと併行し、フランチャイズを活用して事業の多角化をするとともに、企業として本来あるべき姿を目指すことになるのです。
「古くから所属している社員が働ける場所を提供するとともに、若手社員が意欲を持って働ける職場作りをしたいな、と。いまから20年以上も前の話なので、当時はインターネットではなく分厚い辞書みたいなフランチャイズの本があったんですよ。その本でたまたま見つけたリペア関係のフランチャイズに加盟しました」(鈴木オーナー)
そして1995年、靴のリペア業をフランチャイズに加盟してスタートした鈴木商会。その後は、ゴルフ用品店や、飲食チェーンなど、業種を問わずフランチャイズに加盟。現在ではオリジナルブランドで中古車販売店も立ち上げ、全6業種、15店舗を展開するまで拡大しました。
生徒に勉強を教えるのは、講師に任せればいい

そんな鈴木商会がトライプラスに加盟したのは2011年のこと。そのきっかけとなったのは、日本経済新聞社が主催する国内最大規模のFCイベント「フランチャイズ・ショー」でした。
「いろいろな業種のブースを見てたら、なんとなく、塾っていいなって思ったんですよ。私の時代は『金八先生』の全盛期。生徒から“先生”と呼ばれることに憧れとかがありましたからね(笑)。日本の三大義務の一つである『教育』の部分に携われるのがいいな、と。あと、それまで加盟してきたフランチャイズは、飲食店など開業までに1億近い資金を必要とするチェーンもあったので、塾の開業はそれらに比べると資金を抑えて開業できる。そういうのもあって興味を持ったのが塾経営だったんですよね」(鈴木オーナー)
それまで複数のフランチャイズに加盟してきた鈴木商会でしたが、塾経営は未知の領域……。そこで、あることが疑問点として浮上してきます。それは「教務」の部分でした。
「塾のフランチャイズに加盟するとしても、経営者や教室長が教えられないといけないのか、教えられる先生をどう探して雇ったらいいのか分からない。そこで、フランチャイズ・ショーで見つけたトライプラスに、この2点の疑問を投げかけたんです。すると、『教えるのは講師たちなので、基本的に経営者や教室長は勉強を教えることはありません』という答えをいただいたんです。しかも、トライプラスは『家庭教師のトライ」から生まれた個別指導塾であり、全国に13万人の講師登録者から紹介してもらえるので、講師の採用も問題ない、と」(鈴木オーナー)
その後、東京・浅草でトライプラスを展開しているオーナーのもとを訪れた鈴木オーナー。そこで、すべての疑問が晴れるのです。
「講師の登録が13万人もいるとはいえ、本心としては『ほんまかよ』って思ってたんですよ(笑)。でも、浅草校に行ったら講師希望者の履歴書がたくさんあって、講師の採用が問題ないのは本当だったんだ、と。教務の問題も含め、すべての不安材料がなくなったんですよね。浅草校はご夫婦で経営されているんですが、お二人とも常に笑顔でいらして。実際のオーナーさんがそうやって楽しく、そして誇りを持って経営されていることに魅力を感じたんですよ」(鈴木オーナー
開校からおよそ3年で収益化に成功

