高齢化社会の課題に挑戦! 大手スポーツクラブが展開する介護FC「元氣ジム」誕生秘話
フィットネス業界大手の東証一部上場企業・株式会社ルネサンスが、初の介護事業として立ち上げたリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」。その立ち上げには、病院のリハビリに課題を感じていた一人の理学療法士が関わっていました。
前回の生きがい創造企業として、株式会社ルネサンスが誕生した背景に続き、今回はルネサンスがリハビリとフィットネスを融合させたデイサービスというコンセプトにたどり着いた経緯や、フランチャイズ募集の今後の展望について語っていただきます。
大手フィットネスクラブ運営企業が手掛けるデイサービス「元氣ジム」とは?
2019年に創業40周年をむかえ、フィットネス業界の売上シェア国内3位、世界10位を誇る「スポーツクラブ ルネサンス」を運営する東証一部上場企業・株式会社ルネサンス。その株式会社ルネサンスが介護事業に新規参入して立ち上げたのが、リハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」です。
元氣ジムでは、理学療法士による本格的な機能改善のためのリハビリと、グループエクササイズなどのスポーツクラブ運営のノウハウを組み合わせた、介護事業としては全く新しいプログラムが展開されています。軽快なBGMや本格的な運動器具の数々、そして利用者からあふれる笑顔は、デイサービスではなくスポーツクラブの雰囲気に近いものがあります。
今回は、そんな元氣ジムを運営する株式会社ルネサンスの、執行役員兼アクティブエイジング部 部長 鈴木有加里さんと、理学療法士で同部専任課長の橋本剛さん、ルネサンス三ツ境 管理者の道下哲至さんの3人に元氣ジムが誕生した背景や、株式会社ルネサンスとして初めてのフランチャイズ展開にかける思いについてお話を伺いました。
スポーツクラブでフィットネストレーナー、支配人業務を経て、2005年より介護予防事業を開始。介護予防や生活習慣病予防のプログラム開発を手掛ける。現在はリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」の事業責任者を務める。
鎌倉の病院で理学療法士として勤務するなかで、病院のリハビリに課題を感じ自身で元氣ジム立ち上げのきっかけとなる事業計画書を作成。株式会社ルネサンスに入社後、元氣ジムのコンセプトや内装設計、プログラム作成などに携わる。
理学療法士として病院勤務後、2016年に株式会社ルネサンスに入社。2019年9月にオープンした直営店・元氣ジム三ツ境・元氣ジムJr.三ツ境の管理者を務める。管理者としてケアマネジャーや病院等への営業やスタッフの育成などマネジメント業務に携わりながら、理学療法士としてリハビリも担当する。
医療現場で感じた『リハビリ』に関する社会課題の解決を目指して
元々、私は鎌倉の病院で理学療法士として働いている際に、診療報酬の改定を通じてある課題を感じていました。
診療報酬の改定により、長期のリハビリを医療保険から介護保険への移行が推進され、医療保険を適用できるリハビリの期間が短くなってしまいました。医療機関では介護保険が適応できないので、本来は継続的なリハビリが必要な患者さんであっても、途中でも打ち切らざるをえない状況でした。
この問題は、「リハビリ難民」という特集がテレビで組まれるなど、社会問題としても注目を集めるようになりました。
そもそも介護保険は要介護(要支援)認定を受けていなければ利用できないのですが、医療保険による病院でのリハビリが打ち切られた患者さんは、介護保険が適応できる施設に移動せざるを得なくなりました。
しかし、当時は介護保険を適応しているデイサービスなどの施設では、病院のような各個人の課題に対応可能な、評価に基づいたリハビリを実施しているところはほどんどなく、「リハビリをしてほしいのに、お遊戯のようなことしかしない」と利用者の方が訴えていました。
