セブン&アイHD社長に井阪隆一氏昇格決定。鈴木会長退任発表からの流れをまとめ

フランチャイズWEBリポート編集部 |2016年05月12日 公開 (2021年11月18日 最終更新)
セブン&アイHD社長に井阪隆一氏昇格決定

コンビニ業界No.1の店舗数をほこるセブン-イレブン。鈴木敏文会長兼CEOと井阪隆一社長兼COOの体制で近年淹れたてコーヒーサービスの導入、レジ横ドーナツ販売、オムニチャネル戦略など革新的な施策が執り行われてきました。

そんなセブン-イレブン、母体のセブン&アイHDのトップ人事案が2016年4月19日に決定されました。鈴木会長が記者会見でグループ経営から退くことを表明した4月7日からの流れを追っていきます。

4月7日:鈴木会長東京都内で退任表明

かねてより社長人事で社内が混乱していたセブン-イレブン・ジャパン。 鈴木氏は、同社の社長を務めてきた井阪氏交代について主張しましたが、取締役会に諮ったところ賛成は15票中7票という結果で否決。その後、臨時取締役会が開催されましたが、日本経済新聞では4月8日、このように紹介されていました。

引退の意向を表明した鈴木会長を外す形で新たな経営体制について協議する見通しだ。鈴木会長は「新しい経営体制に立候補するつもりはない」と述べ、自身の後任についても「私が指名することは考えていない」と話した。

【日本経済新聞電子版4/8 『鈴木セブン&アイ会長退任へ 』より引用】

これに対する井阪氏の反応も同記事にあったので紹介します。

セブンイレブンの井阪社長は8日未明、記者団に「社長を続投する意思がある」と語った。セブン&アイの鈴木会長が退任の意向を示したことは「非常にショック。ずっと教えを受けて成長してきた」と述べた。

【日本経済新聞電子版4/8 『鈴木セブン&アイ会長退任へ 』より引用】

4/8の日本経済新聞電子版にて、4月15日に指名報酬委員会を開くことが報道されましたがこの時には鈴木氏も出席することが可能性としてあがっているものの、メンバーを見直すかもしれないことを示唆しています。

セブン&アイは持ち株会社とグループの事業会社の主要人事案を19日の取締役会での決議に先立ち、指名報酬委員会に再度諮る。指名報酬委は社外取締役のほか鈴木氏と村田紀敏社長兼COO(72)の計4人で構成している。鈴木氏が退任を表明していることから、委員会のメンバーを見直す必要もある。

4月15日:社外取締役の存在が際立った指名報酬委員会

4月15日、指名報酬委員会が開かれましたが、委員長を務めたのは社外取締役の伊藤邦雄氏(一橋大大学院特任教授)。この委員会で、セブン&アイHD社長に井阪氏が昇格する人事案が承認されました。5月末の株主総会を経て、新体制が正式に発足するとメディア各社でも報じられるところとなります。

セブン&アイ・ホールディングスが15日に開いた指名報酬委員会はセブン&アイの社長に中核子会社セブン―イレブン・ジャパンの社長を務める井阪隆一取締役(58)が昇格する人事案を承認した。ただ、退任する鈴木敏文会長(83)が最高顧問など名誉職に就く案は「影響力が残る」として社外取締役が反対。引き続き調整する事態となっている。

この日の指名報酬委では井阪氏昇格に伴う村田紀敏社長(72)の退任や後藤克弘取締役(62)の副社長昇格といったセブン&アイの人事に加え、セブンイレブン社長への古屋一樹副社長(66)の昇格なども承認された。

【日本経済新聞電子版4/16 『セブン&アイ、鈴木氏処遇なお混乱 名誉職にも社外役員反発』より引用】

セブン&アイのグループの人事はこれまで鈴木氏が最終的に判断してきた。司令塔が不在となるなか、新たな人事案は村田氏が中心となり、井阪氏の意向なども確認しながら取りまとめた。その過程でも指名報酬委の2人の社外取締役は大きな役割を果たした。

指名報酬委の混乱を避けるため、セブン&アイは13日、伊藤、米村両氏に事前に会社側の案を提示した。鈴木氏を除く取締役全員が留任し、村田氏がセブン&アイ、井阪氏がセブンイレブンの社長を続けるという内容は事前の社内調整で大筋合意していた。にもかかわらず、社外取締役はかみついた。

矛先が向けられたのは7日の取締役会で鈴木氏が主導した人事案に賛成した村田氏の残留。事態を収束するため、セブン&アイは14日も社外取締役2人と協議。最終的に村田氏が退任を了承し、井阪氏の社長昇格を含む人事案を指名報酬委に提案することが決まった。

事前の調整で混乱を回避したはずの指名報酬委が紛糾したのは村田氏が会社側提案として示した人事案に盛り込んだ重要事項。「鈴木敏文最高顧問」という一文だ。

すべての取締役から退く意向の鈴木氏に対し、社内では名誉職を用意する方向で調整してきた。しかし、指名報酬委の社外取締役は「影響力を残すような肩書は適切ではない」と会社側の提案をはねつけた。

【日本経済新聞電子版4/16 『セブン&アイ、鈴木氏処遇なお混乱 名誉職にも社外役員反発』より引用】

『コーポレートガバナンス』が注目される近年、会社組織の在り方が問われています(統治システムや監査監督機能が機能しているのか等) 社外取締役が会社側の提案をはねつけたとありますが、2名の社外取締役の発言は大きな影響をもたらしたとされています。

