2016-02-13 FC本部向け小説
行政書士
川本到 |
海外との契約の内容はどのようなもの?
このコラムのポイント
海外展開をお考えのフランチャイズ本部様必読の内容です。「マスターフランチャイズ契約」を結び現地法人にその国でのFC展開をゆだねるという方法もありますが、実は海外展開の手段はそれだけではないのです。そのひとつの解を示したのが、今回13回の小説にもある事例です。 自社の海外進出時ため参考にしてみてください。
フランチャイズWEBリポート編集部
“ポーン”という音ともにベルト着用サインが消灯すると同時に、前の方からわたるさんが歩いてきた。
この鬼、僕と同じエコノミーに座る予定だったのが、空港でチェックインすると、いつのまにかビジネスシートにアップグレードされて、前の席に座っている。
「酒井、お前、到着までにこれ読んどけ。」
といって渡されたのはパワーポイントの資料と、契約書の案文だった。
契約書も、いつも見るフランチャイズ契約書とは違う。
・・・・遡ること1週間前の出来事だ。
「酒井、お前パスポート持ってる?」
「ハイ。」
なんてったって、ついこの前まで学生だ。
卒業旅行で、オーストラリアとバリに行ったのはちょうど1年位前のことだった。
「じゃあ、英語は?」
「え?英語っすか?ダメっす!」
「そうか。まぁ、英語圏ってわけでもないし、それはいいか。」
なんだか、突然の出来事でよく分からないが、“英語がしゃべれないといけないパスポートのいる仕事って、海外出張か?”などと思っていたら、
「来週、3泊4日でマカオに行くから、お前も同行しろ。チケットもホテルも手配済みだから、お前は自分の荷物だけでいいぞ。」
とだけ言い残して、わたるさんはどこかに消えていった。
・・・そして、今、僕は香港行きの飛行機の後方窓側の席に座っているわけだ。
朝9時前に羽田空港を出発した飛行機は、東京湾上空をぐんぐん上昇し、三浦半島を横切り、江ノ島上空から伊豆半島を経て、今は沼津、三島の上空あたり、右手には富士山が見える。冬の晴れた空は、どこまでも青い。
なんて景色を眺める余裕もなく、機内食もそこそこに、僕は資料を読み始めた。
なんとか、必死に読んでいるうちに、飛行機は台湾上空をすでにすぎ、香港へと近づいていた。
約4時間半のフライトで、香港国際空港に降り立ったのは、現地時間の12時半であった。空港はとてつもなく広く、色とりどりのウイングの飛行機を見ることができる。
ゲートから降りたところでわたるさんが待っていた。
「お疲れ。読めたか?」
「お疲れ様です。ええ、読みました。けど、よくわからないことがたくさんでした。」
わたるさんは、ニヤっとして、
「まぁ、そうだろうな。仕方ないな。あとで詳しく話すよ。ほれ、いくぞ!」
といって、歩き出した。
「お前、香港ははじめてか? この香港国際空港ができる前の啓徳空港の時には、香港カーブっていうとんでもない着陸ルートがあって、香港市街地上空をジェット機が飛んで行ったもんなんだよ・・・。」
随分とご機嫌だ。確実のいつもの鬼じゃない。
やっぱり、鬼も海外に出ると、牙がなくなるらしい(笑)
香港からマカオに行くのは、船である。香港国際空港から入国手続きをすることなく、マカオ行きのジェット船に乗り、一時間でマカオである。
この船の中で、わたるさんから今回の出張の趣旨を説明された。
「・・・要は、マカオの会社からCALM DININGをマカオ、香港地域でやりたいというオファーとともに、以前からそこの会社の社長が何度か日本に足を運び、うちの経営陣と何度か会っていたわけだ。それで、いよいようちの開発の真下専務がマカオに行こうとしたら、先方から、今回は弁護士を同席させるから、そちらも契約のエキスパートを同行しろって話になって、それで、先週社長から呼ばれて、お前行って来いって言われたわけだ。」
“なるほど”。
「だから、正直なところ、俺も、今回何の話になるかまったくわからない。さっき渡した資料は、契約がどういう形になるかを場合分けして、どの形で契約をするかを考えるための資料ってことだ。」
などと話をしているうちに、船は速度を落として、マカオのフェリーターミナルに近づいた。
入境審査を終えると、雑然としたターミナルロビーは中国語で溢れている。ロビーには真下専務が待っていた。
「よう、わたる、悪いな、こんなところまで。酒井も、おつかれさん。」
「お疲れ様です。」
「さっそくだが、ホテルで打ち合わせをして、夕方先方と会うことになってるんだが、大丈夫か?」