定年まで残り10年……老後の過ごし方を考えて50歳で独立を決意
年齢は定年退職を10年後に控えた50歳。勤続26年で、総務部をまとめる部長職。給与やボーナスなどの待遇にも満足しているし、社長の直近として会社の拡大にも大いに貢献してきた。定年までこのままでも何不自由なく暮らしていける——。
羨望の眼差しを向けられても不自然ではないこのような状態から、一念発起して52歳の時に独立・開業した女性がいます。それは、現在「セブン-イレブン草津野村5丁目店」のオーナーとして活躍する福澤和子です。
「あのまま会社にいれば、定年退職まではほとんど安泰が約束されたようなもの。しかし、それまで培った経験を活かしたいのはもちろん、さらに伸ばす方法はないものか……。定年まで待って、60歳という年齢でキャリアに終止符を打つのではなく、60歳からの人生をより有意義なものにしたい。そう考えて50歳の時に退職することにしたんです」(福澤)
「とはいえ、どんな事業で独立するべきか……?」
それを探るため、前職を退職してから1年間の模索期間に突入するのです。
「辞めてからというもの、パン屋でパートをはじめてみたり、ビジネスモデルを学ぶという意味も含めてトレーニングジムに通ってみたり、プログラミングを勉強してみたり……。独立の選択肢を増やすという意味でさまざまな経験を積みました。また、FC展開しているカフェのオーナーさんから、『カフェで開業すれば?』と勧められて調べました。しかし、どれも心に響くものはありませんでした」(福澤)
どうせ独立するんだから、中途半端な気持ちで始めたくない。何が何でも、自分が本気で取り組める事業で独立するんだ——そういう強い信念を持ってセカンドキャリアを模索していた福澤に転機が訪れます。
「パソコンでいろいろ検索していたら、たまたまセブン-イレブンの『フランチャイズオーナー募集』の広告を見つけました。そもそも、フランチャイズがどういう仕組みで成り立っているか分からないだけでなく、コンビニ自体も私自身ほとんど利用したことがありませんでした。ですが、コンビニ経営がどんなものかを知るという意味でも、一度、オーナー募集説明会に参加してみようと思ったんです」(福澤)
好奇心旺盛な性格から、セブン-イレブンのオーナー募集説明会に足を運んだ福澤。この選択がセブン-イレブンオーナーへの第一歩になるとは、当時の彼女は考えもしませんでした。
コンビニ経営ってどんなもの?——なんとなく参加したオーナー募集説明会で加盟を決意
「オーナー募集説明会ではFCの仕組みからはじまり、コンビニ経営について、セブン-イレブンの売り上げや集客数、フランチャイズの強み、コンビニビジネスの将来性など、事細かに説明していただきました。最初は軽い気持ちでしたが、オーナー募集説明会に参加するやいなや、メモを取りながら食い入るように聞いたのを覚えています」(福澤)
それまであらゆる事業を検討するものの、なかなか心に響く事業に出会えなかった福澤でしたが、説明を聞いたことで、次第にセブン-イレブンのフランチャイズに惹かれていったのです。
「今までの事業とは明らかに違う。自分の経験を活かせるのはこの事業かもしれない——」
そして、説明会担当者が発したあるひと言により、大きく心を動かされることになるのです。
「『オーナーさんが頑張っていたら、セブン-イレブン本部は見捨てません』とおっしゃったんです。パン屋でパートをしたことから、パン屋での独立もいいかもしれない。そう思ったんですが、経営者として誰にも頼らずに1人でやっていく自信がなかったので諦めました。しかし、一個人をこれだけ大事にしてくれるセブン-イレブンであれば、困った時に手を差し伸べられるな、と」(福澤)
ひと通り説明を聞き終えて帰路につく頃には、すでに加盟を決意していた福澤。自宅に戻り、セブン-イレブンのオーナー募集説明会に参加してきたことを家族に伝えました。すると、想像もしていなかったある反応をされるのです。
「家族に何の相談もせずに説明会に行ったので、参加したことにとても驚いていました(笑)。でも、『セブン-イレブンのお弁当おいしいよね。あと、カレーパンも好き。セブン-イレブンのFCならいいんじゃない?』と言ってくれて。私の知らないところで家族がセブン-イレブンを利用していたことを知り、より加盟の意欲が湧きました」(福澤)
家族に背中を押されたこともあり、自分の選択は間違っていなかったと確信した福澤。その後は、自身でコンビニ経営についてリサーチしたり、京都で開業した知人のオーナーに会いにいったり。より一層、セブン-イレブンについて知見を広げていったのです。
「先輩オーナー訪問の際は、加盟してどれくらい経つのか。夫婦で経営していてケンカはしないのか。その時に感じていた疑問をはばかりなくお聞きしました。それまでは少なからず不安もあったんですが、『人にできて自分にできないことはない』と思う性格なので、とても勇気付けられました」(福澤)
また、セブン-イレブン主催の商品展示会に招待してもらうなど、独立・開業へ向けてひとつずつ歩みを進めていくのです。
「セブン-イレブンの社員、加盟店オーナー、加盟希望者が一堂に会する商品展示会に参加させていただきました。セブン-イレブンの商品が店頭に並ぶまでの過程を収めたビデオが上映されたんです。当たり前のことですが、おにぎり1つでもこれだけの人の手が加えられてるのを知り、とても感動しました。このように運営の裏側を知れたことで、よりセブン-イレブンの事業の良さを感じ、『あの時、説明会に参加してよかった』と心から思いましたね」(福澤)