社外取締役の役割とは、「経営陣の人選」と「企業戦略を大きな視点から決めること」。 今回のトップ人事の一件は、コーポレートガバナンス機能が発揮された一例と言えます。

4月19日:セブン&アイ、井阪氏社長決定

4月15日の指名報酬委員会の内容とほぼ変わらず。ですが、鈴木会長が最高顧問として名誉職に就くかどうかはやはりまだ確定ではない様子です。

セブン&アイ・ホールディングスは19日、中核子会社であるセブン―イレブン・ジャパンの社長を務める井阪隆一取締役(58)が社長に昇格すると発表した。長年グループを率いてきた鈴木敏文会長兼最高経営責任者(83)は退任する。5月末に開かれる株主総会を経て新体制が発足する。

井阪氏の昇格に伴い、村田紀敏社長(72)は退任する。鈴木氏と村田氏を除くセブン&アイの取締役は全員が留任する。副社長には後藤克弘取締役(62)が昇格する。セブン―イレブン・ジャパンの社長には古屋一樹副社長(66)が就き、井阪氏は取締役として残る。

今後の鈴木氏の処遇については「最高顧問」などの名誉職を用意する予定だった。しかし、社外取締役が「影響力が残る」と難色を示しており、引き続き調整を進めるとみられる。

【日本経済新聞電子版4/19 『セブン&アイ、社長に井阪氏決定 鈴木氏は退任』より引用】

鈴木氏と井阪氏の発言がそのままわかるおすすめ記事

ここまで、セブン-イレブン・ジャパンひいてはセブン&アイHDのトップ人事案の流れを追ってきましたが、セブン&アイ中興の祖である鈴木氏、2016年2月期にセブン-イレブン事業にて5期連続最高益を達成した井阪氏。両者のインタビュー記事を見ることで、両者の思いが読み取れるのではないでしょうか。

編集部からみたセブン-イレブン

平成27年度時点で国内18,572店、年間売上高42,910億円。業界トップを走り続けるセブン-イレブン。鈴木氏の退任を「寂しい」と感じるオーナーさんもいらっしゃるようです。

今度セブン&アイHDの社長に昇格する井阪氏は、セブン-イレブン・ジャパン大卒社員の1期生として入社し、商品開発部門出身の人物です。

例えば、鈴木氏と井阪氏の間にはこんなエピソードがあったのだとか。

商品開発を巡り、語り草となっているのは99年の「冷やし中華」。会長の鈴木敏文氏から11回の差し戻しを受けながら、商品化にこぎ着けた。実績の積み重ねが鈴木氏の信頼につながり、07年のグループ共通のプライベートブランド(PB=自主企画)「セブンプレミアム」の立ち上げでは中心的な役割を果たした。

商品開発一筋との印象は強いものの、06年には米セブン―イレブンの取締役に就任。低迷が続いていた米社の立て直しに尽力した。井阪氏を社長に抜てきした当時、鈴木氏は周囲の関係者に「あいつ、なかなかいいだろう。後継者として考えている」と笑顔で話していたという。

【日本経済新聞電子版4/20『コンビニ一筋36年、商品開発のプロ 井阪セブン&アイ新社長 』より引用】

どことなく井阪氏の素顔がかいまみえるようなエピソードですね。粘り強い性格である一面も垣間見えます。 カリスマ性がありトップダウンのかじ取りに定評があった鈴木氏退任後、、ますます井阪氏の経営手腕が問われることでしょう。

コンビニ業界で見ると、競合であるローソンやファミリーマートもトップ人事が今年行われる方向ですし、業界にとって激震の年と言えるでしょう。

井阪氏が日経新聞インタビューで「経営を対話型にする」と表明

5月26日、株主総会を経た後に新体制が発足するセブン&アイグループ。 日本経済新聞のインタビューにて、井阪氏は経営を「対話型にする」と表明していたことが明らかとなりました。

今までの鈴木会長体制では、鈴木会長に権限が集中していた状況でしたが、井阪氏がセブン&アイ社長になる今後を見据え、このように述べています。

「経営判断を独りで担い、成長を遂げてきた鈴木会長と同じ結果、能力を求められても無理。持ち株会社と事業会社が膝詰めで対話する。現場のイノベーション力を吸い上げられるようなかじ取りをしていきたい。透明性、公平性が分かる形で意思決定していく」

【日本経済新聞電子版5/9『セブン&アイの井阪次期社長、経営を対話型に 』より引用】

セブン-イレブンという柱の事業で成果を上げた井阪氏ですが、セブン&アイグループを率いる上で協調路線を取ろうとしているのがひとつポイントです。

コンビニ事業だけでなくスーパーストア事業、百貨店事業、フードサービス事業、通信販売事業など複数事業の舵をとらねばならない場面に来ていますが、中でもスーパー事業のひとつであるイトーヨーカドー不採算店舗をどう料理するのか。そのあたりの手腕も問われてくる模様です。(鈴木氏はイトーヨーカドーの不採算店舗を閉鎖しようという計画を盛り込み、創業家である伊藤氏の不興を買ったとも言われているため)

コンビニビジネスもローカライズ戦略を重視していますが、このノウハウをスーパー事業でも活かし、地域の特性に応じて商品を販売することも井阪氏は視野に入れているようなので、あくまでも閉鎖でなく、改善を行う動きかもしれませんね。


セブン&アイHD社長に井阪隆一氏昇格決定

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