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2015-05-30 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
経営コンサルタント/兵法経営士
濱本 克哉 |
基本は持久戦、拙速は避けよ
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このコラムのポイント
起業するとなったとき、自身のサービスや商品をどのように売っていくのが正解なのか?悩んだりすることもあるでしょう。そんな時に読んでおきたい経営戦略のコラムです。
フランチャイズWEBリポート編集部
新商品を導入して失敗
自分の得意分野で商品を作り、商売開始!
あなたは小さな店を開きました。小さいとはいえ商品には自信があります。お客さんに買ってもらえれば、必ず喜んでもらえるはず。胸には希望が満ちています。
ところが、なかなか売れません。昔からの知り合いは買ってくれますし、もともと商品に興味を持ってくれる人もたまに顔をのぞかせてはリピート購入してくれるのですが、計算してみると毎日、赤字。徐々にあせりが募ってきます。
「このままいって大丈夫だろうか?」
心配になったあなたは、顧客が広がらないのは商品のせいではないかと考えるようになりました。
「商品そのものに魅力が無いから口コミが起こらないのではないか?」
「そもそもこの商品を欲しいと思う人が少ないのではないか?」
そう考えたあなたは、思い切って新商品を扱うことにしたのです。新商品の導入にはお金がかかりますし、広告宣伝も新たにやり直さなければなりません。
「それでもこれ以上赤字を膨らますよりマシ」
とやってみたものの・・・。またまた、少ししか売れませんでした。以前からの顧客は新商品に興味がないのか買ってくれません。
「いったいどうすれば売れるのか?」
あなたは頭を抱えてしまいました。いったい何が悪かったのでしょうか。
戦略は不変!戦術は変更すべし
最初に得意分野の商品を扱ったのは大正解です。顧客の満足度は高くなりますし、あなた自身の商品供給力も高いのですから、売れれば売れるほど商売は好循環して収益も上がっていきます。
しかし、ほとんどの新規事業では、そう簡単に売れるようにはなりません。知名度も低く、顧客からの信頼も得られていないのですから当たり前です。ところが、多くの事業者は勘違いしてしまうのです。商品が悪いのではないか?と。
商売における戦略とは「誰に何を売るか」です。これを決める際には熟慮しなければなりません。なぜなら、
・一度決めた戦略は変えてはいけない
からです。
戦略とは、少々、うまくいかなくても、腹を括ってやり続けるものです。戦略をコロコロ変えるような人は大きな成功をつかむことは出来ません。
これに対して戦術とはどういうものか?
と見定めた人たちに対してどのようにアプローチをし、どんな説明をして興味を抱かせ、商品を欲しいと思ってもらうのか。店舗であれば、看板、レイアウト、ディスプレイ、接客、広告宣伝などがそれにあたります。
そして、
・うまくいかない戦術は変えるべき
なのです。
商品が売れない場合、最初に検討すべきは新商品についてではなく、売り方ということになります。その商品が顧客の目にどう映っているか、そもそも見えているのか、といったことをさまざまな角度から検討してみなければなりません。
弱者は持久戦でいけ
売れない場合はもちろん、最初からよく売れた場合も注意する必要があります。
例えば飲食店などで、新規オープンをした際にお客が殺到してサービスが行き届かず、1ヵ月後には閑古鳥が鳴いていた、というケースがよくあるのです。
・買った後に顧客が笑顔を見せる
・その顧客が友人知人に商品を広めたくなる
・店の前を通った人が入ってみようかという気になる
といった状態をどのようにして創り出すか?
「商品で大ヒットを飛ばす」「広告で一気に人を集める」といったやり方は、特に創業間もない零細企業では危険です。
『孫子の兵法』にはこうあります。
「戦争には、拙速(せっそく)=勝利は不十分でも早く終らせるというのはあるが、巧久(こうきゅう)=完全勝利を求めて長期化させるというので良かった例はまだ無い」
これを読むと「拙速」、つまり「拙くてもよい、速く売れ」という考え方がよいと思いがちですが、実はこれは強者の戦法です。
この孫子の言葉から、「そうか、じゃあ弱者は持久戦でいくべきだ」ということに気づかなければいけません。
拙速はシステムが整い、高いサービス品質を維持できる中堅以上の企業がやること。零細企業は細く長く、顧客の笑顔に包まれながら商売を続ける弱者の道を選ぶべきなのです。
経営者の仲間に救われた事業家
ハウスクリーニング業で創業したBさん。
コラムの第2回でお伝えしたように、3人の営業担当者を雇ったものの全く成果が上がらず、結局、彼らも辞めてしまいました。
その後、1人でコツコツと営業活動を行っていましたが、もっと効率よく集客しようと新聞折り込みチラシを入れてみることに。広告費用は15万円。部数は3万部。
Bさんはこれで何件か受注できるだろうと思っていたのですが、問い合わせが2件あったのみで受注ゼロ。惨憺たる結果に茫然としていました。
「手広くやるにはハウスクリーニングだけでは厳しいかも。庭の手入れとか鍵の修理とか、もっといろんなサービスを加えれば、たくさんの人のニーズに応えられるのでは」
と考え始めたBさんでしたが、念のため取引銀行の勉強会で知り合った異業種の社長に相談してみました。すると、
「Bさん、知らない人に売り込むのは大変だよ。たぶん、新サービスを扱ったところで同じ結果に終わるのではないか?
こう言われたBさんは、勉強会の参加者70人に懇親会で手渡してみました。新聞3万部にチラシを入れて問合せが2件しかなかったのです。
「70人に配ったところでどうなるものか」とあまり期待していませんでしたが、なんと8人もの社長から仕事をもらえることになりました。
「多少、手間がかかっても、商品の紹介は身近な人に丁寧に行うに限る」
と強く認識したBさん。他の新サービスを導入することはやめ、ハウスクリーニングに特化して地道にコツコツ、持久戦で事業を推進しています。
次回は日常の仕事の仕方について、「正攻法は地道に、奇襲は楽しく」と題して解説します。