2014-12-05 小説で起業ノウハウを学ぶ!FCビジネス起業物語
フランチャイズ研究会 中小企業診断士
楊典子 |
フランチャイズ研究会執筆『フランチャイズでカフェ開業。脱OLで好きを仕事に』
開店直前の不安、そして念願のカフェオーナーに
起業物語の登場人物
井崎香奈(42歳):埼玉で両親と同居、中堅企業で人事総務を担当。37歳の時にあこがれだったカフェのオープンを目指すも、資金面などで断念。今は自己資金も貯まったものの、開業に向けた不安が多すぎて具体的な一歩が踏み出せずにいる。
4週間の研修はきついながらも「充実」そのものだった。
座学は経営管理の基本から衛生管理、発注手続きなど覚えることがたくさんあり、毎回テストも行われた。
こんなに詰め込んで勉強したのは、大学入試以来かもしれない。そして実店舗での研修では立ち仕事の大変さを痛感しつつ、接客や調理などを行った。
人気店だけあってお客様の数はかなり多く、もたついて迷惑を掛けることもあったけれど、お店側の人間としてカフェに関わっていることが何より嬉しかった。
研修も終わりが近づくにつれ、不安が増してくる。
本当に一人でちゃんとできるのだろうか。基本はマスターしたと太鼓判はもらっている。でも・・・。
閉店後の片付けをしながら、意を決して店長に切り出した。
「店長、もう少し自信をつけるため、ここで研修を続けることはできませんか?」
店長は営業報告書を書く手を休め、諭すように答えた。
「自信は研修を通じては生まれないよ。研修で手順や調理は覚えられるけど、経営は無理。自分の店で、オーナーの自覚を持って働いてこそ、身についていくものだよ」
そして「気持ちはすごーく分かるけどね」と付け加えた。
そうだ、私はスタッフではなくオーナーになるのだ。店長の「基本は大丈夫」の言葉を信じて、オーナーとして成長しなくては。
帰りの電車の中、内装業者が作ってくれた店舗内装のイメージCG画像を手帳から取り出し、自分がオーナーとして采配を振るう姿をイメージして、もう一度気持ちを引き締めた。
研修の次はスタッフの採用だ。
研修期間中に、開店前の宣伝も兼ねて、スタッフ募集の情報を載せたサービス券付きのチラシを工事中の店舗の前に置いておいた。
それがよかったのか、研修中にも何件か問合せをもらっていた。
大学生や主婦の方からの問合せが多い中、60代の奥様からも連絡があった。
今時、飲食の採用で人が集まらないことはよく知っていたので、反応の良さは想定外だった。
チラシでお店のコンセプトをしっかり伝えたのと、近隣の相場を調べた上で、見劣りしない時給を設定したのがよかったのかもしれない。
採用したのは最終的に5名。大学生2名とカフェ勤務経験のあるフリーター1名、主婦1名、そして60代の奥様(心の中でマダムと呼んでいる)だ。
マダムは近くの戸建てに住んでおり、話し方や上品な身なりから豊かな生活を送っていることが伺えた。
「私、自分でこういうお店がしたかったの。でも、勇気が無くて気づけばこの歳。主人や娘にも笑われたけれど、本気でお店に立ちたいと思っています。」
本当は若手のスタッフを揃えるつもりだったが、誰より熱いマダムの思いに、香奈は採用を即断した。