30年以上パンに関わってきた職人が手がける日常食としての食パン
「昔はお米屋さんなんてどこにでもありましたが、食生活が米からパンに変化し、お米屋さんが衰退していきました。その代わりを担うのが食ぱん道の食パンなんです」(高橋社長)
そう話すのは、焼きたて食パン専門店「食ぱん道」の高橋社長。彼がパンの世界に足を踏み入れたのは、いまから30年以上も前のこと。1985年までさかのぼります。
「パン作りの経験はなかったんですが、長野県の白馬村でパン屋をオープンしたんです。今となっては当たり前ですが、当時は冷凍生地なんてなくて、10年近く経験を積まないとパン屋にはなれませんでした。なので、パン職人ではなく冷凍食品専門の人に理論から聞いて冷凍パン生地を作ったんです。白馬村は人口が4800人くらいしかいなかったんですが、1週間で述べ1万人くらいの方にご来店いただきました。毎日、足を運んでくれるお客さんなんかもいらっしゃいましたね」(高橋社長)
機械いじりが得意だという高橋社長は、冷凍生地が保存できる機械を開発するなど、誰もがおいしいパンを焼ける環境を整えると、1990年に「ブーランジェリー横浜」のチェーン展開をスタートさせます。その後、4年で25店舗、最大で50店舗近くまで拡大。また、1997年に開催された「長野冬季オリンピック」では、ヨーロッパ各国の選手にパンを提供するなど、パン職人としての才能を遺憾なく発揮してみせるのです。
「オリンピックなんてもう20年以上も前のことですけどね。フランス大使館から『パンにこだわりがあるフランスとドイツ、オーストリアの3国の選手にパンを提供してくれ』って依頼をいただいたんですよ。このときに金メダルを獲得したオーストリアの選手にも食べてもらったのは、いい思い出ですね」(高橋社長)
さらに、職人としてだけではなくパン屋のコンサルタントとしても活躍している高橋社長。これまで手掛けたパン屋は、実に500店舗以上にのぼるそうです。
「パン屋のオープンはものすごく関わっています。日本国内はもちろんですが、韓国や中国でもパン屋をオープンしてるので、500店舗どころじゃないかもしれませんね。ちなみに、韓国でカレーパンを最初に販売したのは私なんですよ」(高橋社長)
食パン専門店に携わるきっかけとなった大手パン屋
そんな高橋社長が食パンに関わるきっかけとなったのが、大手の食パン専門店です。
「大手食パン専門店の役員に就任し、材料の仕入れなどで携わったのが始まりですね。当時、パン屋は10年以上の経験が必要な職人の仕事だったんですが、商品を食パンだけにすることで素人でも10日や2週間でできるパッケージに魅力を感じました。7坪の小さいお店で1日の売り上げが10万円を超えるかっていうのが一番の壁だったんですけど、オープンしてみたら10万円を超えていて。それ以前から食パンが売れるのは把握していたので、食パン専門店の需要の高さを確信しましたね」(高橋社長)
食卓を彩るパンは、若者からシニアまで幅広い層に愛される食べ物として人気を得ています。なかでも圧倒的なシェアを誇るのが「食パン」です。
「昔、50店舗くらいまで拡大したチェーンをやっていた時も、全体の売り上げの3割くらいを占めていたのは食パンでした。スーパーなんかだと6割が食パン。圧倒的に食パンのシェア率が高いんです」(高橋社長)
しかし、パン屋に行くと、食パンだけでなくクリームパンやクロワッサンなんかもついつい買って、2000円近くいってしまった……そんな経験をした方も少なくないのではないでしょうか。
「あれは客単価をあげるためのパン屋の戦略なんです。入り口の近くに食パンがあると、食パンだけを買って帰ってしまう。なので、食パン以外のいろいろなパンを買ってもらえるような店内レイアウトにしてるんです。すると消費者はパン屋から足を遠ざけ、スーパーなどで食パンを買うようになる。食パンを買う人の6割はスーパーやコンビニなどで買ってるっていう統計も出てるんです」(高橋社長)
スーパーよりも100円程度多く払うだけで焼きたての食パンを食べられることから、当時はほとんどなかった食パン専門店は多くの行列を作るようになったのです。
食ぱん道で扱うのは、耳までおいしいではなく、耳がおいしい食パン
