フランチャイズ加盟開発で役立つ法務がわかる
行政書士川本到
2014-09-09 FC本部向け小説
行政書士 川本到

うちのノウハウ使うな!! ~競業避止義務は何故存在するか?~

 このコラムのポイント

フランチャイズで加盟契約をした後、その期間中そして契約解除をすることがあれ ばそこから一定期間は類似した業態の営業をすることが禁じられるという契約条文 が定められることがあります。「それって職業選択の自由を奪われることになるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。この疑問について、物語上の架空本部CALM DININGの顧問弁護士、藤堂が解説を行います。このコラムはフランチャイズ本部担当者、加盟希望者向けコラムです。

フランチャイズWEBリポート編集部


 もうすぐお盆休み。去年までだったら大学はとっくの昔に夏休みに入って、今頃はどっかに遊びに行っていたか、昼まで寝て、夜はバイトって感じの生活してたなぁ。カノジョの真樹はまだ大学生だから友達と海外に行くとか言って、俺のこと放置してオーストラリアに行っちゃってるし、あー、俺も休みてぇ…。

なんて考えていた矢先、
「オイ、酒井。ちょっとこっち来い。」
とわたるさんから呼ばれた。

ヤベー、考えてること見透かされたかなぁ。わたるさん、人の心が読めるのか!?
この前の小田原店の電話以来、どうも考えが卑屈になってしまってる俺。かなりビビリです。

会議室に行くと、大田原常務の他に、大柄な知らない男の人が一人。

「藤堂先生、彼が先程話した新入社員の酒井です。」
と俺のことを紹介してくれた。

ん??先生???

「はじめまして、弁護士の藤堂です。」
と名刺を出しながら自己紹介をしてくれた。

べ、べ、弁護士??

「は、はじめまして。さ、酒井と申します。」
緊張して震える手で名刺交換をした。名刺交換なんて新入社員研修でやり方習ったけど、始めてだよ。しかも相手は弁護士先生。

「酒井、君は、今日はそこで座って聞いていればいいから。」
と小声でわたるさんが言い、全員が席についた。

「さっそくですが…、」
とわたるさんが切りだす。


「当社の加盟店だった株式会社ワンという会社があります。
ワンは、宇都宮店を経営していたのですが、今年の3月に先方から解約の申し入れがあり、フランチャイズ契約を解約しました。

ところが6月になって、たまたま当社のSVが旧宇都宮店の前を通ったところ、当社のCALM DININGと似たような内装造作のダイニングが営業されていて、店に入ると株式会社ワンの社長の安居氏が店に居て、店長以下スタッフもほとんどCALM DININGと一緒だったそうです。

そこでSVが、安居氏に対して『競業違反ではないか』ということを言ったのですが、安居氏は『この店はワンが経営しているわけではなく、俺の父親が社長をやっている株式会社安居の店だ。営業者が違うんだから、競業違反なわけがない!』と言って、実際に保健所の営業許可を見せられたそうです。

 当社としては、店長以下スタッフが同じで、実質的には安居社長が店舗を取り仕切っているのは明白ですし、メニューもCALM DININGとかなり似ているので競業違反として、どうにかして営業をやめさせたいのですが、営業主体が違うという点で非常に困っています。

 そこで、今日は先生のお力を拝借したいと思い、お越しいただいた次第です。」

はーー、それはやっかいな問題があるんだなぁ。そういえば、この前わたるさんとSVの今井さんが「宇都宮が…」と言いながら話し込んでいたけど、そういう話だったのか。

すると、藤堂先生が
「契約書はどうなっていますか?」
とすかさず、質問。

そうそう、契約書、契約書。契約書に答えが書いてあるのは、この前の小田原事件で学んだぞ。


第●条(競業避止義務)
  加盟店は、本契約期間中および本契約終了後2年間は、日本全国どこにおいてでも、自ら本件店舗に一部でも類似する営業(居酒屋、ダイニング、食堂等の名称は問わない。以下「類似営業」といいます)を行ってはならない。但し甲が書面により承認した場合にはその限りではない。


おーー、ちゃんと書いてあるじゃん!!

