2016-06-30 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
ハートマネー代表・ファイナンシャルプランナー
氏家 祥美 |
会社設立時の重要事項!役員報酬についての考え方
このコラムのポイント
会社を設立して経営者となると、従業員とは違い自身の報酬は自ら決める事ができます。会社のためを考えて経費は控え目が良いのか、それとも成功者に応じた報酬を取るのか。このコラムでは経費についての考え方、社会保障の視点、税金対策。さまざまな観点から最適な額の設定方法を解説いただきます。
フランチャイズWEBリポート編集部
役員報酬はどうやって決めればいいの?
こんにちは!女性のローリスク起業を支援する一般社団法人キャリア35の理事、氏家祥美です。今回は法人化するにあたっての『役員報酬』の決め方についてお話していきます。
会社員と違って、自分で会社を設立すると役員報酬を自由に決めることができます。自由に決められるなら、できるだけ給料は高いほうが良さそうなものですが、会社経営の立場と個人の生活を双方から考えると、実はそう単純なものではありません。
役員報酬を高くしすぎると何がいけないの?
会社員としてそれなりのお給料をもらっていた人が起業する場合や、個人事業として安定した売り上げを上げている人が法人化する場合などには、「自由に決められるなら、せっかくだから役員報酬を高く設定したい」という声がよく聞かれます。
ところが、ここには「社会保険料」という大きな落とし穴があります。会社員のお給料からは厚生年金保険料や健康保険料などの「社会保険料」が差し引かれていると思いますが、この社会保険料は労使折半が原則。一人ひとりのお給料から天引きされている社会保険料と同額(もしくはそれ以上)を、会社も負担しています。自分が会社経営者となった場合には、自分が受け取る役員報酬から支払う社会保険料と、会社側として支払う社会保険料の両方を考える必要が出てきます。これまでの2倍の負担感ですね。
社会保険料は「健康保険・厚生年金の保険料額表」という一覧に基づいて決められます。社会保険料は報酬に比例して支払うため、むやみに役員報酬を高くすると社会保険料の負担が重くなるので気を付けましょう。
また、役員報酬が高くなるということは、個人の所得税や住民税も当然高くなります。個人として受け取れる金額は多くなりますが、出ていくものもその分多くなるのです。
役員報酬を低くしすぎると何がいけないの?
社会保険料を個人としても会社としても負担をするというお話をすると、今度は「役員報酬をできるだけ低く設定したい」という声が聞かれます。これは特に、これまで専業主婦として夫に扶養されていた人や、新規に事業を始めるためにまるで売り上げ予測が立たないという人によく見られる反応です。
ところが、役員報酬を低く設定しすぎることにも問題があります。事業を始めるからには適切な報酬を得るのは当然ですし、また、役員報酬を低く設定しすぎて法人に利益が残ると、結局そこから法人税としてごっそり持っていかれることになるからです。
では、「最初は役員報酬を低く設定しておいて、事業が安定して売り上げが上がって来たら、役員報酬を上げればいいのでは?」と思いますよね。これも、誰もがよく考えることなのですが、そういうわけにはいきません。一年の途中で何度も役員報酬を変更できたとしたら、役員報酬が法人税逃れのための隠れ蓑になってしまうからです。
役員報酬は「定期同額」が原則
役員報酬やスタッフに支払う人件費は、企業にとって「損金」扱いとなります。損金として認められるためには、「定期同額」といって、事業年度を通じて毎月同額の役員報酬を支給することがルールとして決められています。
変更できるのは、会計年度開始から3か月以内に開くことになっている株主総会においてのみ。そこで、役員報酬を20万円上げることを決めたとしたら、そこからはその年度が終わるまで20万円上げた役員報酬を継続することになります。役員報酬を減額する場合も、同様に株主総会での決定になります。ただし、減額に関しては著しく売り上げが低下した場合などには、期の途中で減額改定することも認められています。
経営者の老後の備え、もしもの備えは法人で
役員報酬を高く設定したいという経営者さんにその理由を聞くと、「老後の不安」「経営者としての生活の不安」がよく聞かれます。そうしたリスクに備えて、多めに役員報酬を得ておき、貯金しておきたい、保険に多く入っておきたいというのです。
たしかに、経営には常にリスクがついて回りますから、リスクへの備えは会社員以上に必要でしょう。会社に余裕が出て来たら、会社として役員の退職金準備や、役員の病気や死亡に備える保険に入ることも検討しましょう。公的な制度、民間保険の活用など、いろいろなやり方があります。役員報酬を増やしてそこから個人で備えるよりも、いろんなメリットがありますよ。このあたりについては、また別の機会にお話をさせていただきたいとおもいます。