日販が落ち込むも、本部のアドバイスで一歩ずつ選ばれるお店になるまで成長
着々と独立へのステップを踏む福澤でしたが、ある日セブン-イレブンのFC本部から彼女の希望する地区を踏まえた物件を紹介されるのです。そここそが現在、福澤がオーナーを務める「セブン-イレブン草津野村5丁目店」がある場所です。
「ここでセブン-イレブンをオープンするんだ。私がオーナーになるんだ——」
その後、周辺の交通量や歩行者の数など、FC本部が調査したデータを開示された福澤は、ある驚くべき行動に出るのです。
「よく通る場所でしたが、どれくらいの人通りがあって、どれくらいの住宅が並んでいるのか。自分の目で確かめるためにも実際に現地に行ってリサーチすることにしたんです。それまであまり意識していなかったんですが、とにかく人通りが多いこと。隣にあるガソリンスタンドから人が流れてきそうな場所であること。近隣のコンビニの駐車場が狭いため、ここからもお客さんを拾えそうな場所であることが分かりました」(福澤)
そうして、この場所に「セブン-イレブン草津野村5丁目店」をオープンしたのは、2014年8月29日のこと。福澤が52歳の時でした。
「当時は自店を含めて同じ通りにコンビニが5件あり(その後、他社コンビニ1件は既に閉店)、その内3件がセブン-イレブンです。それぞれオーナーが違いますが、決してライバルではなく、あくまでも『同士』として手を取り合いながら切磋琢磨しています」(福澤)
とはいえ、激戦区であることに変わりありません。福澤自身も「決して楽観視できる場所ではない」と感じながらも、オープンから半年が過ぎた頃から次第に「選ばれるお店」として実感を得るようになるのです。
「オープン特需こそありましたが、その後は日販が落ち込んでしまって……。履行補助者の娘からも心配されましたが、急に増えることはないから、来ていただけるお客さまを大事にしよう、と。結果、リピートしてくれるお客さまが少しずつ増えていきました。また、本部(OFC※店舗相談員)の方から熱心にアドバイスを頂けました。説明会の時に言っていた、『見捨てない』というのは本当だったんだと実感しました」(福澤)
自身の持ち味を最大限に活かした経営戦略と、スタッフで掴んだ一つの結果
福澤がこの地にセブン-イレブンをオープンして3年が経ちました。本部との二人三脚で日販も前年度比より上回り続けているものの、その道のりは平坦なものではありませんでした。
その最たる例がポストの設置です。今でこそお店の外にポストが設置されていますが、オープン当初はありませんでした。そんな当時、切手などをご購入いただくお客さまからの、「お店の外にポストはありますか?」というひと言にもどかしさを感じていた福澤……。痺れを切らした彼女は、持ち前の行動力を発揮してオープンから半年後、郵便局にポスト設置を懇願しにいきます。
「ポストがあったらお客さまが便利になるのはもちろん、ポスト目当てに訪れたお客さまが買い物をして売り上げにつながるはず。そう考えて担当者に会いにいきました。すると、ある条件を満たしていれば設置できる、と。調べてもらったら条件をクリアしていたようで、懇願しに行った半年後、お店の前にポストが設置されたんです。設置後は切手や年賀状の売り上げが前年度比111%になるなど、確実に効果を感じています」(福澤)
また、ギフトの注文件数ではエリア内で、草津野村5丁目店が2位に大差をつけて堂々の1位に。もちろん、オープン当初からトップを駆け抜けていたわけではありません。これも、福澤の経営努力が功を奏しているのです。
「実は、きっかけとなったのは本部からのアドバイスでした。オープンしてすぐの夏のギフトの際、受注件数が伸びずに悩んでいたら『オープン当時、たくさんの開業祝いの花が届いてたじゃないですか? なぜ、送ってくれた方たちに声をかけないんですか?』と言われて……。変なプライドが邪魔をしてたんですが、それを言われて確かにそうだよな、と」(福澤)
まずは、前職時代に知り合った会社の経営者にカタログを送り、届いた1週間後くらいに再度、案内のハガキを送付します。それでも注文がなければ、「カタログやハガキは届いてますか?』と攻めの電話をかけるのが福澤スタイル。結果、少しずつ件数が増えてエリア内で1位を獲得。売り上げが急に伸びることはないので、こういうことで少しずつ伸ばしていく戦略が吉と出たのです。
初めての独立、初めてのコンビニ経営に不安はつきものです。「オープン当初は不安に押し潰されそうになったこともあった」と振り返る福澤ですが、部長職として総務部をまとめてきた前職時代の経験を活かし、現在はアルバイトスタッフと共に組織的な運営をしています。
「スタッフをA・B・Cにチーム分けして、指示などはすべてリーダーを通して伝えるようにしています。いいことはもちろん、悪いこともリーダーを通すことで、全員が共有できる環境を作ろう、と。ギフトの件数などもスタッフ全員で取り組んで利益が出れば還元しています。結果的にお店を任せられるスタッフに育成できれば、私は戦略的な部分に専念できるだけでなく、安心して休めるのでいいこと尽くし。今は週に1度は休めていますし、連休も取れていますよ」(福澤)
女性でも頑張ればこれだけできるということを証明したい——1年後、「セブン-イレブン草津野村5丁目店」はどのような姿になっているか誰にも想像できません。しかし、間違いなく言えるのは、今よりもパワーアップしてよりお客様に寄り添ったお店になっているということ。そんな未来を想像しながら、福澤を筆頭に今後も走り続けます。
※掲載情報は取材当時のものです。