すると、わたるさん。
「ご覧の通り、競業避止の定めはあるのですが、なにぶん古い契約書でして、第三者に営業させる行為も競業とするという定めがありません。安居氏の主張する通り、確かに第三者である株式会社安居が営業主体である場合、文理解釈からは競業避止義務の適用をすることができない状況になってしまってます。」

ダメじゃん(苦笑)。わたるさん、しっかりーー!!
なんて、応援している立場じゃねぇな、俺。俺も法務部の一員だった。
さて、どうしたらいいんだろう??
出るか、弁護士先生のウルトラC?

藤堂先生は、ほとんど表情も変えずに続けざまに質問をした。


「内装造作が類似しているかどうかというのは、ある程度イメージの問題なのでしょうが、何か特徴的なことはありますか?メニューの類似というのは具体的にはどうなっているでしょう?」


「メニューについては、先生方もご存知の通り、CALM DININGの売りはステーキ、ハンバーグなどの洋食メニューで、特に人気のCALMハンバーグは、ハンバーグソースが当社独自のレシピを各店舗で作ることになっているのですが、このソースが実際に食べてみたSV曰く、かなり似通っていて、真似された可能性があります。」


「しかし、ハンバーグソースというのは、たとえばデミグラスソースベースでも、それほど大きく一般的なものと違いは出せないのではないでしょうか?」


「ええ、確かに見た目はそうかもしれません。しかし、当社のレシピでは、一般的には入れない食材、例えば果物を数種類を入れたりしています。
それに、レシピについては秘密情報である旨を、契約書にもマニュアルにも、そしてレシピそのものにも記載しており、レシピについてはシリアル管理をしており、通常営業終了時にはそのレシピを回収しています。
ところが宇都宮店ではレシピを失くしてしまったということで、営業終了時に紛失届が提出されているのです。そういった事情から、レシピが流用された疑いも拭えません。」
といって、わたるさんは紛失届を先生たちに見せた。


「レシピを秘密情報と定めていたのは幸いですね。それにシリアル管理も正解です。
不正競争防止法の秘密管理性の要件を満たすでしょう。非公知性や有用性といった要件については立証するのが難しいところですが、契約書でレシピを秘密情報と定めてあるのであれば、ある程度対応可能かもしれません。」
と藤堂先生はニヤッとしてわたるさんを見た。

え??ひこうちせい?
何の話をしてるんだ??さっぱりわからん(焦)。わたるさんはわかってるのか???

わたるさんは平然とした顔で次に進む。
「ええ、いわゆる秘密情報に該当するかどうかという点については私も自信を持っています。問題は、第三者の競業についての点だけなんですが…。」

えー、わたるさんは話をわかってるの?
すげー!!

すると、
「川村さん、君、ある程度当たりをつけてるね。」
と藤堂先生はニヤッとしながらわたるさんに問いかけた。

え??なに、なに??
当たりをつけてるって?わたるさん、さっきから「わからない、わからない」って言ってるだけだけど、答えわかってるの?藤堂先生は何でそれがわかるの?

俺の頭の中は、「?」でいっぱいで、何の話なのか訳がわからなくなっている。

行政書士 川本到

外食系上場企業の法務担当、有名飲食チェーンの法務担当者、法務部門責任者などを経験し、2008年4月に行政書士登録。行政書士川本法務事務所を設立。主に、フランチャイズに関する法務コンサルティング、海外進出支援を中心とした業務を行っている。所属は、神奈川県行政書士会、中小企業診断士協会東京支部フランチャイズ研究会、国際取引フォーラムなど。日本経済新聞社主催のフランチャイズ・ショーや福岡県新生活産業多店舗化事業でセミナー講師、「フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館)や「FCチェーンの海外展開ハンドブック(フランチャイズ研究会)にて著作の実績あり。