フィットネス事業で2度目の起業
“運動はしたいけどジムは通いにくいと思っている人に利用してほしい”——株式会社スマートフィットネスが展開する「スマートフィット100」は、創業者である丹野代表のそんな思いから2016年に誕生しました。
もともと独立志向のあった彼は、今から27年ほど前、24歳のときに書籍やゲームソフト、CDを中心としたリユース事業で起業。その後、70店舗ほどまで展開するなど、順調に会社を拡大させていきます。しかし、ある“モノ”が急激に普及したことで、業績が次第に落ち込み始めます……。それは、いまでは当たり前となったインターネットでした。
「創業当時はニッチで他の人が手を付けない、かつこれから伸びていく事業で起業しようとリユース事業で独立しました。しばらくは順調だったんですが、ネットが普及してから下火になっていって……。スマートフォンが一般化してきたことで、実店舗に行かなくてもなんでも買えるようになると、さらに悪化してしまいました」(丹野代表)
その後、スマホで遊べるソーシャルゲームのアプリを開発するなど、メーカー側に転じようと試みた丹野代表でしたが、うまく軌道に乗せることはできず……。早々にソーシャルゲーム事業には見切りをつけ、今度はリユース事業を横展開しようと試みたものの時すでに遅し……。
「いったい俺は、どうしたらいいんだ——?」
時代の移り変わりにはかなわず、リユース事業を当時の従業員に譲り、新たな事業を模索していた丹野代表。そこで、27年間も身を置いたリユース事業に見切りをつけ、次なる主戦場として狙いを定めたのがフィットネス業界でした。なぜ、リユース業界からフィットネス業界へ転身しようとしたのか。その背景には、日本のフィットネス業界の特殊な構造が関係していました。
コンセプトは「もっと手軽に、もっと身近に、もっと安価に」
直営1号店でもある「スマートフィット100浦安店(千葉県)」が産声をあげたのは2015年のこと。当時、日本のフィットネスクラブ会員数は、全人口の2パーセントにも達していない一方で、アメリカでは20パーセント近く、ヨーロッパ諸国でも12パーセントにおよぶなど、世界的に見ると日本のフィットネス人口は極端に低かったのです。
「いまも変わってないんですが、世界的にみると、日本が極端に少ないんです。理由はさまざまありますが、日本におけるフィットネスジムは、入会金が10万円くらいと高く、お金持ちの娯楽みたいな側面がありました。その結果、若い人たちは通いたくても通えない。実際、地方では高齢者がスーパー銭湯代わりにフィットネスジムでお風呂とサウナだけを使うために通うなど、本来の目的ではない使い方をしている方たちが非常に多いんですよね」(丹野代表)
「潜在的にジムに通いたい層は、日本にもまだまだいるはずだ——」
もともと体を鍛えるのが好きだったという丹野代表。潜在層となる若い人をメインターゲットにするとともに、自身の経験をもとに、「こんなフィットネスジムがあったらいいな」という要望を満たしたフィットネスジムの実現に向けて動き出すのです。
「まずは、『スマートフィット100』の大きな特徴でもあるリーズナブルな料金体系。当時、月額1万円ほどが主流だったフィットネスジムにおいて、月額6500円という金額に設定しました。また、営業時間が短くて若い人たちが行きにくいという問題を解消するために、24時間利用できるだけでなく、トレーニングシューズに履き替えなくても土足でジムに入れるなど、『もっと手軽に、もっと身近に、もっと安価に』をコンセプトとして打ち出しました」(丹野代表)
すると、オープン早々に多くの会員を獲得。オープン後もブラッシュアップを続け、早朝から夕方の、いわゆるアイドルタイムといわれる時間帯に月額3000円のプランを設けると、オープン前は「700人も会員になれば十分」と想定していたところ、1年ほどで1100〜1200人を超える会員数に達します。
「このビジネスのいいところは、基本的にマシンを各自で使っていただくジムなので、会員数が増えてもそれに伴いスタッフを増やす必要がないところ。ですので、会員が増えれば増えるほど、ストック的に収益が上がるビジネスモデルなんです」(丹野代表)
