資本金1円でも大丈夫?会社設立における「資本金」「株主構成」の決定ポイント

原川 健 |2017年07月28日 公開 (2018年03月26日 最終更新)
会社設立にあたって「資本金」「株主構成」について考える人のイメージ

シリーズ形式でお伝えしている会社設立時に押さえておくべき重要ポイント。

前回までの「会社名のポイント」「本店所在地のポイント」「事業目的の決定ポイント」はいかがでしたでしょうか?会社を設立する際には取引先のことも考え、事業内容のことも考え、いろいろなところに注意する必要があります。 今回は、「資本金」「株主構成」を決める上でのポイントについてお伝えいたします。

資本金決定のポイント

対取引先の信用を考慮して資本金を決めましょう

新会社法では、最低資本金制度がなくなりましたので、資本金1円でも株式会社が設立できるようになりました。

多くのお客様の会社設立のお手伝いをしていて、資本金1円は、さすがにないですが、資本金を10万円や20万円にするとおっしゃるお客様は、少なくありません。しかし、資本金が過少ですと、色々な問題がでてしまいます。

会社で新たに掛け取引を開始するとき、代理店契約を行うときなど、ほとんどのケースで、会社の登記簿謄本を提出するように求められます。その際、登記簿謄本に資本金が10万円と記載されていたら、相手の会社はどのように感じるでしょうか?

資本金は、事業を開始するにあたって投入する元手の資金です。客観的にみて、10万円の元手で事業を行うことは不可能です。すぐにつぶれてしまう会社ではないかと、思われてしまいます。

新会社法が施行され、資本金が1円でも株式会社が設立できるようになると、従前のように、会社であれば、どんな会社でも代理店契約可能とはならず、資本金300万円以上の会社のみ代理店契約可能などと、なってくる可能性も充分に考えられます。

事務所の賃貸契約でも、資本金が少なすぎるために、家主から契約を断られるケースがでています。家主側からしたら、いつつぶれるかわからない会社に、物件を貸したくないのは当然です。

新会社法では、銀行発行の出資金払込証明書が不要になりました。

資本金相当額を個人の預金通帳に振り込み、そのコピーを提出するだけと、手続きも簡単になりましたので、資本金はできるだけ多く取った方がよいでしょう。

資本金は少なすぎてはダメ

現物出資を活用しましょう

資本金をある程度あげておきたいが、現金で用意できる額が少ない場合は、現物出資を検討しましょう。

備品、車両、売掛金、在庫、不動産などを現物出資することが可能です。新会社法では、500万円までの金額については、検査役の調査なしで現物出資が可能です。

知らずにやっている方が多いのですが、実は現物出資は、譲渡所得または事業所得等として、所得税や消費税の課税対象となります。

事後にそのことを知っても、後の祭りです。多額の税金を負担することになった事例もありますので、充分注意してください。

どの財産を対象にするか、いくらの価格にするかによって、課税が生じないように現物出資することも可能です。

運営資金を考慮して資本金を決めましょう

資本金が過小だと、必ず会社を運営する資金が足りなくなります。その際は、社長個人の資金を会社に資金を貸し付けるしかありません。そうすると会社は、社長個人からの借入金が残ってしまいます。

そのようにする予定であれば、先に資本金として出してしまった方が、借入ではなく、資本金として決算書に計上されますので、信用が高くなります。

借入の可能性を考慮して資本金を決めましょう

資本金の額が少ないと、借入ができなくなってしまいます。 借入ができるかどうかの主な基準に、自己資金の割合というものがあります。 自己資金の割合が、およそ30%から50%あるような事業計画でなければ、金融機関はお金を貸してくれません。

30%の基準で考えると、資本金(自己資金)が3万円の会社であれば、借入が可能な上限額は7万円となり、少額すぎて貸付自体が不可能となります。

資本金が300万円であれば、借入可能な上限額は700万円になります。 これはあくまでも、自己資金の割合だけを念頭においた融資判断であり、実際の融資においては、事業計画や業種、経営者の経験など、多様な要素において決定されます。

