加藤オーナーの価値観を変えた厚岸産の牡蠣
「正直、厚岸産の牡蠣を食べるまで、牡蠣なんか大っ嫌いでしたね。この世の中でズバ抜けてナンバーワンで、もうありえないって感じでした(笑)」(加藤オーナー)
そんな彼の価値観を変えたのが、年中生食できる北海道・厚岸産の牡蠣でした。厚岸産の牡蠣は、牡蠣の全国水揚げ量の大半を占める宮城産や広島産とは違い、海水の温度が上がりにくいため貝毒が発生せず、日本で唯一、年中生食ができるのです。
「さすがに牡蠣嫌いから『大好き!』ってレベルまではいきませんでしたが、食べた瞬間、『あれ、おいしいじゃん』『ほかとまったく違うじゃん』って。これなら自信を持ってお客さまに提供できると思ったんです。ビジネスとして金儲けでっていうよりも、厚岸の牡蠣の歴史とか初めての飲食経営ということに、わくわくしたのを覚えていますね」(加藤オーナー)
そんな厚岸産の牡蠣に魅せられた加藤オーナー。2016年10月に「かき小屋 厚岸水産 名古屋池下店」をオープンさせるまで、飲食とはなんの関係もないキャリアを歩んでいました。
「ずっとクラブでDJをやっていて。16歳のころにスタートしていま43歳なので、もうかれこれ27年くらいやってますね。いまはいろいろな事情があって月に4本くらいしか出演していませんが、多いときで年間500本くらいは出演していました。その他にもラジオやテレビなどでも番組を持たせてもらったり、幅広く活動していた感じです」(加藤オーナー)
名古屋を本拠地とするプロバスケットボールチームとタッグを組むなど、現在も現役で活躍するDJとしての顔をもつ彼が、なぜ飲食に足を踏み入れ、そのなかでも「厚岸水産」のフランチャイズに加盟することを選んだのか──そこには、想像もできない熱いストーリーがありました。
板長のひとことで“興味本位”が“本気”に変化
「厚岸水産のフランチャイズ本部の安藤会長とは、もともと音楽関係の知り合いで。彼が厚岸水産を立ち上げる前にやってた飲食事業のことも含め、全部、話では聞いていたんです。でも、当時は飲食に興味なんかなくて。『そうなんだ、すごいね。ふーん』くらいにしか聞いていませんでした(笑)。彼が厚岸水産を立ち上げたときも、牡蠣なんか大っ嫌いなので、『牡蠣? ようやるねそんなの』って話半分で聞いていました」(加藤オーナー)
それから1年後、加藤オーナーは度肝を抜かれる事態に直面します。
「ネットで調べものをしているときに、たまたま厚岸水産のページにたどり着いて。よくよく見たら厚岸水産が8店舗くらいまで拡大してるんですよ。1年くらい前に『立ち上げる』って話を聞いたばっかりだったのにもう8店舗も展開していたので、『これはすごいぞ』って思って取り急ぎ話だけ聞かせてもらうことにしました。少なからず興味はあったんですがまだ軽い気持ちで、『もし名古屋でオープンできるチャンスがあったら、また話を聞かせてください』みたいな感じで終わったんです」(加藤オーナー)
当時も現役のDJとして幅広い活躍をしていた加藤オーナー。とくに不自由な生活を送っていたわけではないことから、この時点では「興味本位で話を聞いていた」と振り返ります。しかし、そんな彼の興味本位が“本気”になる瞬間が訪れます。
「それから3ヶ月後くらいに安藤会長から改めて連絡があって。厚岸産の牡蠣のこだわりや競合優位性についてもっと詳しく話を聞くと同時に、加盟するにあたっての予算感などを出してもらいました。ただ、さすがに飲食未経験の私が包丁を握るわけにもいかないので、飲食経験が豊富な音楽関係の知り合いに声をかけたんです」(加藤オーナー)
とはいえ、すでに安定した企業で板前として働いていることも知ったうえで声をかけた加藤オーナー。もちろん、「NO」という返事が来る——そう思った矢先の出来事でした。
「最初に連絡したときは、『1日だけ考える時間をください』と言われて電話を切りました。私のほうが先輩ということもあり、すぐに断らずにワンクッション挟んだのかと思ったら、翌日『1ヶ月でいまの仕事を辞めるので、ぜひ一緒にやらせてください』と連絡がきて。それまではぶっちゃけ軽い気持ちだったんですが、彼の人生も背負うとなるとそうもいかないですからね。その彼がいまの板長です」(加藤オーナー)
扱っている鮮魚への思いが売り上げ好調のきっかけに
