日本フランチャイズチェーン協会名誉顧問黒川孝雄
2013-03-06 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
日本フランチャイズチェーン協会名誉顧問 黒川孝雄

今年のフランチャイズ業界予測と加盟店開発動向

 このコラムのポイント

フランチャイズ・ショー2013のセミナーで語られた、その年の業界予測をまとめた内容です。当時は安倍氏の「三本の矢」を示す金融政策・財政政策・成長戦略が注目され始めた頃でした。デフレ脱却に向けて動き出す日本で、フランチャイズ各業界はどのように動こうとしているのか?、各フランチャイズの出店の動きはどうなのか?が予測されています。近年の業界の動きを知りたい方は必見です。

フランチャイズWEBリポート編集部


※この記事はフランチャイズ・ショー2013にて行われたセミナーでの内容を、編集部でまとめたものです。

フランチャイズ業界予測

コンビニ業界

2013年2月、日本国内のコンビニの店舗数は、以前から飽和状態の目安と言われてきた5万店舗を超えました。
この先も各社の出店はまだ続く見通しです。2013年中には5万2~3千店になるだろうと予測されています。
ここで注目したいのは、2012年6月以降、セブンイレブンを除くコンビニ各社の既存店売上高がマイナスに転化しているという点です。加盟者・加盟を検討する方にとっては既存店の売上高の数値が運営または加盟を考える点での全てであり、これが減益化することは「コンビニ業界の衰退」を意味することと同じである、と考えられます。
ただ黒川氏は、飽和状態にあるコンビニ業界であっても本部が既存店の売上を上げることを最重要課題であると意識し、既存店売上アップのための商品開発・新サービスの提供に臨めば、まだ成長産業であると予測されています。

外食業界

2007年から5年間連続で外食フランチャイズの全店売上高は低下しています。2007年と2011年を比較すると5年間で93.4%と、7%近くも低下しているデータが出ており、2011年の東北大震災の影響があるということは間違いない状況でしょうが、それ以前から外食産業の落ち込みが激しいです。
理由としてはコンビニ弁当・惣菜の質が上がった、デパ地下やスーパーなどで惣菜を購入し持ち帰って自宅で食事をするという中食文化の普及、外食業界全体が価格競争に陥ってしまっているため、等が挙げられます。現状の景気回復に合わせて企業も値上げを考え、店舗の運営方針改善や方向転換の動きも見られはしますが、明るい話題の話が聞けるにはまだ時間がかかるであろうとの予測があります。

サービス業界

サービス業界はコンビニ業界と並んで2013年度の見通しは明るいでしょう。フランチャイズショー2013に出展した本部の総数約180社のうち、実に約70社がサービス業。この数字が表しているように、今、勢いがあり、現に成長している・成長が見込めるビジネスであることが分かります。
中でも介護業界が現在急成長にあります。2013年、団塊の世代と言われる方々が一斉に退職を迎えることもあり、新たなビジネスを考える方も増えるのではないだろうかと予測。これから、今までにない新しいサービスが求められていくでしょう。
介護に続き学習塾業界も店舗数を着実に伸ばしています。少子化と言われる時代になぜ学習塾に勢いがあるのだろうと思う人もいるかもしれません。しかし現在、中学生の約60%は塾に通っている。というデータが出ており、就職が難しく、雇用が安定しない時代だからこそ、少子化の社会であっても、せめて教育にはお金を惜しまず使い、優秀な子供に育って欲しいと考える保護者が多いようです。

今後の動向

SV(スーパーバイザー)の経営指導の強化について

フランチャイズオーナーにとって、店舗・サービスを運営していく上での疑問点や不満等を伝えることができる機会、スーパーバイザーの臨店。オーナーを大切にする本部ほど臨店頻度が高いと言えます。下記は2012年に確定したある裁判の判決です。
飲食業A社は、フランチャイズに加盟する3社から欺瞞的顧客の誘引・競業禁止義務違反・経営指義務違反などで提訴され、2009年東京高裁は「全ての点において加盟者側勝訴」という判決を出しました。本部は控訴しましたが、2012年最高裁はこれを棄却し東京高裁の判決は確定。
加盟者側の全面勝訴というこの判決は業界本部にとって衝撃が走った。という記事がありました。