身体機能を維持するためにリハビリが必要な患者さんは、結局、介護施設では必要なリハビリをしてもらえないので、病院でのリハビリを希望されるのですが、医療保険の日数制限により、医療機関でもリハビリを受けることができません。このような医療保険でも介護保険でもリハビリを受ける場所がない「リハビリ難民」が多く存在していました。
そうですね。どうにかこの課題を解決できないかと、当時勤めていた病院に介護保険を適応できる通所リハビリへの参入を提案したこともありました。しかし、病院が介護保険分野のサービスに参入するには、さまざまなハードルがあって難しいと却下されてしまいました。
それでも諦められず、2010年には看護婦長や同僚の理学療法士と事業計画書を作成し、首都圏で展開しているスポーツクラブに計画書を送りました。そんな中、最後まで興味を持って話を聞いてくださったのがルネサンスだったんです。
私自身スポーツクラブに通っていたのもあって、スポーツクラブのなかにリハビリができる場所があればいいなとイメージしてたんですよね。
それに、高齢者の会員が増えているスポーツクラブでは、行政や自治体と提携して介護予防のプログラムを行なっているところが増えていたので、本格的な介護事業をやりたい企業があるんじゃないかと思っていたんです。
まさに!というところで、ルネサンスでは2005年より、行政の委託を受けて介護予防事業に取り組んでいました。
具体的には、ジムの休館日に高齢者の方々に来館いただき、運動するというプログラムを実施。この事業を通して、身体機能がすでに低下されている、より重度な方の健康もサポートできれば…と考えていました。
そうなんです。ただ、ルネサンスには介護予防の楽しさ・継続性のあるプログラムをつくるノウハウはあっても、疾患をもった介護保険を利用する方に対応できるリハビリの知識はありませんでした。
なので、理学療法士や看護師による「本格的なリハビリ」と、これまでの「介護予防の楽しさ・継続性」を融合させたリハビリ施設を作りたいと考えていました。
そんな折に、橋本から事業計画書が送られてきたんです。誰もが楽しくリハビリを続けられる計画だと共感して、すぐ橋本たちに連絡をとり事業化の準備を進めました。
介護施設感をできる限り排除! 理学療法士 橋本さんのこだわり
介護施設や病院っぽさをできる限り排除することですね。
病院では安心感は提供できるのですが、勤めていた病院のリハビリ施設には、部屋に窓がなくベッドが一つだけ。そして音楽もかかっていなかったりとなにかと辛気臭さがありました。
なので、元氣ジムにはスポーツクラブの「楽しい雰囲気」を取り入れて、きちんと安心感と楽しさを提供できる施設にしようと考えていました。
そうですね。「メディカルとフィットネスの融合」だけでなく「安心感とワクワク感の融合」も、元氣ジムの大きな特徴にしたいと考えました。
なので、一般的なスポーツクラブのような空間を目指し、「壁にポスターは貼らない」「椅子の色は元気な赤」といった細部までこだわり設定しました。
橋本から提案された「安心感とワクワク感の融合」という思いには弊社も大変共感し、施設の内装やプログラムのコンセプトは、橋本のアイディアを積極的に取り入れました。
元氣ジムでは理学療法士が安心感を、運動指導員としてのスタッフがワクワク感を提供するという役割を担っています。
元氣ジムが提供するのは利用者一人ひとりに合わせたリハビリ
利用者一人ひとりの目標や課題に合わせたリハビリを行なっています。
当時のリハビリ特化型デイサービスとして展開されていた別の施設では、「歩くためには筋肉が必要なのでマシンを使いましょう」といったように、評価による課題抽出がなく、同じメニューを全員がこなしていました。
でも、病気や身体の症状によって一人ひとり課題は違いますよね。病院では当たり前のことなのですが、一人ひとりの疾患や症状を考慮した評価を実施し、課題に合わせたリハビリをするということを元氣ジムに取り入れました。
まずは利用者の機能評価や体力測定を行い、課題抽出と目標設定を実施します。利用者の評価は理学療法士が担当し、課題に対して、各個人に合わせて立案したプログラムに沿って、各スタッフが指導できるようにしています。
元氣ジムの特徴的なプログラムに、レッドコードという運動があります。レッドコードは動作の改善を目的としたプログラムです。
