「複業」で将来への不安を払拭
「いまの時代、会社に勤めててもいつまで働けるか分からないですし、退職金もよっぽどのことがない限り期待できない。老後の資金だって潤沢にあるわけでもなければ、年金だっていつもらえるか分からないですよね……。だからといって、60歳とか65歳で定年になってからなにか新しいことをはじめようと思ってもなかなか難しい。であれば、いまのうちに準備しておこうと思ったのが、食ぱん道に加盟したきっかけです」(高橋さん)
厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、副業解禁を推進してからおよそ1年の月日が流れました。さらに、2019年4月に「働き方改革関連法」が施工され、6月にはみずほフィナンシャルグループが副業を認める考えを示すなど、今後も副業への関心がより高まっていくことはいうまでもありません。
そして、新しい働き方のひとつとして、「複業」という言葉があるのをご存じでしょうか。「兼業」や「パラレルキャリア」とも称される複業は、その言葉通り、複数の仕事をかけもちしている状態です。
「副業」を本業のほかにサブとしておこなっている仕事とすると、「複業」は業務に序列をつけず、要する労力や時間、収入の観点で、すべて本業として複数の仕事を同時にこなす状態を指します。終身雇用や年功序列などといった従来の働き方の概念がなくなりつつある昨今、注目を浴びている働き方のひとつです。
そんな複業を現実のものとしたのが、このストーリーの主役でもあり、「食ぱん道 鶴巻南店(神奈川県)」のオーナー業務も務める高橋さんです。
「一応、オーナーの業務は私がしているんですが、会社には内緒でやってるので、店長である妻の名義で食ぱん道のフランチャイズに加盟しました」(高橋さん)
家族全員で運営する飲食店に食パン専門店を選択
普段は、食品関係の営業パーソンとして会社勤めをしている高橋さん。そんな彼が複業を検討しはじめたのはもう何年も前のことでした。
「漠然とした将来への不安ですね。会社にすがるのが嫌で、『明日から来なくていいよ』って言われても『わかりました』って言いたいなって。店長を務めるうちの妻と娘が調理師免許を持っていて、いま、お店でパンを焼いている娘が製菓の国家資格を持っているんですよ。わたしも食品関係の会社で、経営に近いポジションの仕事をさせてもらってることもあり、『いつか飲食店をやりたいね』って話をしてたんですよ」(高橋さん)
そんな彼に人生の大きな転機が訪れます。それは、食ぱん道の高橋代表との出会いでした。
「会社員の仕事のほうで高橋代表とたまたま知り合ったんです。その際、『食ぱん道』っていうフランチャイズを展開していることを聞いて興味を持ったのがはじまりですね」(高橋さん)
家族で飲食店を経営したいと考えていた高橋さんにとってタイムリーな話題。とはいえ、飲食店ならなんでもいいと考えていたわけではありません。食パンを専門に展開する「食ぱん道」だからこそ、彼は大いに興味を持ったのです。
「いま、ごはんからパンに食生活が変化しています。勤めている会社が和食をメインに展開しているメーカーなので、そういった変化をかなり前から感じていたんですよね。年々、食生活がごはんからパンに移っていってるのは間違いありません」(高橋さん)
こういった思いから「食ぱん道」への加盟を前向きに検討したという高橋さん。加盟前には有名な食パン専門店にも数多く足を運び、食パンの需要を再確認します。しかし、店舗を構えようと考えてた場所は、パン屋が5件もある激戦区……。一般的には競合が集まる場所に出店したくないと考えますが、逆に高橋さんはこれが加盟するきっかけにもなったといいます。
「そもそも、近くに競合となる店舗があったほうがいいんですよ。パンを食べる人が周辺にたくさんいるということなので、食パン専門店をオープンすればお客さんも来る。しかも、近くのパン屋さんは菓子パンがメインですが、『食ぱん道』は食パンの専門店なので差別化できます。これはイケるぞって思いました」(高橋さん)
オープン景気後は猛暑により売り上げが激減
49歳にしてサラリーマンと『食ぱん道』のオーナーという複業を現実のものとした高橋さん。「もう50歳になるし……」などといった年齢を理由に新たなチャレンジをできない人が多くいる一方で、49歳という年齢は複業をスタートする大きな要因になったと続けます。
