与信や免税の事も踏まえて決定すべき「決算期」のポイント

原川 健 |2017年09月22日 公開 (2018年03月26日 最終更新)
決算報告書イメージ

シリーズ形式でお伝えしている会社設立時に押さえておくべき重要ポイント。

前回までの「会社名のポイント」「本店所在地のポイント」「事業目的の決定ポイント」「資本金・株主構成のポイント」「役員構成」はいかがでしたでしょうか?会社を設立する際には取引先や事業内容、銀行からの融資、助成金、納税、免税のことも考え、いろいろなところに注意する必要があります。 今回は、「決算期」を決める上でのポイントについてお伝えいたします。

決算期の決定ポイント

売掛・買掛の締切日に合わせる?

決算日は、月末以外の日であっても問題ありません。
例えば、3月15日や、6月3日を決算日にすることも可能です。

売掛金の締切日が20日なので、月末決算にしてしまうと、締め切り後の端数を計算する必要がでてくるという理由から、20日決算にされている会社もあります。

しかし、月々の業績に変動がないのであれば、決算において、年に一度、締め切り後の端数計算をすれば足ります。これも通常は、請求システムが自動的に計算してしまいます。

最近では、多くの業界や企業でも、月末締め切りがほとんど一般的になっています。売掛金以外の経費などの端数計算も煩雑になってしまいますので、月末を決算日にされることをおすすめします。

決算期末から申告までの日数に注意

決算期末から、2ヶ月以内に決算を固めて株主総会を行い、税務申告をする必要があります。

この2ヶ月以内に決算の作業を行い、内容を検討して、税務申告を行うことになります。
決算は非常に多くの作業を伴うものですので、経理担当の方などにかなりの負担をかけることになります。
充分に時間をかけて余裕を持ったスケジュールで進行させないで、バタバタとやってしまうと、重大なミスをおかしたり、内容をよく検討できずに見切りで決算を行ってしまうことになってしまいます。

この作業に充てる日数が、実は決算期によって大きく変わります。これにより、経理担当の方が、決算に充てることができる時間が、大きく変わってきますので、考慮して決算期を決めてください。また、業務の繁忙時期も考慮してください。

下記に単純に平成19年の月当たりの日数で、各決算月の申告期限までの稼働日数を計算してみました。 土日、祝祭日、年末年始休暇(1月は3日間、12月は1日間)、お盆休暇(3日間)を除いて計算しました。最大で9営業日の差があります。

決算作業は日常の業務を行ったうえで、さらに追加で発生する業務ですので、営業日の日数が少ないと、かなりの影響がでてしまいます。

11月決算、12月決算は、かなり営業日数が少ないので、要注意だと思います。
祝祭日などは年度によって変わりますので、おおよその目安として活用してください。

決算の税務申告は経理担当者の負担が増すのイメージ

決算月別営業日の日数比較

決算月 申告月 申告期限までの日数
1月決算 3月申告 40営業日
2月決算 4月申告 41営業日
3月決算 5月申告 41営業日
4月決算 6月申告 42営業日
5月決算 7月申告 42営業日
6月決算 8月申告 41営業日
7月決算 9月申告 38営業日
8月決算 10月申告 40営業日
9月決算 11月申告 43営業日
10月決算 12月申告 40営業日
11月決算 1月申告 34営業日 ★要注意
12月決算 2月申告 34営業日 ★要注意

資金繰りを考慮しましょう

資金繰りには、年間を通して波があります。まず業種による業績の波があります。

飲食店であれば、2月・8月は「ニッパチ」と言って、一般的に業績が落ち込む月です。反面12月などは、業績が向上する月です。
アパレルであれば、シーズンが変わる時期が需要期であり、夏物よりも秋冬物の方が単価が高いので業績があがります。
帽子を扱っている業種であれば、春夏前頃が需要期であり、観光関連であれば、年末年始・夏期休暇・GWなどが需要期でしょう。
清涼飲料を扱っている業種であれば、夏場の方が需要があるでしょう。母の日ギフトで売上を大きく伸ばす業種もあるでしょう。

このようにどのような業種でも、年間を通して需要に変動があります。
そしてこの需要の前後に、資金繰りが変動します。需要期の前には、メーカーや卸売業は、大量に商品を生産して在庫を抱えるため、一般的に資金繰りが悪くなります。

小売はその都度仕入れて、売ってその場で現金回収するので、資金繰りには悪い影響はありません。

このような業種特有の資金繰りの変動と、下記の納税等の資金需要の時期を組み合わせて考慮して、決算期を決めれば合理的です。
特に売掛のサイトが長い業種、業績の季節変動が激しい業種については、よく検討してください。

