「格安スマホ(MVNO)」が日本で浸透していない状態からスタート
みなさんは「MVNO」という言葉を聞いたことがありますか?
大手キャリアなどから、携帯電話やスマートフォンの通信インフラを借り受けて、キャリアのように通信サービスを提供する「Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)」の略語です。携帯電話の料金を大手キャリアの半分や3分の1に削減できることから、「格安スマホ」とも呼ばれています。
木野は、2013年10月に「エックスモバイル株式会社」を設立。モバイル業界のLCC(Low Cost Carrer)をコンセプトに、大手キャリアが独占状態を貫く日本の通信業界を変えたい一心で、格安スマホ(MVNO)事業をスタートさせました。
しかし、事業スタートと同時に、ある大きな壁が木野の前に立ちはだかります。それは、格安スマホ(MVNO)事業を展開するにあたり必要不可欠な「通信インフラ」がないこと。
2018年度中には契約数が1000万件を突破(※参考)すると言われているなど、近年、著しい成長を遂げている格安スマホ(MVNO)ですが、当時の日本での認知度はほぼゼロに近い状態……。まずは、通信インフラを確保するところから奔走することになるのです。
「最初は大手キャリアに直接懇願しましたが、結果は言うまでもなく門前払い……。諦めて総務省に行ったんですが、同じく聞く耳すら持ってくれない。ここで諦めてはいけないと思い、20回くらい総務省に足を運んだら、通信会社をいくつか紹介してくれたんです。今度はそこに行って『これからは格安スマホの時代、モバイルのLCCが当たり前になる!』とプレゼンさせてもらいました。そうしたらSIMを卸してくれることになったんです」(木野)
8億円あった資金が800円!? 赤字続きで窮地に立たされても走り続ける
やっとの思いでSIMを確保した木野でしたが、携帯電話の端末がないと意味がありません……。つまり、ソフトはあってもハードがない状態。人間でいうと心臓だけを手に入れたようなものです。息つく暇もなく、SIMフリー用の携帯端末を入手するために駆け回ることになります。
「当時の日本にはSIMフリーの端末自体が存在しないので、海外から輸入しようと思ったんです。しかし、輸入したものを国内で販売できるSIMフリー端末はごく限られたものだけで……。致し方なく香港やマレーシアでiPhoneやiPadを買い付けたり、国内で中古のSIMフリー端末を揃えたりするなど、何とか掻き集めました」(木野)
やっとの思いでSIMと携帯電話の端末を用意するものの、木野が挑む壮大なプロジェクトはまだスタートしたばかり。基盤となるシステム部分を外部に依頼しますが、ここにも大きな落とし穴があったのです(!)。
「発注してからぜんぜん納品されないと思ったら、そのまま飛ばれちゃって……。1億円という金額を支払っていたので、目の前が真っ暗になりました」(木野)
その後、別の制作会社にシステムを発注。何とか事業をスタートさせた木野でしたが、その後も苦難が続きます……。
「当時はほとんど売り上げもなければ、システム不具合でその売り上げも回収できない状態で、毎月およそ5千万円の赤字が続いていました。設立後になんとか集めた会社の資金はどんどん減っていって、当初8億円あった資金は800円しかなくなったこともありましたね(笑)。ガラスを飲み込むような毎日でした」(木野)
通常の代理店本部であれば、撤退を余儀なくされても不自然ではない状態です。そんな絶体絶命の窮地に立たされる木野ですが、その後もあることをモチベーションにひたすら走り続けることになるのです。
さまざまな試行錯誤を重ねて、ようやく見えてきた「黒字」の2文字
撤退する選択肢を一切持たずにここまで続けてこられたのは、仲間である全国の加盟店さんがいたから。そう木野は続けます。
「一喜一憂している暇なんてないんですが、毎月数千万の赤字があるので少なからず辛かったりするじゃないですか。でも、加盟店さんがみなさんいい方たちなんですよ。『一緒にがんばりましょう!』『こんなに契約取れました!』『黒字になりました!』などと声を掛けてくださるんです。僕を信じて加盟してくださっているので、この方たちと一緒に成功したい。それがモチベーションで今まで続けてこられたようなものです」(木野)
木野の野望は、モバイルのLCCで日本の通信業界を変えること。そのためにも、赤字覚悟でさまざまな試行錯誤を繰り返します。すべて、ユーザーはもちろん、加盟店さんのことを思ったチャレンジです。
「かけ放題をはじめとした料金プランはいろいろ試しました。海外のMVNOでは当たり前のことを、『エックスモバイル』に導入するにはどうしたらいいか、と。日本の大手キャリアなどでよくあるのは、全部まとめて月額いくらとかじゃないですか。でも、アメリカのMVNOは、音声通話やデータ通信量、ショートメールの送信量など、料金プランを自分でカスタマイズできるんです。しかも、途中で『データ通信量を増やしたい』と思ったらマイページですぐに変えられる。こういう仕組みがユーザーにとって無駄がないし、なにより加盟店さんもプレゼンしやすいですからね」(木野)
こうして2017年、ようやく黒字が目前に迫ってきた「エックスモバイル」。事業スタートから実に2年半が経過したときでした。
「エックスモバイル」を格安スマホNo.1のキャリアにするためにひたすら走り続ける
「2年で加盟店さんが250社を超え、今は毎月100件以上にものぼる加盟の問い合わせをいただきます。設立当初とはだいぶ状況も変わってきました。今は売り上げも回線数も右肩上がりで伸びていますし、当社に出資をしたいといった話も出てくるようになりました」(木野)
エックスモバイルが設立されてから怒涛の4年が経とうとしている現在、当社はひとつの大きな目標を掲げています。それは、格安スマホ(MVNO)業界で「エックスモバイル」をナンバー1のキャリアにすること。
「10年や20年という長い期間を要するかもしれませんし、逆に3年で済んでしまうかもしれません。いずれにせよ、1日でも早くナンバー1の座に輝くためにも、全国の加盟店さんと二人三脚で取り組んでいくしかありません」(木野)
LINEモバイルや楽天モバイルなど後発の参入もありますが、それはMVNOに対する世間の認知が高まってきている証拠。全国に250の加盟店さんを擁する当社の強みは、対面販売によってお客様とフェイストゥーフェイスの信頼関係が構築できること。そのためにも、加盟店さんがより販売しやすい状態を作り上げることで、格安スマホ(MVNO)業界でナンバー1になるのも可能である。木野はそう確信しています。
「私自身まだまだ30代ということで、この先、何十年も突っ走れる環境が整っています。40歳、50歳、60歳になった時、『20年、30年前はあんなことありましたね』と、加盟店さんと笑って話せるような一生涯の関係性を作りたいんです。そうすれば、気がついたらナンバー1になってるはずです」(木野)
とはいえ、彼の挑戦はまだまだスタートしたばかりです。
まだ、日本では格安スマホ(MVNO)が浸透していない状態でスタートラインに立ったエックスモバイル。毎月の携帯代が高くて困っている方に笑顔を届けるため、そして誰もが安心して当たり前にインターネットを利用できる世界を作り上げるために、今後もひたすら走り続けます。
※参照:2016年度上期 携帯電話端末出荷と契約数の推移・予測
https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=204
※本記事の前編はコチラ
【エックスモバイル創業秘話】偶然か必然か——「LCC」に心を打たれた異端児の挑戦
※掲載情報は取材当時のものです。