2015-01-09 小説で起業ノウハウを学ぶ!FCビジネス起業物語
フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー
安紗弥香 |
フランチャイズ研究会執筆『夫婦の脱サラ・コンビニ開業で夢を現実に』
50歳目前。妻へコンビニ開業の思いを打ち明ける
起業物語の登場人物
高田 元(たかだ はじめ)49歳
高田 由美子(たかだ ゆみこ)47歳
高田元は、静岡県の大学を卒業後、県内の中堅会社で営業の仕事をしている。以前から今の会社で定年を迎えることに不安があったのと、独立して夫婦で事業をやりたい、という思いから50歳を機に会社を辞めることを決心。この年齢から夫婦で始めるなら、比較的容易に始められるフランチャイズチェーンにしよう…と検討している。
日曜日。元は、自宅のダイニングで朝刊を読みながらこうつぶやいた。
「そろそろだなあ…」
元の小さなつぶやきも、由美子はすかさずキャッチする。
「そうね、あと半年で50歳ですもんね」
「あ、わかった?」
元はいつも由美子の鋭さに驚かされる。その鋭さは、結婚して25年にも渡る付き合いと、パートとして結婚直後から働いているスーパーでの接客対応で培われたものだ。そしてまた、その鋭さに、何度も助けられてきたのも事実だ。元はちょっとだけ感謝しながら、由美子に話を続けた。
「そう、子供も全員大人になったし、50歳を機に、仕事を辞めて独立したい、という話」
「ふふふ、やはりね。で、何をやりたいの?」
由美子は話が早い。元がまわりくどい言い方ではなく、ストレートな表現を好むのを、よくわかっているのだ。
「店を、やろうと思ってる」
「店…?」
「そう、店。営業も長年やってきて、やりがいはある。でも…同じ仕事のまま定年を迎えたときに、自分や家族に残せるものってなんだろう、と思うと、わからなくなってね」
由美子は元の表情が険しくなるのを見つめながら、かつて元が同じことを言っていた時期を思い出した。
「そうね…確か、あなたがそう言い始めたのは3年前だったかしら」
「そう、正月、千葉に帰ったときだよ。高校の同級生に何十年ぶりに再会してさ。「お前、今何やってんの?」って聞いたら、そいつ、「親父の店を継いだ」って言ってさ」
「佐々木さん、だったっけ」
「そうそう、佐々木。あいつの食材屋、地元の商店街の中にあるんだけど、そこも昔と比べるとさびれてて、大変みたいでね。だけど「自分たちの動きを日本全国へ発信して、もう一度街に元気を取り戻すんだ」って言って、商店街の活性化を進めているらしいんだよ。前向きでさ、かっこいいな、と思ってさ」
「うん、そうね、かっこいいわよね」
「ああ。あいつは、こうやって、一生かけて大きなものを残していくのかな、と思うと、オレもなんか残せるものが欲しくてね。オレは営業でいろんな人に会ってるし、会社のサービスも売ってきた。商売は全くの素人じゃない。由美子もずっとスーパーで接客やってるだろ。だから、店かな、と」
「そう…この世界、あなたが思う以上になかなか大変よ?それを独立してやるとなったら、なおさら」
由美子は少し得意げに、しかし同時にためらいながら言葉を返した。
「ああ、だろうね。」
元はそこに異論を示さない。疲れて料理をする気になれないのか、由美子が週2日働く日の晩食は、スーパーの値下げ品メニューが多いからだ。
「でさ、できれば…故郷でやりたいと思ってる」
「…?!」
それまでのテンポのよかった由美子の反応が、途絶えた。