その後、自ら食パン専門店を展開するべく、2016年12月に高橋社長が新しく立ち上げたブランドが「食ぱん道」でした。食パンのおいしさにこだわる高橋社長が手がける食ぱん道で扱うのは、中はふわふわしていて、耳“が”おいしい食パンです。
「耳までおいしいじゃなくて、耳が一番おいしいんですよ。しかも、噛めば噛むほど甘みが増します。甘い=おいしい食パンというだけなら、砂糖を増やせばいいんです。でも、それではご飯に代わる食パンとはなりません。ご飯は噛めば噛むほど甘さが出てくるように、パンにも同じことが言える、それが本当の甘さ=おいしさなんですよ。それは国産小麦100%なのはもちろん、一等粉や二等粉などいろいろランクがあるなかでも一番いいものを使ってるからです。食べたらすぐにわかっていただけるはずですよ」(高橋社長)
そんな食パンを、「食ぱん道」では一斤290円から販売。確かに、スーパーやコンビニなどで100円や150円で買うよりは高額かもしれませんが、普段遣いとして決して手が出ない値段ではないのも「食ぱん道」の特徴のひとつ。
「グラムあたりの値段は普通の食パンとほとんど変わりません。というのも、一般的な食パン一斤が340グラムなのに対し、食ぱん道の食パンは500グラムあり、一般的な食パンのおよそ1.5倍のボリュームがあるんです。だからこそ日常食として受け入れていただけます。値段が高いだけだったら、非日常食になってしまいますからね」(高橋社長)
最近では健康志向の高まりから、全粒粉をブレンドした食パンも人気だという高橋社長。日常的に食べられるためには、健康への配慮もスルーできない部分なのです。
「米でいう玄米ですよね。定食屋の大戸屋の場合、白米よりも五穀ご飯の注文のほうが多いらしいんです。でも、10年前は2割くらいしかいなかった。そういう意味では全粒粉をブレンドした食パンというのも、パンのくくりでは時期として少し早い気がしますが、いまから取り扱っているっていうのが重要だと感じています」(高橋社長)
食パン文化を根付かせるためのカフェ
1号店である「食ぱん道 新宿本店」が誕生しておよそ3年半。現在は、北は宮城県から南は広島県まで、直営店を含めて14店舗まで拡大しました(2019年5月現在)。
そのうちのいくつかは、カフェを併設した店舗を展開しています。食パン専門店でありながらカフェを併設しているのは、ある思いがあったからでした。
「いまはインスタ映えなどのファッション的要素が強い高級路線の食パン専門店が増えています。もちろんそういった食パンも非日常的な要素を含み人気はありますが、果たしてお客さんが毎日買い続けることができるのかっていう問題もあって……。パン文化はもちろん、パンの食べ方を提唱する事業も併走させていかないといけないと思いました」(高橋社長)
これまで人々が日常的に食べてきた食パンの食べ方を提唱するというのは、いったいどういうことなのでしょうか。
「たとえば『こうやって食べれば食パンをよりおいしく食べられる』みたいなことですね。パンブームとはいえ、食パンにはジャムといったイメージが強く、まだまだおいしい食べ方を知らない人が多い。そのためにもカフェを併設し、食パンとともにスープなどのメニューも提供しています。そうやって食パンをおいしく食べる文化を作っていかないといけない。こういう文化は誰かが育てていかないといけないんですが、それを弊社が担っていこう、と。かなり泥臭い戦いにはなりますけどね」(高橋社長)
パンブーム真っ只中の現在ですが、高橋社長いわく、2019年の12月から2020年の3月ころに食パン専門店の数がピークを迎えると予想しています。
「おそらくですが、いまの10倍くらいに増えるんじゃないですかね。そのぶん競争が激しくなりますが、最後に残るのは商品のクオリティが高いうえに日常的に使える食パン屋だと思っています。あとは、こうやってカフェを併設しているところ。というのも、カフェを利用するお客さんのほとんどは、帰りに食パンを買っていく。品質とおいしさは食べてもらえればすぐわかるので、美味しかったから買って帰ろうという感じです」(高橋社長)
おいしいうえに安くて体にもいい「食ぱん道」の食パン。これから訪れるであろう、熾烈なイス取り競争にも勝ち残れるほどの品質、おいしさ、カフェ併設といった要素を武器に、2年以内に50店舗展開を目標に着実にシェアを伸ばしていきます。
※掲載情報は取材当時のものです。