「49歳の終わりごろに加盟したんですが、たとえ事業が失敗したとしても、いまならまだ借金を返済できますからね。しかも、食ぱん道はオリジナルのメニューを提供できるなど、パン以外のことはある程度自由が効くので失敗しにくいと思いました。自分で店舗を持つとはいえ、本部のがんじがらめでは、事業をする意味がないですからね」(高橋さん)
そうして、初のカフェ併設1号店「食ぱん道 鶴巻南店」がオープンしたのは2017年12月1日のこと。オープンから3ヶ月間は「食パンって本当に売れるんだ」「こんなに売れていいのかな?」と思うほどで、月間240〜250万円の売り上げを記録するのです。
もともと食ぱん道は、月間150万円くらいの売り上げを想定してフランチャイズ展開がされた事業です。高橋さん自身、「1日の売り上げが10万円もいくなんて想像してなかった」と振り返ります。
ちなみに、食パンを焼くこと自体は、素人でもできるのが食ぱん道の強み。独自の研修とマニュアルに添えば、未経験でも安定した品質の食パンを提供できるのです。事実、高橋さんはこれまでパンを焼いたことすらないど素人。それでもこれだけの売り上げを記録できたのは、食ぱん道がこれまで積み重ねて来たノウハウなどがあるから——。
しかし、その好調もオープン景気の賜物で、その数ヶ月後には嘘のように売り上げがガクンと落ちてしまうのです。
「2018年の夏は暑かったこともあり、200万円くらいに落ち込んじゃったんです。自分の貯金も使わないといけないくらいになって『これはまずい』なって。人件費を削減するとかしないとかで店長とは毎日喧嘩しましたね(笑)。パンだけならスタッフ2人、カフェ併設なら3人必要で、カフェできちんと売り上げを取るには3人必要なんです。問題点を割り出して、どうしたらお客さんに来てもらえるのか、自分でいろいろ試行錯誤しました」(高橋さん)
そこで、夏の暑さもやわらぐジェラートを販売したり、地域のお祭りなどには必ず出店をしたり。攻めの姿勢でどんどん新しい施策を打ち出すことで、売り上げが少しずつ回復していくのです。
「ジェラートは利益をあげることが目的ではないんです。やっぱり、常に新しいことをしていないといけない。お店がマンネリ化しちゃうと、お客さまからも『やる気のない店だな』って思われちゃいますからね。来るたびに何か違うことをやってたら、お客さんとしても楽しみがある。パンを買ってもらうためのツールの一つですね。いまは土日限定や月替わりの食パンも提供しています。おいしいものを提供しつつ、コツコツ積み重ねていくしかないんです」(高橋さん)
カフェはパンを買ってもらうためのきっかけのひとつ
こういった打開策を打てるのも、オーナーにある程度の裁量を持たせている「食ぱん道」のメリットのひとつ。高橋さんのように経営者として、自身で試行錯誤したい加盟オーナーには最適なのです。
「本部から決められたことだけをしていたら、結局のところ立地勝負みたいなところがある。地域性もあるので、いくら本部から『これはもう取り扱えませんよ』って言われても、ある地域では売れたりしますから。それに、言われたことだけをやって売り上げが落ちても責任なんて取ってくれませんからね。『食ぱん道』はフランチャイズとはいえ、自分の裁量でいろいろなことを試せるので、トライアンドエラーを繰り返しながら経営するのが楽しいです」(高橋さん)
さまざまな試行錯誤の結果、2019年2月には28日しかないにもかかわらず、これまでにない最高の売り上げを記録するなど、順調をキープしている「食ぱん道 鶴巻南店」。順調な理由のひとつに、カフェを併設している点も忘れてはなりません。
「食ぱん道は直営も含めて14店舗あるんですが、うちの店舗はカフェ併設の第一号店なんです。カフェを併設することで、カフェ利用でご来店いただいたお客さんが帰り際にほぼ確実に食パンを買って帰ってくれる。カフェで利益を取ろうというよりは、いわば、パンを買ってもらうためのひとつのツールですね」(高橋さん)
まだオープンから1年半しか経っていませんが、すでに2号店、3号店といった複数店舗展開を計画している高橋さん。現役サラリーマンでありながら複業としてオーナーを務め、どんな状態でも攻めの姿勢でチャレンジしている彼なら、そうそうに達成してくれることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。