筋トレマシンは筋力を強化させるのに適していますが、筋力強化だけでは、動作を改善させるのは困難です。座って物をとる、立ち上がる、歩くなど、動作には必ず重心の移動が伴います。レッドコードでは、重心移動を反復することで、重心を移動する際に生じる回転感覚や加速感覚、床からの荷重感覚をリズミカルに身体に入力する要素で構成されています。このような感覚を身体に入力することで脳を刺激し神経と筋を活性化することで動作を改善するプログラムです。
こうした、みんなで一緒に実施するグループエクササイズを実施しています。
グループと個別で目的としている部分は違いますが、グループだと効果が出ていることをみんなで共有できるので仲間意識、モチベーションアップにつながっていると思います。これはシナプソロジー®にも関係していますね。
シナプソロジーは、慣れない動きをすることで脳に刺激を与えるプログラムです。例えば右手をグーにして太ももを叩き、左手をパーにして太ももをさする、そして掛け声に合わせて左右逆にする…といったような動きです。
上手くいかず間違えてしまう方が多く、そんな時は皆さん声をあげて笑うんですが、じつは脳の活性化という意味では、間違えた方が刺激は大きく、笑いが脳の活性化につながっているんです。
これはルネサンスが多世代に、そして運動が苦手な方でも取り組めるプログラムを開発しようと運動と脳の関係を研究していて、それがメソッド化され、活用の幅を広げるためにシナプソロジー研究所を立ち上げました。昭和大学脳神経外科の藤本司名誉教授にプログラムを監修してもらい、東京医科歯科大学の朝田隆特任教授に実証実験に協力いただいています。
このシナプソロジーは確かなエビデンスを持ったプログラムで、元氣ジム以外にスポーツクラブルネサンスや外部施設の準備運動としても取り入れています。
平均年齢は78.5歳ですが、40代から90代の方まで幅広くご利用いただいています。
9割以上の方は現状自力歩行できますが、リハビリしないと歩行機能に支障が出てくる可能性があります。中には車いすの方もいらっしゃいますが、元氣ジムでリハビリを続けることによって、健康機能を維持・向上する結果につながっています。
元氣ジムに通うようになってから、日常生活が良い方向へ変わったという声は多くいただいています。
当施設へ通うご利用者様は、3階にある自宅までの階段を一人で登れず、外出が難しいという状況でした。しかし、週2回、元氣ジムのご利用を開始して、わずか1週間でお一人で階段の上り下りができるようになり、床屋さんにも自分の足で行けるようになったんです。
他にも、旅行に行けるようになった方や、送迎をやめて徒歩で元氣ジムに通うようになった方から、たくさんの喜びの声をいただいていますね。
ルネサンス初のフランチャイズへの挑戦、その理由は?
フランチャイズ展開はルネサンスとして初めての試みとなります。
元氣ジムは高齢化社会の時代、本当に求められるサービスだと思っているので、地方を含めてたくさんの施設を展開したいと考えてました。
もちろん直営店を増やすのも一つの手なのですが、それではどうしてもコストと時間がかかってしまうため、フランチャイズという形で他の企業様の協力を仰ぐことにしました。
2019年12月時点では秋田や仙台、福島、岡山、広島といった地方の地元企業5社に加盟いただいています。
テニススクール運営企業や交通会社、飲食店運営会社など地域密着型の事業を展開されており、地域貢献や地域の高齢者を元気にしたいといった思いから元氣ジムに加盟されていますね。
元氣ジムやルネサンスの理念に共感いただけることが第一ですね。特に経営者や元氣ジム運営担当者の方には、地域の高齢者を元気にしたいという強い思いを抱いていただけると嬉しいですね。地域の人々の健康のため、社会貢献のためという点では、非常にやりがいのある事業だと確信しています。
施設の規模にもよりますが、約1年ほどで130人から150人くらいの利用者が集まり、売上としてもそのくらいで単月黒字化しますね。早いところでは半年経たずに損益分岐点を超えることもあります。
