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2016-01-03 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社フォーナレッジ 代表取締役
加藤 綱義 |
M&Aコンサルタントが語る!事業承継を円滑に~後継者不在問題を解決する方法~
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このコラムのポイント
ニュースや新聞などでよく耳にするM&A。大企業などで起こるマネーゲームのようなものと思っている方も多いかもしれませんが、事業継承の一つの手段としてとらえることもできるんです。今回はまずM&Aの手順をわかりやすく解説いたします。
フランチャイズWEBリポート編集部
約50件ものM&Aに携わってきた立場から「M&A」を解説します!
第1回を寄稿してから、久しぶりの友人や知人から多くの励ましの言葉をいただきました。このような機会をいただけたことに感謝いたします。
さて、第2回は、M&Aの概要から説明させていただきます。なお、私はM&Aの評論家でもアナリストでも学者でもありません。あくまでも約50件のM&Aをクロージングベースで10年以上もの間、実務として関わってきた者として書かせていただきますので、学術的な間違いはあるかも知れませんがご容赦願います。
M&Aとは?
M&Aは、Mergers and Acqisithionsの略で、直訳すると「合併と買収」となります。日本語では「企業の合併や買収の総称」として使われます。冒頭から話を逸らして恐縮ですが、大学1年生(一応、英語英文学科)の時に私はCommunicationという単語を辞書で調べた記憶があります。四半世紀以上を経て、すっかり日本語です。M&Aも同様だと思います。
M&Aの本場アメリカでは年間数十万件のビジネスが売買され、経済の活性化と起業家精神の醸成に貢献していると言われております。ゼロからスタートするよりもM&Aを活用しリスクの少ない経営を図ります。
また、M&Aで売却してキャピタルゲインを得られるほど魅力ある事業を起業・成長させた経営者は「成功者」として評価され、そのキャピタルゲインは新たなビジネスを生みます。
ここで、日本でのM&Aの件数の現状をご覧ください。
過去最高でも3,000件ありません。2014年で約2,300件。上場企業が3,500社あることを考えるとこの数は少ないと言わざるを得ません。
ただ、この数字は基本的に公表されているものなので、中小零細企業のM&Aは集計されていないと考えた方が良いです。通説・俗説レベルですがそのような非公表なものを入れてやっと年間1万件ぐらいと言われております。
変わりつつあるM&Aへの認知
一昔前にM&Aのイメージを聞かれれば、ライブドアや村上ファンドの事件もあり「マネーゲーム」「ハゲタカ」「敵対的買収」「乗っ取り」「金儲け」「転売」「経営不振」など悪い言葉が並んだに違いありません。
最近は経営者仲間などに呼ばれてM&Aのセミナーなども行うのですが、その際に問いかけると「経営戦略」「ハッピーリタイア」「事業承継」「後継者問題」など出口戦略としてのM&Aが認知されてきております。
実際に大手M&A業者のセミナー構成は、前半がハッピーリタイアした社長の体験談で、後半はM&Aの手順やメリットなどを業者が説明するというものがほとんどです。それも団塊の世代(昭和22年から24年生まれ)と呼ばれる経営者の事業承継、後継者問題が正に深刻な社会問題となりつつあるからです。
20年ほど前であれば、事業承継は息子・娘(その婿さん含む)、親族でほとんどが行われていたと言われています。親族以外の役員・従業員、ましてや社外の第三者が事業承継するのは珍しいことでした。最近では、親族内の割合と親族以外の割合が拮抗してきています。この親族以外が事業承継する場合の多くはM&Aが介在します。
M&Aで第三者への事業継承
では、何故、親族内の事業承継が減ってきているのか?