業績の変動から資金繰りが悪くなる時期に、納税等が重なると、かなり資金繰りを逼迫します。

資金繰りは事業特有の季節変動があるイメージ

法人税等・消費税の納税時期

決算月 決算納税月 中間納税月
1月決算 3月 9月
2月決算 4月 10月
3月決算 5月 11月
4月決算 6月 12月
5月決算 7月 1月
6月決算 8月 2月
7月決算 9月 3月
8月決算 10月 4月
9月決算 11月 5月
10月決算 12月 6月
11月決算 1月 7月
12月決算 2月 8月

その他の資金需要時期

項目名 納付・支払月
源泉税納期の特例納付 1月
労働保険年度更新納付 5月
源泉税納期の特例納付 7月
夏季賞与支払 7月
冬季賞与支払 12月

金融機関の与信を考慮しましょう

卸売業・小売業・製造業のように商品・製品・材料等の在庫を抱える業種は、在庫が少なくなる時期を決算期とするのが合理的です。 在庫が少なくなるとその分、キャッシュフローが良くなり、一般的に現金預金の残高が増加します。 決算において、在庫金額が相対的に多いと、金融機関からは、不良在庫が懸念されますし、棚卸の回転率などの財務比率も悪くなり、金融機関の評価が下がる要素となってしまいます。

反面、在庫金額が少なければ、不良在庫を懸念されることもなく、棚卸の回転率、キャッシュフローがよくなり、手持現金預金残高も多くなり、金融機関の評価があがる要素となります。
また、同様に売掛金・受取手形などの売掛債権も、少ない時期の方が、売掛債権回転率、キャッシュフローがよくなり、手持現金預金残高も増えますので、金融機関の評価があがります。

消費税の免税を考慮しましょう

資本金1000万円未満の会社を設立すれば、設立後2期間(2期目は課税期間判定の特例あり)は、消費税の免税事業者となれます。
売上と一緒に消費税をもらっても、申告や納税する義務が生じません。

3期目以降は、前々期の課税売上高が1000万円以上であるかどうかで、消費税の課税事業者になるかどうかが決まってきます。

例えば、4月に会社を設立して、9月を決算にします。

1期目の決算期が6ヶ月間になり、 2期間が免税ですので、 1期目6ヶ月間+2期目12ヶ月間の18ヶ月間が免税の期間になります。

例えば、4月に会社を設立して、3月を決算にすれば、1期目の決算期が12ヶ月間になり、2期間が免税ですので、1期目12ヶ月間+2期目12ヶ月間の24ヶ月間が免税の期間になります。
こちらの方が得ですね。

会社設立のイメージ

株主総会を決算終了後3ヶ月以内に

会社を作ると、決算終了時から2ヶ月以内に、法人税等の申告と納税が必要になってきます。
この期限を少しでも遅れると、税務上の特典が多い青色申告を取り消しされたり、無申告加算税・不納付加算税・延滞税などの、多額のペナルティを負担しなければなりません。

定款で株主総会の開催時期を決算終了後の2ヶ月以内ではなく、「3ヶ月以内」と定めることにより、決算終了後から3ヶ月以内に株主総会を開催することが可能になります。

これにより、事前に申告期限の延長の承認申請書を税務署等に提出して、承認を受けることにより、法人税等の申告書の提出期限を決算終了後2ヶ月後から3ヶ月後に、申告および納税の期限を延長することができます。

納税については、1ヶ月分の利子がつきますが、納税の資金繰りがつかない、決算をもっと時間をかけて検討したいなどの場合には非常に有効な制度です。

なお、消費税については申告期限を延長する制度はありませんので注意が必要です。

決算期は簡単に変更可能

いろいろ書きましたが、決算期は実は簡単に変更できます。
決算期は登記事項ではないため、会社で定款を変更して、税務署等に届出をするだけで、変更が可能なのです。登記等を伴いませんので、登録免許税等のコストも、一切かかりません。

例えば、消費税の2期間の免税を取った後に、自社にとって都合のよい決算期を検討して、変更することも可能です。

上場会社であれば、決算期の変更は、配当の問題など、多くの問題があり、簡単にできるものではありませんが、中小企業においては、借入先の金融機関に、合理的な説明ができるのであれば、決算期はもっと柔軟に変えても問題ないと思います。

まとめ

全6回にわたってお伝えしてきた会社設立時に重要なポイント。会社名の決定から始まり、本店所在地の意味、事業目的の意味、資本金の意味、などなど、ご理解いただけましたでしょうか?

会社を設立した以上、絶対に潰してはいけないのが、経営者として果たす責任です。これまでに出てきた重要ポイントは知らなかったでは済まされませんよ!それぞれの意味をよくご理解いただき、素晴らしい会社づくりのご参考にしていただければと思います。

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