いろいろな問題点が指摘されていましたが、特にSVの指導について画期的な判断が下されたと言えます。
ある程度のロイヤリティを徴収する場合、「専門的知識を有するSVによる経営指導が必要である。」
このことはほぼ既定の事実となりました。
過去のフランチャイズ本部と加盟店間に起こった裁判の判例ではFC契約上、SVなどの訪問回数は契約の際に当事者間で承諾。これまでは契約書の内容を遵守した判決が出ていましたが、今回の判決ではSV(本部)に厳しいと言わざるを得ない結果となりました。
このことから、現在SVの指導に力を入れている本部が多くなってきています。
本セミナーの講師である黒川氏はSVを指導する講師もつとめています。

加盟店開発の動向

2011年度のフランチャイズ統計調査(店舗数)

業種2011年度店舗数前年比増加数前年比増加率
小売業合計 93,572 2,940 103.2%
うちコンビニ 47,593 1,824 104.0%
うちその他小売 45,979 1,116 102.4%
外食業 54,798 41 100.1%
サービス業 90,468 1,711 101.9%
合計 238,838 4,692 102.0%

全体では2%の増加であり、経済全体に元気がないと言われる中では、検討したのではないでしょうか。理由は次の2つが挙げられます。

複数出店の増加

これからの「経営戦略アンケート」で回答を出した43社のうち24社が回答した項目は「既存加盟者の複数店展開」であり、56%を占めています。これは新規加盟店開発が困難となり既存加盟者の複数出店に期待しているという声です。
複数出店を考えるオーナーに対し本部は優遇策として

  • 加盟金の減額又は免除。
  • 優良物件の優先的な紹介。
  • ロイヤリティの減額又は免除。
  • 優良直営店の売却

などを提案しており、いかにして複数出店してもらうかがポイントとなってきています。

低額投資(1千万円以内投資)の加盟店が増加

フランチャイズ加盟開発代理店を調査したところ、投資額1千万円以下のフランチャイズが約70%で、投資額の大きい飲食業は殆ど集まらないとの答えが各社より寄せられました。今回のフランチャイズショーでも初期投資1千万円以下の本部比率

  • 小売業:83.3%(ほぼコンビニを指す)
  • 飲食業:39.0%(物件費が高いため低額投資が困難)
  • サービス業72.1%(40~50代の方々が起業というパターンも最近多い。)

という結果が出ています。

理由は、初期投資を抑えた開業プランにしておかないと加盟希望者が集まらない現状があります。
近年、フランチャイズで独立開業を考える方々の傾向は、まずは業種業態を問わず開業費が低く設定してある本部への加盟検討、という調査結果がありますが、これに対し本部も低額投資で加盟できる仕組みを整える努力もみられます。

例として

  • 加盟金を安くする。2号店目は加盟金ゼロ。
  • 保証金をゼロ、または低くする。
  • 必要な機器(IT機器、レジなど)を安く仕入れられるようにする。

など、

ではなぜ加盟検討する方は初期投資が低い本部を選ぶのか。その理由として、

  1. 失敗したら人生が終わってしまう
    ・・・この先の人生に不安を抱えている。いざ独立開業を果たしても成功は保証されていない。今の時代にはそこまでのリスクを負えないと言う心理的なもの。
  2. 銀行が融資してくれない。
    ・・・アベノミクスだ、景気回復だとはまだまだ現実的ではない。銀行も回収できるかどうか疑問がある相手への融資にはまだ踏み出せないという点からでしょう。

総合的に、2013年のフランチャイズ業界は、まだ初期投資額が低く設定してある本部が加盟開発を行う上で有利になる点があります。
社会問題となっている高齢化社会・少子化に対し役立つ業種業態が注目を集めることも予測されます。しかし、アベノミクス効果により、昨年までより個人・企業が使える額が上がっているという情報もあります。
フランチャイズショー2013自体も史上最大規模になりましたし、主催者発表によれば来場者数も近年では最多を記録しました。業界全体としてはまだ今の不況打破に至るまでにはなっていないのかもしれませんが、これからに望みを見つけることができるフランチャイズショーになったのではないでしょうか。

日本フランチャイズチェーン協会名誉顧問 黒川孝雄

愛知県出身。名古屋大学経済学部を卒業。 卒業後、明治乳業株式会社(現:株式会社明治)に入社。 その後、明治サンテオレ株式会社代表取締役社長に。 明治サンテオレでは、当時ファストフード業界になかった炭焼きコーヒーやスパイスポテト(フレッポ)の販売などに尽力する。 明治サンテオレ株式会社代表取締役社長退任後は 自身で株式会社フランチャイズ研究所を設立。 代表取締役に就任する。 また、日本フランチャイズチェーン協会の名誉顧問も務めている。