2014-11-28 小説で起業ノウハウを学ぶ!FCビジネス起業物語
フランチャイズ研究会 中小企業診断士
楊典子 |
フランチャイズ研究会執筆『フランチャイズでカフェ開業。脱OLで好きを仕事に』
物件選びとお金の工面に奮闘。
起業物語の登場人物
井崎香奈(42歳):埼玉で両親と同居、中堅企業で人事総務を担当。37歳の時にあこがれだったカフェのオープンを目指すも、資金面などで断念。今は自己資金も貯まったものの、開業に向けた不安が多すぎて具体的な一歩が踏み出せずにいる。
前回の説明から1ヶ月。このところ週末は全て物件探しで埋まっている。
前回の説明会で「場所はできるなら自分の慣れ親しんだ埼玉県のS市周辺にしたいのですが」と言ったところ、その2日後には綾の樹カフェFC開発担当者の山寺さんからOKの連絡があった。
「S市は人口が7万人と少なめですが、人口密度は非常に高いですね。ファミリー向けの比較的高級な大規模マンションも増え、一方で閑静な住宅街もあります。駅周辺の人口比率も20代から40代がずば抜けて高く、所得水準も高めなので、うちの店の出店エリアとしては合格です。街自体に勢いがあり、センスのいいお店が増えているのも良いですね」
山寺さんはデータで街について調べた後、その午後から翌日いっぱいS駅周辺を実地調査してくれたらしい。地元民御用達の、隠れ家的ケーキショップまで知っていた。
私の意思を尊重し、本気になって動いてくれる。香奈は心からありがたいと思った。
「それで、候補物件をいくつか見つけてきました。見に行ってみますか?」
物件を巡りながら、山寺さんは物件について熱心にいろいろと教えてくれた。
「店舗は面と線と点で見るんです。自店のターゲットとなりうる顧客が一定レベル存在して【面】、その人たちが近づきやすく【線】、目に留まって、出入りもしやすい【点】。これが良い物件の条件なんですよ」力強くそう言うと、必死にメモを取る私を見て、「実はうちの顧問の先生の受け売りなんですけどね」と小声で照れくさそうに付け加えた。
物件探しから2ヶ月が経ち、ここぞという店舗が見つかった。駅からほど近いビルの一階で広さは20坪、視認性もよい。何より、ビル自体が新しめでカフェの雰囲気にぴったり合う。山寺さんも太鼓判を押す物件だ。現在入っているアパレルのテナントは3ヶ月後に移転する予定だという。
私もこの通りはよく使っており、近くの大型マンションの奥様達や近くのキャンパスに通う女子大生、一戸建てに住む上品なおばさまなど、カフェのターゲット層の通行が多いことも知っている。ここならきっとうまくいく。
仲介業者は資料に目を落とすと盛り上がる私たちに申し訳なさそうに、「あー、こちら飲食業はダメでしたね」と首を振った。
「これを逃したら、後悔する」
香奈は直感的にそう感じ、めずらしく業者へ食い下がった。
「絶対ダメでしょうか?一度オーナーさんと話しをさせていただけませんか?なんとかお願いします!」香奈の熱意に押され、数日後、仲介業者はオーナーとの面談を設定してくれた。
「飲食業は臭いや騒音の問題もあるし、物件も傷みやすいし・・・」
オーナーはこの地域にたくさんの建物を持つ昔からの地主さんで、以前飲食テナントでトラブルがあったことを話してくれた。
しかし、簡単にあきらめることはできない。
香奈はカフェのイメージ、お客様層、営業時間、自分が生まれ育ったこの街を愛していること、そして自分がこのカフェにかけている想いなどについて丁寧に話をした。
1度目の面談は時間切れだったが、「少し検討する」との言葉に希望を託す。そして、次の面談。香奈はようやく内諾を得ることができた。「しっかりやりなさいよ」というオーナーのかけ声に、香奈は素直に「はい!」大きな声で答えた。「さあいよいよだ!」、自分のギアがもう一段あがるのを感じた。