「DJをやっているといろいろな商売の話をもらうんですよ。でも、儲けばかり先行してどれもおもしろみを感じなくて。ただ、安藤会長はお金ではなく、ひたすら厚岸産の牡蠣の魅力などを熱弁してくれました。
飲食の経験はありませんでしたが、なにより肉派で牡蠣が大っ嫌いだった私がおいしく食べれるようになった。さらに、安藤会長からほかの牡蠣との違いや、希少価値の高い対馬産の鮮魚などを仲介業者を通さずに漁師から直接仕入れられるなどといった話を聞いたら『おもしろそうだぞ』って。安藤会長の想いに共感していたので、不安はありませんでした」(加藤オーナー)
そうして2016年10月にオープンしたのが、「かき小屋 厚岸水産 名古屋池下店」です。しかし、そこからの道のりは決して順調とはいえない状況が続きました。
「飲食店の経営が初めてっていうこともあって、なかなか利益が上がらなくて……。もともと牡蠣の単価が高いのもあるんですが、思っていたよりもいろいろと経費がかかるんですよね。売上は上がってるのに利益が残らないってこともありました。
それにオリジナルメニューも自由に出していいんですけど、板前一人でまわすには厳しいメニューを増やしてしまったり。今は板前に負担がかかりすぎないよう、アルバイトでもできるメニューを作りましたけどね」(加藤オーナー)
飲食未経験だったからこそ難しさを思い知った加藤オーナー。しかし苦難はそれだけではありませんでした。
「立地もあまり良くなくて。というのも、住宅が立ち並ぶエリアで、周辺にはお店は少ないんですけど、駅の方には競合となる居酒屋さんが多いんです。なかには、『ここは厳しいよ』『1年くらいは頑張ってね』なんてお客さんから言われることもありました。聞いた話では、お店の入れ替わりも激しかったみたいです」(加藤オーナー)
そんな立地条件も影響し、オープンから1年は想定していた売り上げを下回ることもあたりまえ……。それでも腐らずに店舗を運営していけたのは、いわゆる金儲けだけでなく、牡蠣や魚貝への思いがあったから──そう加藤オーナーは振り返ります。
「そこに『思い』がないと、良くなるものもならないと思うんですよね。自分も店舗で接客しているんですが、お客さんが来店すると、最初の2分くらいは牡蠣についていろいろ説明するんですよ。すると、『おもしろい』って思っていただけるだけでなく、素材が良く本当においしい厚岸産の牡蠣と対馬の魚貝に満足して帰られます。そういうのが積み重なってお客さんも増えていく。思いがあるからこそ自信を持って伝えられるんです。思いがないとダメだなって思いますね」(加藤オーナー)
前年度比130パーセントの売り上げを記録
加藤オーナーの熱い思いもあり、オープンから1年を経て少しずつ右肩上がりに売り上げを積み重ねていった「かき小屋 厚岸水産 名古屋池下店」。いまでは、予約が満席になるほどの人気店に成長しました。
しかも、2019年に至っては3ヶ月を除いて前年比130パーセントを記録。現在進行形で大躍進を遂げているのです。
「それでも、まだまだこれからだなって思いますね。というのも、私だけでなく板長の人生も背負ってますから。中庭を潰して席数を増やすなどして、売り上げアップしていくことも検討中です」(加藤オーナー)
現在は、DJの仕事を減らし、多くの時間を厚岸水産で過ごしている加藤オーナー。これまでの3年3ヶ月を振り返り、「加盟して本当に良かった」と答えてくれました。
「良かった点はいろいろありますが、まずフランチャイズなので私みたいな飲食未経験でも安心して運営していけること。たとえば、食材がなくなった場合でも近隣の店舗から分けてもらえたり。あとは、何より毎日の接客が楽しいんですよね。最初は無愛想だったお客さんも、最後には満足して『また来るよ』ってよろこんで帰ってくれる。そういう切り替わりもわくわくします。加盟してなかったら、こういう楽しさも味わえませんからね」(加藤オーナー)
「思い」よりも「金儲け」を優先してフランチャイズに加盟する検討者の方が多いでしょう。もちろん、それが悪いわけではありません。しかし、強い思いがお客さんに伝わり、それが売り上げアップにつながることを忘れてはいけない——そんな信念で運営している加藤オーナーなら、これからも売り上げを積み重ねていってくれることでしょう。
※掲載情報は取材当時のものです。