もちろん世の中には、ビジネス的なところでいうと元氣ジムより利益率の高いフランチャイズ事業が色々あるかと思います。しかし、元氣ジムの場合は一度利用いただいたら長期的に通っていただけるので、売上が安定しやすいという特徴があります。
2019年9月2日にオープンしてから1ヶ月で56人のご利用者様が集まり、3ヶ月経った今では100名を超えるご利用者様を集客できています。元氣ジムでは、過去の施設も合わせて一番順調な集客だと聞いています。
ケアマネジャーさんへの営業やチラシ配り以外にも、独自にイベントを開催したことが功を奏したと思います。通常の内覧会だけでなく体操教室を開催したり、元氣ジムの休館日に若い人向けのレッドコードを使ったエクササイズを実施したりといったイベントが、認知度アップに繋がりましたね。
あとは、ご利用者様にあわせたリハビリで満足度が高いので、リハビリ効果を実感したケアマネジャーさんが他の方を紹介してくれることも大きいです。オープン後、ほぼ外営業をしなくてもご利用者様の紹介をいただけているのは、運営の質が確保でき、しっかりご利用者様と向き合いながら結果を出せているんだと思います。
理学療法士の採用も全面バックアップ、今後は子ども向けデイサービスを展開
有資格者の採用は厳しい時代なので、元氣ジムの展開を始めたばかりの頃は大変でした。
しかし、ルネサンスと元氣ジムの知名度が上がってきているため、現状では求人の反応率が高く、いまのところ、どの施設もうまく採用できています。
地域的に採用が難しい場合は、採用のアプローチをしっかりサポートする体制を整えています。専門職専用の求人サイトに出稿したり、場合によっては元氣ジムの理学療法士が面接に立ち会うこともあります。
嬉しいことに、最近では元氣ジムで働いている理学療法士が、元同僚を紹介してくれるリファラル採用も増えてきていますね。
ご利用者様のことを真剣に考えて施術し、ご利用者様が目標を達成してできることが増えたと喜ぶ姿を見る時が一番のやりがいですね。
私が理学療法士として病院に勤めていたときは、どんなに患者様のことを思ってやっていても、成果に対してではなく1日のリハビリ実施時間に対しての評価が中心でした。
元氣ジムではご利用者様に健康になって喜んでもらえますし、それが直接売上にもつながるのでやりがいがあります。
元氣ジムJr.は、児童の発達支援や放課後等デイサービスを行なう施設です。
実は元氣ジムJr.の成り立ちは元氣ジムと似ていて、ルネサンスに脳性麻痺の子どもを抱えるスタッフがいるのですが、彼が言うにはダウン症や発達障害などでリハビリを必要とする子どもが多いにも関わらず、子どもがリハビリできる施設はほとんどない。
それで、そのスタッフが社内の新規事業・新業態提案会議に応募し、2018年12月にトライアルとして神奈川・東戸塚で元氣ジムJr.がスタートしたんです。もともと需要が多い地域だったので、すぐに満員になりました。
その結果を踏まえ、元氣ジム 三ツ境でも2020年1月から元氣ジムJr.を併設することになったんです。
元氣ジム 三ツ境は15時までの営業ですので、それ以降に子どもたちを迎えてプログラムを実施します。これまで夕方以降の時間帯は施設の空き時間を有効活用できていなかったのですが、元氣ジムと元氣ジムJr.は併設できるので、相性が良いんです。
併設することで施設の稼働率と売上を伸ばすことが可能になり、その他にも元氣ジムで得たノウハウを元氣ジムJr.の子どもたちに還元できるため、効率の面でもメリットが大きいです。
いえ、これから直営店でやっていくので、フランチャイズ展開はまだ先になると思います。まずは元氣ジムが求められている地域に、元氣ジムの直営店やフランチャイズ加盟店を増やしていくところからですね。
ルネサンスが展開する事業は、全て困っている人の声を聞くことから始まっているので、地域にある医療機関やサービス事業者と連携し、高齢者たちのお困りごとを解決することで、「心も身体も元気になる社会づくり」を目指していきたいです。
新しい価値を生み出す場所として、今後も利用者や加盟企業の皆さんに寄り添いながら、まだ元氣ジムを必要としている方に利用いただけるように、全国に広げていきたいと思います。