新聞離れと慢性的な人手不足から事業の多角化を検討
「新型コロナウイルスの影響はほぼなくて、むしろ3月は過去最高の粗利を記録しました。おうち時間が増えたことで、部屋の整理をして不用品が見つかることで売りに来たんですかね。WAKABAは外観も店内デザインもギラついておらず、ほどよくオシャレなので買取店に行ったことがない方でも来店しやすいんです。WAKABAのブランディングが功奏したんだと思います」(三浦オーナー)
そう話すのは、北海道三笠市で買取店「WAKABA」を運営する三浦オーナー。株式会社グローヴァンスの代表取締役を務める人物でもあります。
「グローヴァンスは2015年に創業した会社です。2019年にWAKABAのフランチャイズに加盟するまでは、新聞の販売代理店事業のみで会社を営んでいました」(三浦オーナー)
しかしデジタル化の波もあり、新聞の発行部数がどんどん減っているのは周知の事実……。日本新聞協会が公表しているデータによると、2019年から2020年の1年間で210万部減少。2019年の1世帯あたりの発行部数は0.66で、2000年の1.13から4割以上も減少するなど、新聞離れが顕著になっています。それは都市部だけではなく、北海道をはじめとした地方都市も同様でした。
「創業当初から新聞離れは感じていました。弊社の営業エリアは、苫小牧(とまこまい)、室蘭(むろらん)のいわゆる道南エリア。一軒家のご家庭だと新聞を取ってることもあるんですが、アパートなどの賃貸の場合は新聞を取ってまで読もうという感じではないんです。新聞離れを著しく感じています」(三浦オーナー)
それだけでなく、さらに三浦オーナーを、そしてグローヴァンスを窮地に陥れるある事態に見舞われます。それは人材の確保です。新聞業界に限らず、経営者を悩ますのが慢性的な人手不足。三浦オーナーも人材の確保に頭を悩ませているひとりでした。
「弊社の場合、雇用形態が正社員ではなく業務委託での契約なんです。求人情報に掲載したら1〜2件は応募が来ますが、いざ契約を結んでも3日も働けばみんな辞めていきますね。ただでさえ営業なんて嫌われる職業なのに、新聞の外交員は飛び込みで営業をしないといけない。ましてや北海道は雪がすごいですからね。吹雪でも外を歩きまわりますので、よほどのメンタルがないと続けられないんです」(三浦オーナー)
買取店に対するイメージを一新させた「WAKABA」
新聞離れと人手不足により、「会社の5年後をイメージできなかった」という三浦オーナー。このままではダメだ——そう考えて新規事業の立ち上げを検討します。なかには、オリジナルの事業で多角化する企業も少なくないなか、彼は「フランチャイズしか検討していなかった」と振り返ります。
「リスクを冒したくなかったので、最初からフランチャイズしか考えませんでした。フランチャイズならノウハウを享受できて、業界未経験でも参入できますからね。今、小学6年生と2年生のふたりの娘がいて、3年前には35年ローンを組んでマイホームを建てたばかりなんです。独り身で20代とかだったら、借金してでもガンガンやりたいなとは思いますけど……。そこまでのリスクを冒してまで事業多角化しようとは思えませんでした」(三浦オーナー)
経験やノウハウをパッケージングしてオーナーに提供するのがフランチャイズ。三浦オーナーがいうように未経験でも参入が可能で、比較的成功しやすいのが魅力のひとつです。とはいえ、なかにはフランチャイズに対してネガティブなイメージを抱いている人がいるのも事実。実は三浦オーナーもそのうちのひとりでした。
「ニュースでもネガティブな報道を目にしますからね。フランチャイズに対してあまりいいイメージは抱いていませんでした。どうせ本部に支配されるんだろうなって(笑)。でも、『フランチャイズはそういうものなんだ』と、ある程度は覚悟していたのでまったく気にしませんでしたね」(三浦オーナー)
そうして、数ある業種業態のなかから買取店を選んだ三浦オーナー。ひと言でフランチャイズといっても、コンビニや塾やハウスクリーニングなどあらゆる業種がありますが、実は、それ以前に高齢者向け宅配弁当のフランチャイズも検討していました。
「WAKABAに加盟する1年くらい前に、興味が湧いて高齢者向け宅配弁当のフランチャイズに資料を請求しました。たしかに高齢化社会で需要もあるとは思うんですが、配達する人材を確保するという点で苦労しそうだなって。ほかの新聞販売店さんなどと話していると、配達や集金を担当する人材を確保するのに悩んでいたので、それと同じことになる気がして。フランチャイズに加盟するなら多店舗展開をしたいと考えていたので、人手不足に悩まされるような業種では難しいと思ってやめました」(三浦オーナー)
