経営コンサルタント/兵法経営士濱本 克哉
2015-06-13 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

正攻法は地道に、奇襲は楽しく

 このコラムのポイント

例えば店舗経営などをしていて、行き詰まることありませんか?そんな時に読みたいのがこのコラム。斬新さという視点も持つことも肝要であるということが挙げられています。

フランチャイズWEBリポート編集部


評判はいいのにお客が減っていく

イタリア料理店をオープンさせたDさん。専門学校で料理の基本を学んだ後、シティホテルで修業を積んだだけあって、料理の腕前は確かでした。

多くのメニューを準備し、美味しいワインもそろえて店を開店。昔からの知人・友人に案内を出したこともあり、オープン当初から店は大盛況。料理の評判も良く、オープン後2~3ヵ月は賑わっていたのです。

ところが、その後、徐々にお客が減っていきました。Dさんは不思議です。たくさんの人が来てくれて、料理はうまいと評判なのです。美味しいのですから、味わった人がもう一度来たくなったり友達を連れてきたりするはず。客が減るのはいったいどういうわけなのか、と。

そこで、たまたま来てくれた友人に思い切って尋ねてみました。

「見てのとおり、最近、あまりお客さんが来てくれないんだよ。料理の評判はいいんだけれど・・・。どうしてだろう?」

するとその友人は、一瞬曇った表情を浮かべた後、小声でこう言いました。

「料理は大丈夫だと思うけどさぁ、接客に問題あるんじゃない?」

Dさんは意外な指摘に驚きました。

「接客?まぁ、確かに接客の練習とかはほとんどやってないけど、気に障るような悪い接客はしてないと思うがなぁ」

友人は続けてこう言いました。

「もしもその辺の格安居酒屋と同程度の値段だったら文句も出ないだろうけど、結構なお金とるじゃない?
値段の割になんというかなぁ、『あぁ、この店に来てよかった!』と思えるようなさわやかさというか、気の利いたサービスというか、そういうものが無いんだよね。例えば、XYZという店の接客なんかすごいよ。ちょっと覗いてみたら?」

Dさんは接客に問題ありとは思っていなかったので少し心外でしたが、せっかくの指摘なので、接客で中心的な役割を担っている女性店員のSさんと共にXYZに行ってみることにしました。

正攻法で勝つ

XYZはDさんの店と価格帯が同じくらいの和食店です。

そこに行ってみて、入った瞬間から接客に大きな違いがあることに気づきました。
まず「いらっしゃいませ!」の声と共に親しみの湧く笑顔で迎え入れてくれます。この基本中の基本からしてDさんの店では出来ていませんでした。さらに、席への誘導、水やお茶の配り方、注文の取り方など、一連の動きがいちいち丁寧で、お客のことを大事にしているという気持ちが伝わってきます。

また、その後の目配り気配りも違いました。料理によっては店員が自ら取り分けるサービスを行ったり、出してから時間が経過して冷めてしまったと思われる料理については「温めてまいりましょうか?」と声をかけたり。

「ここまでやるのか」と感心しながらDさんとSさんは帰途につきました。
そして翌日から早速接客を改めることにしたのです。

書店で接客に関する本を買ってきて参考にすると共に、XYZで感じられた「顧客志向の心」を大事にするという基本方針も立てました。そして、Sさんが中心となり、接客の改善を進めたのです。Dさんも接客訓練に参加し、Sさんを後押ししたので、接客はみるみるよくなりました。この改革により、来客数は徐々に増えていったのです。

奇襲で喜ばせる

Dさんの店は料理がおいしく接客もすばらしいということで、お客が絶えることはなくなりました。

しかし、常連客の来店間隔は少しずつ広がっているような気がしたDさんは、何かが足りないのではないかと思うようになりました。それでまた、例の友人に訪ねてみたのです。彼も最近は足が遠のいていました。

彼が言うには、
「お前の店、すばらしいんだけど、たまには別のモノも食べなくなるわけさ」

これを聞いたDさん、友人に「じゃあ、いつもと違うのを出してやる。うまいぞ」といいながら即興でメニューにない料理を作って出しました。友人はとても喜び、「今度、友達つれてくるから、また頼むよ」と言って帰っていきました。

Dさんは、これまで定番料理ばかりを出していたことを反省し、「変化って大事なことだなぁ」と認識するとともに、他のお客へも思いがけないサービスを提供することを考えるようになりました。

例えば、

・予約時に来店目的を聞き、それに合ったサービスを用意しておく。誕生日のお祝いなら花束を用意する。
・その日、仕入れた魚や野菜に応じて、その日だけのメニューを作る。
・お客の中に子供がいる場合、男の子用、女の子用にそれぞれ特別にお菓子をプレゼントする。

など、サービス内容に変化をもたせるようになったのです。

地道な努力と斬新さの両方で魅力が高まる

『孫子の兵法』にこう書いてあります。

「そもそも戦闘というものは、勝つための正しいセオリーを踏まえ、その通りに準備して敵と開戦し、奇の戦法を臨機応変に使うことによって敵に打ち勝つものである」

戦いに勝つには、まず基本的な戦力が必要です。兵隊の人数、武器の性能や量、戦闘に関する鍛錬の度合いなどで戦力は決まります。これに加えて、戦場で敵の意表を突くアイデアを考え出し、奇襲攻撃が出来れば勝てる可能性はかなり膨らむのです。

先のイタリア料理店の場合、料理の味や接客サービスが基本的な戦力に当たります。

ここが弱いと店を開いても失敗します。また、最初によくても、徐々に質が落ちればやはりお客は離れていきます。地道にコツコツ、レベルを高め続けなければなりません。

一方で、誕生日のお客に花束を渡す、その日だけの料理を作るなどは奇襲攻撃です。顧客目線で考えたアイデアがあれば、顧客は予想外のことに喜び、店についての印象を深めるのです。

これについては店の側も楽しく考えることが出来なければなりません。通常の商売に加えるサービスであるため、「面倒くさい」と考える店主がいますが、それだと逆効果になります。店主のストレスがお客に伝わってしまうのです。もしもストレスと感じるならば、やらない方がよいでしょう。

正攻法は地道に、奇襲は楽しく行い続けることが、どんな商売においても長く顧客に愛し続けられるコツです。しっかりやっていきましょう。

さて、5回に渡り『孫子の兵法』を解説してまいりました。『孫子の兵法』のほんの一部をご紹介しただけですが、これだけでも独立・起業に大いに役立つはずです。ぜひ応用していただき、ご商売を成功させてください。ご愛読、誠にありがとうございました。

経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

ハマモト経営代表。兵法経営士。関西学院大学文学部卒業、大手小売業、学習塾、出版社、経営コンサルタント会社を経て経営コンサルタントとして1997年独立。地方銀行のビジネスセミナー講師、経営者団体での講演実績多数。個別企業のコンサルティングは通算約170社。メールマガジン社長が経営に活かす「孫子の兵法」は読者数17000人。著書「孫子の兵法 社長が経営に活かす70の実務と戦略」(日本経営合理化協会)。