その後、1号店のオープンから1年半ほどで直営店を4店舗まで拡大。そして、フランチャイズ展開へと舵を切り始めると、「スマートフィット100」の快進撃がここから始まるのです。
フランチャイズ展開から1年半で24店舗をオープン
1号店のオープンから1年半ほどでフランチャイズ展開に踏み切った丹野代表。彼がこのタイミングで決断したのには、過去の経験が大きく関係していました。
「リユース事業を経営していた時はすべて直営店で展開していたので、70店舗まで増やすのに10年も時間を費やしてしまって……。より早く点から線に、線から面を取っていくには、スピードを重要視しないといけないなと思っていました。というのも、たとえばオリンピックで金メダルを取った選手は覚えてるけど、銀メダルの選手ってあまり覚えてないですよね。それと一緒で、より早く店舗展開をし、面を取ってナンバー1にならないといけないからです」(丹野代表)
そうして、2018年1月にフランチャイズ1号店となる「スマートフィット100柏店(千葉県)」がオープン。その後もどんどん店舗数を増やし、フランチャイズ展開からわずか1年半で、北は宮城から南は広島まで24店舗ものオープンにこぎつけます。近々オープン予定の店舗を入れると、実に30店舗にものぼるなど、他を上回るスピードで拡大を続けています。
「メガフランチャイジーはもちろんですが、不動産系ベンチャーやデザイン会社など、新規事業として異業種からフランチャイズ加盟する法人さんが多いですね。なかには、税理士事務所が加盟したケースもあって、『スマ100』の加盟検討者から融資の相談を何件も受けるので、『そんなに儲かるなら自社でやってみたい』と加盟していただいたんです(笑)」(丹野代表)
従来の大手24時間営業の小型フィットネスジムだと初期投資額は8000万円〜1億円が一般的。しかし、「スマートフィット100」の場合は機材の導入などを工夫することでおよそ6500万円と、ほかよりも比較的初期投資額を抑えています。とはいえ、それなりの金額を必要とすることからも法人の加盟がほとんどというのも特徴のひとつです。
「オーナーは加盟後に3時間ほどの本部研修に参加していただきます。その後は、オープンまでに必要な人材の募集や、店舗デザインなどの最終承認などがあります。ただ、実際にオープンしてしまえば店舗に入る必要はなく、労務管理やマネジメントなどをする程度。なかには、数ヶ月もの間、店舗を訪れていないオーナー様もいらっしゃいます(笑)。もちろん、フィットネスジム運営の知識はあったほうがいいかもしれませんが、それよりもホスピタリティ精神が重要な業界。なので、知識は二の次、未経験でも問題ないんです」(丹野代表)
人手不足が叫ばれる昨今ですが、その心配もほとんどないのがフィットネス業界の大きなメリットなのです。
「もともとコンビニを経営している加盟店さんは、コンビニとスマートフィット100の求人を同時に出したところ、コンビニには2人しか応募が来なかったのに、スマートフィット100には60人も応募が来たそうです。スポーツ業界で働きたくても働けなかった方たちも多いので、人手不足の心配をしなくていいんですよね」(丹野代表)
その理由としては、スポーツ業界のクリーンなイメージが一役買っているだけでなく、これまで間口が狭く働きたくても働けなかった層が潜んでいるから。また、スマートフィット100のホワイトな労働環境にも起因しているのです。
「スマ100の店舗自体は365日24時間営業ですが、スタッフが店にいるのは日中だけなので、週休2日で基本的に残業はありません。年末年始やお盆もスタッフ不在の日にしているので長期休みも取れますし、働きやすい労働環境なんですよね。仕事自体は難しくなく、一番必要なのは明るくあいさつができることだけで、未経験でも研修でパーソナルトレーナーを目指せます。こういった理由で集まりやすいんですが、なかには集まらなかった店舗もあって……。その理由をのちほど分析したら最低賃金で募集をかけていたようで、そりゃ応募も来ないよなって納得でしたね」(丹野代表)