そうして、「トライプラス金町校」が開校したのは2011年2月のこと。新学期となる4月に向けて2月に開校し、これから生徒を募集していこうと動きはじめたそのとき、大きな災害に見舞われ、出鼻を挫かれるのです。それは、未曾有の大災害となった「東日本大震災」でした。
「あのころは、電気も消さないといけないくらいの自粛ムードだったので、看板も出せなくて生徒が集まらない。もう一つは私自身の問題ではあるんですが、社長に就任してから無借金になったことで燃え尽き症候群みたいになっていて……。意欲が落ちている状態だったので、金町校の業績が多少悪くても教室長に任せっきりで教室に行くことなんてありませんでしたね」(鈴木オーナー)
外的要因と内的要因が重なり、幸先の悪いスタートとなった「トライプラス金町校」でしたが、それでも収益化するチャンスは大いにあると確信していたという鈴木オーナー。それは、塾経営の収益構造によるものでした。
「塾経営は毎月の授業料が継続的に入ってくるストック型。さらに、夏期講習や冬期講習などスポット的に入ってくる収益もあるので、生徒を増やしてこの両輪をうまく回すことができれば利益が出るな、と」(鈴木オーナー)
開校当初こそマイナス経営でしたが、絶対に利益が出る事業であると確信していた鈴木オーナー。そして、開校からおよそ3年が過ぎたころ、ついに黒字化することに成功します。それは、生徒数を少しずつ増やしたことはもちろんのこと、夏期講習によるスポット収入が最大の要因でした。
「現在、ほかの教室で教室長を勤めているスタッフがいるんですが、彼を金町校の教室長にしたら夏期講習で過去にはない売り上げを記録したんです。もちろん経験はなく、本部から言われたことを忠実に実行しただけなんですけど、そこで黒字化に成功した。生徒数を増やしてスポット収入をしっかり出せば利益が出るな、と。やっぱり間違っていなかったんだと再認識しました」(鈴木オーナー)
教室長を経験したことで感じた塾経営のメリット

開校からおよそ3年で黒字化することに成功した「トライプラス金町校」。その後は、葛飾区と足立区内に計3教室を立て続けに開校していきました。
「2年くらい前に亀有校の教室長が不在になって、私が半年間くらい教室長を勤めたこともありました。生徒のことはもちろん、講師のことすら知らない環境ですし、システムの使い方など慣れない業務で大変でしたが、いい経験になりましたよ(笑)。本当は1教室あたり200人の生徒を集めれば多くの利益が出るのは当然。ですが、教室長を経験したことで、それは物理的に難しいということが分かりました。会社としては人材教育を目的としていますが、とはいっても利益を疎かにするわけにもいきません。人材が育っても会社が潰れてしまったら終わりなので、そういう意味で1教室あたり2800万円という目標値を設定しています」(鈴木オーナー)
慣れないながらも教室長として勤め上げられたのは、塾経営の大きなメリットでもあると鈴木オーナーは続けます。
「飲食店やゴルフ用品の販売店などの場合、業務に慣れるまでにある程度の期間が必要。スタッフに対して料理や用具の特徴など、いわゆる専門知識を教えないといけない。でも、塾経営の場合は勉強を教えるのは講師たち。基本的な考え方や教え方は伝えますが、実際の指導内容については、それまでその講師が学校で習ってきた知識や勉強の仕方を元に生徒に教えるので、細かい部分は全部講師たちに任せられるんですよ」(鈴木オーナー)
教室長としての半年間をなんとか乗り切った鈴木オーナー。その後の2017年にも5教室目、6教室目を開校させていったのです。もちろん、その間にも新規事業を立ち上げたり他の事業を拡大したり、会社の拡大にも成功しているといいます。また、これまで7年ほど教育事業に携わったなかで感じるのは、少子高齢化の影響をほとんど受けていないということ。
「少子高齢化とはよく言いますが、人口が1億人を切るのは2050年が過ぎてからでしょうからね。まだまだ先の話ですし、大学の進学率が年々減ってきているかといったらそういうわけでもない。むしろ、供給量が増していくことのほうが心配。でも、競合のなかでもトライプラスが一番強いんじゃないですか。だって、誰もがトライさんのCMって見たことがあるじゃないですか。知名度があるので、告知をすれば生徒が集まりますからね」(鈴木オーナー)
未経験で始めた塾経営も、現在は6教室を展開するまでに成長。今後は10教室まで拡大していくことを見据えています。さらに、他の事業も拡大していくことで、彼が60歳を迎えるまでの残りの4年間で全6業種、21店舗まで拡大することを目指し、これからも突き進みます。
※掲載情報は取材当時のものです。