2014-11-18 FC本部向け小説
行政書士
川本到 |
夏休みの差押事件~保証金の差押~
このコラムのポイント
ひょんなことから「差押命令書」の文書を手に取ることになってしまった、主人公の酒井。本部である自社に差押えがあったのではと早合点してしまった彼ですが、加盟店が銀行に差押えをされたという話です。ビジネス一般でもよくある差押えの問題。これはどのような時に生じて、加盟店はどのような差押えられ方をするのか。答えは小説の中です!
フランチャイズWEBリポート編集部
わたるさんは昨日から4日間の夏休み。
韓国だか中国だかに行ってくるとかで「何かあっても海外にいるから極力電話してくんなよ!」と言い残して国外逃亡してしまった。
新人残してそういうこと言うかなぁ?普通は「何かあったらいつでも電話しろよ!」って言ってくれるもんだと思うんだけど…。鬼ッ!
何事も起こりませんようにって思いながら仕事してたら、やっぱり何事も起きないことはなかった。俺にとっては、大事件だ。
秘書室の社長秘書、白鳥知恵子さんが珍しく法務のデスクにやってきた。
「わたる部長っていらっしゃる?」
「ハイ、いえ、夏季休暇中です。」
「あらー、酒井君を一人残して行っちゃったのね。困ったわぁ…。」
「どうしたんすか?」
「ええ、ちょっと。」
といって考え込む白鳥さん。そして…、
「うん、いいわ、酒井君でも。」
酒井君でも…、でも、でも、でも…。
どうせ俺じゃ、ホントはダメなんでしょーーー。いいもん!!
「あのね、東都地方裁判所から社長宛でこんな封書が送られてきたんだけど、何だかわかるかしら?」
東都地方裁判所?
裁判所って言えば、裁判関係資料しか…?
え?裁判?うち、訴えられたとか?
恐る恐る封書を受け取り、中身を出してみた。
「サイケンサシオサエメイレイショ…?」
俺は意味もわからず、その文書に書かれているタイトルを読んだ。
えーーー?
差押?
うちの会社、そんなに金払い悪いの!?やべー、転職先考えよ!
とか一瞬のうちに思ってしまった。
「何だか、よくわからないけど、重大な話っぽいから、わたる部長に対応をお願いしようとしたんだけど、酒井君、これお願いするわね。」
と白鳥嬢は、貰って困ったラブレターでも押し付けるようにして、俺に封書を渡して、肩の荷が下りたように去っていった。
うーん…。どうしよう。
とりあえず、「リ○ナビ」でも検索して、法務の中途採用の募集している会社を探さなきゃ。
…じゃなくて、大田原常務の所に行くかな…。
俺は、初めて常務室に一人で入った。
「常務、よろしいでしょうか?」
「おー、酒井、どうだ?わたるがいなくて困ってないか?」
何も知らない大田原常務は明るい。
「はい、実は…。えっとですね、さっき秘書の白鳥さんがコレを持ってきて、どうやらうちの会社、誰かから差押を受けたらしくて、このままだとマズイと思って…。」
目が点の大田原常務。
「お前、何言ってるの???」
「いえ、ハイ、ですから…。」
「ちょっと順をおって説明してみろ。5W1Hをちゃんと話してみな。」
説明をしようとしたが、中身なんてロクに見てないから説明できない。。。
常務に封書を渡して見てもらった。
「バカ、お前、これうちが差されたわけじゃなくて、加盟店が銀行から差されたんだよ。」
封書の中身を見終わって、常務が俺にそう言った。そうだ常務は協立銀行出身だった。
常務からの説明だと、CALM DININGの溝の口店の加盟店のオーナーが、銀行から受けた融資の支払いを滞らせていたため、融資をした京浜銀行が加盟店相手に差押をしたらしい。
そして差押えた財産というのが、加盟店からうちの会社に預託されているフランチャイズ保証金300万円というわけだ。
うちの会社は、フランチャイズ保証金を加盟店に返還してはならず、京浜銀行に払いなさいというのが今回の債権差押命令書に書かれている内容だそうだ。
「酒井、そんなわけだから、この第三債務者の陳述というのを書いて裁判所に送り返しておけ。」
と大田原常務。
これが今回の俺の仕事らしい。
俺は席に戻って、何をどうやって書いたらいいのか、もう一度封書の中身をよく読み、ネットでいろいろと調べてみた。
債権者というのは今回でいえば金を融資した京浜銀行、債務者はうちの加盟店、そして差押財産を持っているうちは第三債務者と言うらしい。
で、第三債務者のうちは、差押財産を今でも持っているか?持っていたらいついくらを京浜銀行に払ってあげられるのか?ということを書いて送り返すのが、「第三債務者の陳述」というヤツのようである。
保証金の返還時期は、加盟契約終了後だよなぁ。
アレ、でも待てよ?保証金ってうちの担保だよな?こんなんされたら、うちの担保がゼロになっちゃわない?
でも、銀行様と裁判所様の言うことには勝てないか??
あー、わからん。いつ、いくら銀行様に払って差し上げられるんだ??300万払ったらうちが損する。。。
聞ける人もいないし。。。堪りかねた俺は、友達の尚幸に聞くことにした。
尚幸は俺の大学の同級生で、今は日明大学のロースクールに通っている。あいつならわかるはず。
尚幸に電話して、会う約束をして、その日の夜、俺は尚幸と会った。
経緯を説明して、尚幸に書類も一式見せると…、
「お前、それは簡単だよ。保証金の返還って、フランチャイズ契約解約時だろ?
そうしたら、加盟店の保証金返還請求権はフランチャイズ契約解約時に発生するわけだ。いっぽうお前の会社はいつでも保証金を未収金の支払いに充当できるって契約書には書いてあるだろ?
そうしたら、フランチャイズ契約解約時までにお前の会社は、この加盟店が払ってくれないお金に保証金を当てて、保証金の金額をゼロにできるってわけだ。
そして保証金返還請求権が発生したときには、保証金の金額はゼロになるから、返還金はゼロ、つまり京浜銀行には払うお金がありませんって理屈になるんだよ。」
といとも簡単に言ってくれる。
おー、わかりやすい。わたるさんもこのくらい親切だったらなぁ…。
「なるほど。でもさ、そうしたら、この書類には何て書いておけばいいんだよ?」
と俺は陳述書を示した。
「まぁ、フランチャイズ契約解約時に第三債務者が債務者に返還すべきフランチャイズ保証金がある場合に、当該保証金相当額を支払うって感じで書いておけば?」
「なに?なに、もう一度…」
俺は、尚幸の言葉の通りにそれを書いた。
尚幸、ありがとーー!!(泣)
やっぱ、持つべきものは友だな!!
翌日、会社の印鑑を陳述書に捺印する申請を出した。
今回はミスなし!!
あとはわたるさんが帰ってきたら報告すればOKだな。