ちなみに、どこの店舗も会員数は軒並み順調。スマートフィット100はオープン月に会員数400人が目標で、翌月には500人、半年で1000人を目標としています。しかし、早いところだと、3ヶ月くらいで1000人を超える店舗もあるといいます。
物件にもよりますが損益分岐点がおよそ500人とするなか、これだけ順調に会員数を集められている要因はいったいどこにあるのでしょうか。
「きっかけじゃないですかね。今まで通いたくても通えなかった若い層や女性が、近くにフィットネスジムができたから通う。なかでも『スマートフィット100』が選ばれているのは、ほかとの差別化がはっきりしているからなんです。たとえば、競合は上級者をターゲットとしているなか、デザインや器具などにおいて初心者や中級者をターゲットとしたり、ハードルを下げるために筋肉むきむきの男性が載ったポスターをあえて貼らなかったり。また、アイドルタイムを圧倒的低価格にして集客する“二毛作ビジネス”が身を結んでいるんだと思います」(丹野代表)
最近ではマッチョになりたいわけではなく、健康のためにランニングや軽い筋トレなどの運動ができるジムの需要が高いため、初心者や中級者に特化してハードルを下げることで会員を集めているといいます。
フィットネス業界の価格競争を見据え、ふたつの改革を実施
これまで、ダイエットをしたり体を鍛えるたりするために通うところといったら、プールやスタジオなども完備されている大型のフィットネスジムが一般的でした。しかし、2010年ころに気軽に利用できる24時間営業・年中無休の「小型フィットネスジム」が日本に上陸すると、その勢力図は一変します。
その後、多いチェーンでは500店舗にものぼり、大型フィットネスジムを圧倒するほどの勢いまで進化。ここ数年、一気に市場が拡大している新しい形のフィットネスジムなのです。
「スマートフィット100」も、小型フィットネスジムのひとつ。現在でこそ、直営店を含めて30店舗ほどですが、3年後には店舗数ナンバー1を目指して鋭意拡大中です。
「いまは、店舗数だけでいくと4番手か5番手ですが、間違いなく3年でトップに追いつき、5年で抜き去る計画を立てています。この先5年後を考えると、フィットネス業界は価格競争になると見据えていて、価格以外の点で競合と圧倒的に差をつけるためにも、今後大きく2つの改革を実行する予定で動いています」(丹野代表)
まずは、「ジムのレイアウト変更」です。通常、24時間営業の小型フィットネスの場合、最低限の接客が一般的。ターゲットとなる若い層は、器具を使ってひとりで黙々とトレーニングしたいから、というのが理由です。そのため、スタッフはスタッフルームに閉じこもって事務作業をしていることも珍しくありません。しかし、これで本当にいいのでしょうか?
「じつは良くないんですよ。というのも、マシンの使い方が分からずに飽きて退会する方がとても多いんです。会員の方としては、『使い方を聞きたいけど、スタッフルームにいるし……』という感じでなかなか聞きにいきづらい。なので、2019年の秋からはスタッフルームを廃止する流れで進めています。会員さんのことが常に視界に入る場所で事務仕事をすれば、何か困っている際に手を差し伸べられて、こういった理由で退会する会員さんを防げますからね」(丹野代表)
ふたつ目は、「トレーニングプログラムの提供」です。なかには、トレーニングを続けても結果が出ずに退会する会員も多いという現状を打破するため、今後は324にものぼるトレーニングプログラムを提供していこうと取り組んでいます。
「性別、年齢、目的、種目に合わせて多数のプログラムをご提案する予定です。レイアウト変更とも相まって、より効果を出していただくとともに、退会する会員さんも減ると考えています」(丹野代表)
これから巻き起こる熾烈なイス取りゲームにも、ホスピタリティを第一としたスマートフィット100なら、価格競争になっても負けないソフト面の改革による差別化との相乗効果により勝ち抜けることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。