その後、1年のときを経て買取店のWAKABAに加盟した三浦オーナー。なぜ、未知の領域でもある買取店に決めたのでしょうか。
「フランチャイズのポータルサイトを見ていたら、たまたまWAKABAのページにたどりついたんです。省スペースでできて在庫を抱えないのでリスクもない。そして何より、ひとりでも運営していけるので人材に悩まされることもないですからね。もともと買取店のフランチャイズに興味があったというのもあったんですが、買取店は質屋みたいなギラギラしたイメージだったので諦めてたんです。一方、WAKABAは綺麗ですしオシャレでクリーンな感じで、『こんな買取店もあるんだ』って。しかも、ショッピングモールに出店できるので、集客も見込めると思いました」(三浦オーナー)
立地に不安を抱えながらも、オープン後は想定通りの売上推移
WAKABAは買取店とは思えないオシャレな店内デザインが特徴です。ゆえに、買取店に足を運んだことのない人でも気軽に利用できるのが強みのひとつとなっています。
「すぐにWAKABAに資料請求をし、本部のある東京から苫小牧まで来てもらって事業の概要をお聞きしました。次の日にでも加盟の返事をしても良かったんですが、1週間ぐらいは悩んだ方がいいかなと思って様子を見ました(笑)。でも、何も疑問に思わないくらい加盟したい気持ちが強かったので、1週間後に加盟の連絡をしました」(三浦オーナー)
じつは、同時進行でほかの買取店のフランチャイズ事業説明会に足を運んでいたという三浦オーナー。しかし、加盟を検討するためではなく、ある狙いがあったそうです。
「その本部の方には、2回ほど北海道に来ていただきました。でも、ほぼWAKABAに加盟する心積もりでいたので、競合の話も聞いておきたいなって。ようは、WAKABAと比較したかったんですよね。2社の話を聞いた結果、ブランドコンセプトやサポートだけでなく本部の考え方も含めてWAKABAがいいと確信したので、加盟することにしました」(三浦オーナー)
新聞事業で業務委託を結んでいた外交員を店長に迎え入れ、800万円ほどの初期投資で2019年11月に北海道三笠市にWAKABAをオープン。地方ではめっぽう強いイオンということで意気揚々とオープンを迎えるはずが、「集客が不安だった」と当時を振り返ります。
「私自身生まれも会社も札幌なんですが、ここのイオンは札幌から車で1時間も離れた場所にあるんです。来たことがなかったどころか、ここにイオンがあるなんて知らなかったので、イオンとはいえ『こんなところにお客さん来るの?』って(笑)。それはそれは不安でしたね……」(三浦オーナー)
しかし、フタを開けてみると本部が想定している通りの売上を積み重ねていき、粗利ベース5ヶ月で初期投資を回収するほどの大繁盛を遂げるのです。
「『イオンに入っている』という安心感はもちろんですが、1階にあるフードコートの目の前に店舗があるんです。WAKABAの綺麗でオシャレな雰囲気のおかげで、店内のポスターなどを見て50〜60代くらいの方をメインにふらっとご来店いただくことが多い。その際に買い取り品目などについて話をすると、『そんなのも買い取ってくれるの?』って興味をもってくださるんですよね。それで売りたいものを後日お持ちいただくことも多いです。路面店にある買取店だったら警戒しちゃって『ふらっと入る』なんて難しいでしょうからね」(三浦オーナー)
買取店を利用したことがないと、ブランド品などの高額な商品しか買い取ってもらえないと考えがちですが、WAKABAでは壊れている商品も含めて買い取るのが特徴です。それを直接言葉で伝えられるのも、イオンなどのショッピングモールに出店するメリットのひとつといいます。
「男性だとカメラや切手、女性だとアクセサリーなどの貴金属類やバッグ類をお持ちいただくことが多いです。5割以上の方はリピートいただいているんですが、最初はテレホンカードなどで様子見をし、2回目でメッキ系のアクセサリーを、そして3回目でダイヤモンドなどの高額なものをお持ちいただくケースが多いですね。コミュニケーションを取って少しずつ距離を縮めると、信頼関係ができてどんどん高額なモノを持ってきてくださるんですよ。
新聞の販売代理店とはまったく関係ない事業のようですが、サービス業という点ではどちらも同じ。WAKABAに加盟する時に『この事業は人と立地で決まる』と言われていたんですが、人の部分は、今までもずっと経験してきたので自信がありました」(三浦オーナー)
コロナ禍で業績を落とす業種もあるなか、「WAKABA」が好調をキープしている理由とは?