団塊の世代の多くの経営者は、戦後の日本の好景気の中で一定の成功を収め、その子ども達はそれなりの教育を受け、都会の大学に行き、大企業や官僚・公務員、士業などに就くケースが多くなりました。以前であれば、酒屋の長男はビールメーカーで修業して家業を継ぐということもありましたが、現在は全くの異業種に就職していることも多く、家業を継ぐだけの経験を積んでおりません。
息子・娘がダメなら番頭さんがいます。ある意味、番頭(役員・従業員)さんへの事業承継は妥当です。何しろ経営者(創業者)と長年二人三脚で事業を発展させてきたので業務経験に関して全く不安はありません。しかし、事業承継できない理由が二つあります。創業者の株を買い取る資金の問題と借入金の連帯保証の問題です。
息子・娘もダメ、番頭さんもダメとなり、第三者(社外)への事業承継がM&Aです。また、番頭さんの問題をクリアするために、番頭さんにスポンサーをつけて、創業者の株を買うMBO(Management Buyout、マネジメント・バイアウト)という手法がとられるM&Aも増えてきております。
事業承継できない場合は、必然的に清算・廃業の道を必然的に歩むことになります。そのような企業は「ヒト・モノ・カネ」を新たにつぎ込みません。粛々と事業を閉じて行きます。
このように後継者不在を理由として廃業は年間7万社で、その結果、毎年20万~35万人分の雇用が失われているそうです。【※週刊ダイヤモンド2013年11月9日号32頁より引用】雇用だけでなく取引先も失われ、経済の活力が失われます。特に、地方はそれが顕著です。地方の地番沈下の遠因だと思います。
私の実家は蒲郡市で町工場(ミシン刺繡加工)であることについて前回書きました。兄はメガバンクで東京在住、妹は隣町の町工場(車部品)へ嫁いで、後継者はおりません。幸い事業での借入金はないため、いつでも廃業できる状態です。これが後継者不在の実態です。
私は、M&Aを使ったスムーズな事業承継は、事業が守られる=雇用も取引先も守られることで地方活性化そして日本を元気にする一助となることを信じて、この仕事をしています。
具体的なM&Aの手法とは?
そろそろ具体的なM&Aの手法について書きたいと思います。
中小零細のM&Aの場合、主に2つです。「株式譲渡」と「事業譲渡」です。
また、この2つとは別に「会社分割」という手法もあります。
1.株式譲渡
世の中で一般的にM&Aというと「株式譲渡」を指すことが多いです。株式譲渡は会社そのものの売却です。つまり、会社の資産(事務所の金庫内の現金も)、負債、契約、資格、社員等全てが買主に引き継がれます。
簿外債務や係争、未払い残業代のリスクなど負の資産ももちろん引き継がれます。譲渡時点で顕在化していなくても関係なく引き継がれるのが株式譲渡です。そのため、デューデリジェンス(買収監査)に時間と費用をかけてしっかりやる必要があります。一方でメリットもあります。対外的には会社自体は何も変わらない(株主が変わっただけ)ため、取引先との契約などのまき直しが不要です。また、雇用も当たり前に継続されます。
2.事業譲渡
一方で事業譲渡は、部門売却です。つまり、売主が売りたい部門(事業)だけを、買主が買いたい部門だけを売買するのが事業譲渡です。事務所の金庫の中にある現金は事業譲渡契約書で譲渡対象となっていない限り引き継がれません。負債や簿外債務、係争等のリスクを引き受ける必要がありません。
一方デメリットもあります。各種契約書(家主や取引先等)や許認可等は全てまき直し、とり直しです。雇用も一旦、売主会社は退社となり、買主会社に入社となります。
例えば、飲食100店舗の運営会社のM&Aを事業譲渡でやってしまうと大変な交渉・事務作業が発生することは容易に想像できます。そもそも家主に断られたら、店舗を継承できずM&A自体が壊れることになります。
3.会社分割
そこで第3の方法として有効なのが「会社分割」です。会社分割は、株式譲渡の事業譲渡の良いところを組み合わせることが可能です。
飲食100店舗の中には赤字店舗、いらない業態、希望エリア外、フランチャイズ店舗があるとします。それを買いたい(売りたい)店舗だけを会社分割で新会社に移し、その新会社の株式を株式譲渡で買うというものです。
会社分割してできた新設会社に移す行為は法的に承継行為、新設会社の株式譲渡も法的に承継行為のため、賃貸借契約もフランチャイズ契約も雇用関係も当たり前に継続されます。また、分割する際には分割計画書に承継する資産や契約を記載しますので、記載されていないもの(簿外債務や係争等)は引き継がなくても良いメリットがあります。
そのため、株式譲渡と比べて、デューデリジェンスは簡易で済み、費用も安価で済みます。
ただし、会社分割には債権者保護手続きが必要であったり、賃貸借契約の中には会社分割による承継を禁止していたり、継承できない資格・許認可などがあります。また、会社分割を使って、賃貸借契約やフラインチャイズ契約を第三者に譲渡することは、法的には問題なくても家主やフランチャイズ本部との信頼関係を壊すことになれば事業価値はなくなってしまいます。
そのようなトラブルを避けるためにも信頼できるM&Aアドバイザーや専門家(弁護士、司法書士、公認会計士、税理士等)と慎重に進める必要があります。
案件ごとに「適切なM&A」を判断し助言するのが私の仕事です
いずれにしても、案件毎に、どのスキーム(株式譲渡、事業譲渡、会社分割以外含め)が適切かを売主様の都合、買主様の都合も考慮しながら判断し助言するのが私の仕事です。
次回は、M&Aの価額算定からタイミング、フラインチャイズとの共通点やメリット・デメリットまで触れられればと思います。