2015-04-24 小説で起業ノウハウを学ぶ!FCビジネス起業物語
フランチャイズ研究会 中小企業診断士&1級販売士
若林和哉 |
フランチャイズ研究会執筆『フランチャイズでラーメン店に業態転換。そして多店舗展開へ』
苦労を乗り越え、ラーメン店を複数店展開へ
起業物語の登場人物
中田慶介(28歳) 地元の神奈川県の高校を卒業後、父である浩(63歳)の居酒屋を手伝っている。独身。
開業から1年がたった。
この1年は慶介にとって怒涛のように過ぎていった。まず、苦労したのが人材育成面で、オープン前に充分な研修を受けた慶介に比べて、居酒屋時代のスタッフも新規のスタッフも作業を覚えて独り立ちするのにある程度の時間がかかってしまう。
これは仕方のないことであるのだが、オープン当初は慶介にもじっくり教えている余裕がなく、結局自分でやったほうが速いと慶介がやってしまう。
そうするとアルバイトスタッフは仕事を覚える機会がなくなり、ますます覚えるのに時間がかかるという悪循環に陥ってしまった。
慶介はスーパーバイザーに相談した。
「中田さん、あなたはしっかりと研修を受けてきたので、アルバイトスタッフより早く正確にできるのは当たり前です。ですが、ここは忍耐強く人材育成に取り組まないと、いつまでたっても休めませんよ。」
慶介は考え方を変えて、自分がやったほうが早いから仕事を引き受けるのでなく、できるだけアルバイトスタッフに仕事を任せることにした。慣れてくるにつれてスタッフも仕事を徐々に覚えてスムーズにこなせるようになってきた。
次第に慶介にも休みをとったり、浩と会社全体についての打合せをしたりする時間が増えてきた。
開店から半年たったころには他の加盟店の問題行為があった。他の加盟店のスタッフが悪ふざけをしてその模様をツイッターにアップしてしまったのだ。
慶介の店の出来事ではなかったが、同じブランドの店舗を運営している以上影響は避けられず、一時的に慶介の店も客足が遠のいた。まさにフランチャイズビジネスならではの出来事である。
慶介をはじめスタッフは、こんな状況でも来店してくれるお客様には、商品の説明や食後のドリンクサービスなどを行い、いつも以上のおもてなしを心掛けた。
他にも様々な問題があったが、何とか1周年を迎えることができた。男性社員の退職やアルバイトスタッフの入れ替わりはあったものの、最近は定着率が高くなっていた。収益も月次で安定して黒字を出せるようになっており、浩も喜んでくれた。
いつしかスーパーバイザーからも
「中田さん、そろそろ2店舗目を考えてみてもらえますか?」
と言われるようになっていた。
2店舗目は物件取得費もかかるため、1店舗よりさらに多額の資金が必要となる見込みだったが、A社では複数店舗を展開すると1店舗目に比べて加盟金が割引されるというメリットがあった。
その他にも複数店舗展開には、収益の倍増やリスク分散、店舗間でのスタッフの融通とメリットが多い。浩も慶介も法人で経営するからには、1店舗ではなく多店舗展開をして大きな事業にしたい想いがあった。
銀行の担当者からも、ラーメン事業が順調に進んでいることで、2店舗目に向けた融資も可能との回答を得ていた。一方で、加盟店訪問でも聞いたように、しばらくは2店舗目につきっきりになることが想定されるため、現在の店舗を安心して任せることができる人材が必要だった。
慶介は、開店当初から働いているスタッフの三浦彩を思い浮かべた。25歳でフリーターの三浦は居酒屋時代からの生え抜きで、ラーメン店への業態転換の時も喜んで勤務を続けてくれたメンバーの1人だった。
決して仕事の覚えがよかったわけではなかったが、真面目にコツコツと働き続けた今ではアルバイトのリーダー格としてスタッフからの信頼も厚かった。
当初は就職先を探すまでの勤務のつもりが、今では週5日フルタイムで働くようになっていた。慶介は浩に彼女を店長にしたい旨を伝え、了解を得ていた。