2019年7月のオープンから順調に収益をあげていたものの、新型コロナウイルスの拡大防止により世間はいっきに自粛ムードに……。普段は賑やかな繁華街もゴーストタウンと化すほど一変しましたが、北海道三笠市のWAKABAはどうだったのでしょうか。
「札幌は普段と違って人がいなくなりましたが、周辺はもちろん、北海道三笠市のWAKABAはほとんど来店者数に変わりはありませんでした。むしろ、おうち時間に部屋の整理整頓をして不用品が見つかったからと、商品をお持ちいただくこともあって。来店数は普段とあまり変わらないんですが、その分、高価なモノをお持ちいただいたので3月は過去最高の粗利を記録しました。3月の北海道は雪で集客が落ちてもおかしくない時期でもあるので、今後の自信にもつながりました」(三浦オーナー)
未曾有ともいえるコロナ危機に直面し、大幅に業績を落とす業種もあれば、横ばい、もしくは好調に転じる業種もあり、どちらかといえば買取店は後者にあたります。その理由をWAKABAのFC事業部で本部長を務める佐々木翔氏はこう話します。
「不況になると生活計画や資産形成計画などにより、現金化しようというニーズがあるため、買取ビジネスは景気に左右されない不況知らずのビジネスと言われます。コロナ禍においても買取店の需要が落ちなかったのは、三浦オーナーがいうようにおうち時間が増えて不用品が明確になったからなんです」(佐々木氏)
しかし、すべての買取店の業績が好調になったわけではありません。業績を落とす競合もあるなか、北海道三笠市のWAKABAが大きく存在感を示した理由についてこう続けます。
「なかでもWAKABAが選ばれているのは、ブランディングが大きく影響しています。というのも、コロナ禍によってこれまで買取店を利用したことがなかった人が利用するようになったんです。しかし『はじめて』というのは心理的ハードルが高く、派手な内外装や薄暗い路地などに店舗があると行きづらいんですよね。
一方、WAKABAは木目を基調とし、商談スペースも外から見える店舗デザインで、商業施設にある店舗が8割なのではじめてでも入りやすいんです。徹底した査定スピードや接客、オペレーションなども含め、普段から『居心地の良さ』をプロデュースできていることが勝因だと分析しています」(佐々木氏)
世間が新型コロナウイルスに怯えているなか、過去最高の粗利を記録した北海道三笠市のWAKABA。ふたり体制だった新聞事業が三浦オーナーのひとり体制になったこともあり、現在のグローヴァンスの収益は7割以上がWAKABAによるもの。オープンから8ヶ月にして、メインの事業として会社を支えるまでに成長しました。
「店長が目をみはる勢いで成長してくれて。査定についてもいろいろと勉強してくれているので、分からないことがあっても店長に聞けば解決するくらい頼もしい存在です。わたしは1日おきにWAKABAの店舗に顔を出しています。ふたつの事業を兼任していますが、それでも毎週日曜日は必ず休んで、家族との時間にあてられていますよ」(三浦オーナー)
2020年7月には2店舗目のオープンを控えているなど、目標だった多店舗展開へとコマを進めた三浦オーナー。加盟前に抱いていたフランチャイズへのネガティブな印象に変わりはないか聞いてみました。
「加盟して分かったんですが、ポジティブな意味でイメージとはまったく違いました。もちろん、店舗デザインなどには決まりはありますが、買い取った商品の卸先などは自由に決めていいんですよ。本部との関係性もよく、分からないことを聞いたらすぐに教えてくれて解決できますし、決まりがある中でも自由にやらせていただいていて。『本当にフランチャイズに加盟しているのかな?』って思うほどですね(笑)」(三浦オーナー)
2021年中にはさらに2店舗をオープンし、北海道内で4店舗展開を目標にしている三浦オーナー。本州への進出も視野にいれている彼のチャレンジは、この先も終わることがありません。
※掲載情報は取材当時のものです。