将来、金融機関からお金を借りる可能性があるのでしたら、資本金は、できるだけ大きいほうがよいでしょう。

税法を考慮して資本金を決めましょう

・資本金を1000万円以上にしてしまうと、設立1期目から、消費税の申告と納税が必要になってしまいます。

・資本金を1000万円未満にすれば、設立してから2期間、消費税が免税となります。

・会社を運営するための資本が1000万円以上必要な場合、資本金を1千万円未満として、残りの資金を貸付金などで、投入することも可能です。

本来、株式会社は、所有(株主)と経営(役員)が分離している組織ですが、同族会社の場合、所有と経営が一致している会社が大多数です。

所有(株主)への対価としての出資配当は、会社の損金の額に算入されません。しかし、経営(役員)への対価としての役員報酬は、会社の損金の額に算入されます。実務上、同族会社においては、配当の支給を行うことは、あまり一般的ではありませんので、考慮する必要はないと思います。

許認可等に注意しましょう

許認可等が必要な事業を行う場合、許認可等の要件に資本金などが、定められているケースもあります。 資本金が許認可等の要件に足りなくて、また余分なコストをかけて、すぐに増資をしなければならない事例も生じています。充分に注意してください。

・人材派遣事業を行う目的で、資本金700万円で会社を設立したが、人材派遣事業の純資産要件である資本金1000万円以上を満たさないため、再度、増資の登記を行う必要が生じた事例。

・外国人が在留資格「投資・経営」を取得するために、資本金300万円の会社を設立したが、入管法に定める上陸許可基準(500万円以上の投資額)に適合せず、在留資格申請が不許可となった事例。

株主構成の決定ポイント

株主構成の決め方

親族以外の外部の方が、株主として出資する場合、その方の会社との関係性や、会社が株式公開を目指しているのかなどにより、いろいろなケースが考えられますので、一律に論じることは難しいですが、外部の方に株式を持ってもらう場合でも、会社設立当初においては、オーナーが単独で株主総会の決議ができるよう、少なくても2分の1以上、できれば単独で特別決議(会社の重要な事項の決定)ができるよう、3分の2以上を保有するのが好ましいと思います。

オーナーの方が、比較的ご高齢の場合、相続税を考慮して、ご子息を株主にすることも検討に値します。 株主をご子息にすることにより、株式の価値の増加部分をご子息に贈与税なしで、世代移転することが可能になります。

一株当り発行価額の決め方

一株当り発行価額は、会社設立時に発行する株式一株の価額のことです。

いくらにでも設定することはできますが、あまり少額すぎても、発行済株式数がやたらと増えてしまいますし、あまり高額すぎても、売買や贈与などによる移転が難しくなってしまいますし、増資もしにくくなってしまいます。

5万円程度が一般的であり、また合理的です。

資本金は大きくしても登録免許税は変わりません

会社を設立する際の登録免許税は、資本金の額によって変動します。

資本金額の0.7%で、最低額が15万円となっています。よって、資本金2000万円であっても、10万円であっても、登録免許税は、同じ15万円なのです。

後々増資する必要が生じるのなら、登記コストの面からも、設立時に資本金をできるだけあげておいた方が得策です。

譲渡制限を付けましょう

株主総会のイメージ

株式会社の株式は、原則的には自由に売買することが可能です。 しかし、上場会社ではない中小企業の株式が、会社が知らないところで、勝手に売買され、好ましくない方々が、株主になったらどうしますか?

相手が望まない状態で取引を解消した元取引先、会社と揉めて退職した、元役員、元従業員など、誰に株式を譲渡するかわかりません。

もし、好ましくない方々が株主になったなら、臨時株主総会開催の要求、会社帳簿の閲覧の要求、役員解任の要求など、悪意を持った株主には、いろいろな嫌がらせができてしまいます。 このようなことにならないよう、取締役会または株主総会の決議がなければ、株式が譲渡できないように、定款に定めることが可能です。

中小企業は是非、この譲渡制限を付けてください。 逆に譲渡制限を付けないようにするためには、取締役会を設置して(取締役が3名以上必要)、さらに監査役等もおく必要があります。

会社法改正前と同様に4名以上の役員が必要。 新会社法施行後に設立された株式会社は、ほとんどが、譲渡制限会社です。

”知らなかった”では済まされないのが経営者の責任、今回の「資本金」と「株主構成」是非、ご参考になさってください。

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