2016-05-31 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
一般社団法人キャリア35 代表理事 行政書士
尾久 陽子 |
女性起業支援家の行政書士が解説!会社設立時に必要な印鑑と使い方まとめ
このコラムのポイント
会社設立をするときに必要な印鑑登録。しかし起業するときはなるべく初期費用をおさえたいもの。 印鑑に関してはどのような印鑑を必要最低限用意しておけばいいのか?、そして個人事業主の場合はどうすべきか。行政書士の尾久陽子氏に解説いただきます。
フランチャイズWEBリポート編集部
Q.起業するとき、印鑑セットは買ったほうがいいですか?
A:会社設立するときは、会社の印鑑登録が必要です。ただし、開業時の初期費用は必要最低限に抑えることをおススメします!
こんにちは!女性の起業を支援する「一般社団法人キャリア35」の代表理事、尾久陽子(行政書士)です。キャリア35では、毎月、女性起業講座を開催しています。ローリスクで起業して着実に一歩を踏みだせるよう、個人コンサルやご相談も行い、ご好評をいただいております。わたしたち、女性ならではの細やかなフォローはピカイチと自負しております。
さて、今月からは、わたしたちキャリア35のメンバーが、起業を目指す方々からお伺いしたナマの質問・ご相談を、本コラムでご紹介いたします。小さなモヤモヤや、大きなお悩みも、わたしたちが、さくっと回答。起業のたまごさんのお力になれたら嬉しいです。
会社設立に必要な印鑑は?
会社などの法人を設立するときには、その登記申請と同時に法人印鑑を届出(印鑑登録)します。この届出をした印鑑が、いわば「会社の実印」になります。
このように、個人の実印は、お住まいの市町村役場に登録しますが、会社の実印は、会社の本店を管轄する法務局に登録します。なので、会社の印鑑証明書も市町村役場ではなく、法務局で取ります。
会社の印鑑証明書の請求をするには、専用の印鑑カードが必要です。印鑑カードをまだ持っていないときは、会社設立の申請をした法務局で印鑑カードの交付を受けましょう。あとは、印鑑カードさえあれば、全国の法務局で会社の印鑑証明書を取ることができます。
会社の実印は、契約書や申請書など、経営に重要な書類にたびたび押印します。
ところで、会社の実印というと、「●●株式会社 代表取締役之印」と刻印された、丸い印鑑をイメージするのではないでしょうか。
実は、会社の印鑑登録では、これはマストの条件ではないことをご存知ですか?
会社実印の登録に必要な条件は?
1.印鑑のサイズ・・辺の長さが1cmの正方形に納まるもの、または3cmの正方形に納まらないものはダメ!
2.スタンプ印やゴム印など照合に適さないものはダメ!
登録の条件は、たったこれだけ。印鑑に会社名がなくても、個人名の印鑑でもOKです。
実は、私は合同会社の代表者でもあるのですが、この会社は一晩で準備して大急ぎで設立したんです。会社の実印を作っている暇もありませんでした。なので、設立申請の時は、私個人の実印を会社の実印として申請。印鑑のサイズさえ合っていれば、それでもまったく問題ありませんでした。
ちなみにその時は、自分の実印と会社の実印が一緒だと、何かと不便なことも多いので、後で会社名の入った印鑑を作成して、改めて会社の印鑑登録を変更しました。
会社の実印を作っていないから、まだ会社設立できない!と慌てている方、こんな裏技もありますので、慌てずいきましょうね。
会社設立印鑑3本セットは必要?
さて、会社の実印の条件は、案外、自由であることがわかりました。では、会社設立印鑑3本セットは、開業時に必要でしょうか?
印鑑3本セットでは、会社名が刻印された代表印(実印)と、銀行印、角印がセットされています。銀行印は銀行取引の際、角印は請求書や簡単な帳票など日常的に押印するときに使用します。これらは、私たちが日常使用している認印と同じもの。常に実印を使っているのは心配、という人は、用途に応じて作ってもよいでしょう。
会社のスタッフが少ない(常に代表している本人が印鑑を使用している)、日常、押印する必要書類は多くない、ということであれば、無理に最初から豪華な3本セットを用意しなくても業務上問題ありません。
個人事業に印鑑登録はある?
では、個人事業を始める人は、個人事業用の印鑑登録が必要でしょうか?
個人事業を開業するときには、税務署に「開業届」を提出しますね。確かにその届出書には押印が必要ですが、いつも使っている認印でOK。個人事業主として、特別に印鑑を登録する手続きはありません。
建設業など、開業をするときに官公署の許可が必要な事業の場合には、許可申請書類に個人の実印の押印を求められることがあります。また、オフィスの賃貸借契約をするときなどは、契約書に個人の実印の押印し、印鑑登録証明書を提出するものですが、屋号のついた個人事業用の印鑑を押す場面はありません。
このように、個人事業で重要な場面に登場するのは、市町村役場に登録している個人の実印と、印鑑登録証明書です。
もっとも、弁護士や行政書士などの士業として事業を開業するときには、弁護士会などに入会する時に、職務で使用する印鑑を登録します。これを職印といい、いわば、職務をする上での実印の取り扱いとなります。さまざまな書類を作成して提出する士業の場合、職印は日常的に使用する大事な印鑑。会から、印鑑証明書の発行をしてもらい、提出する場面も多いものです。
職印として登録できる印鑑の条件は、所属する会によって細かく規定されているので、入会前によく確認してから、職印を作成するようにしましょう。
では個人開業印鑑セットはいらない?
ここまでで、個人事業では、弁護士などの士業でもない限りは、日常的に使用する印鑑は認印でOK。大事な場面では、実印を使用するとご説明しました。そうすると、ハンコ屋さんで売っている個人開業印鑑セットは買わなくてもよいのでしょうか。
たとえば、屋号(お店の名前や、芸名など)でお仕事されている方もいらっしゃいますね。本名の「田中」の印鑑でなくて、お店の名前の「フローレンス」の印鑑を押したい場面もあるでしょう。
また別の場面では、いつも自分が日常的に使っている印鑑を、仕事でも使っていると混乱してしまうこともあるかもしれません。そんなときは、仕事用の印鑑を作ってもよいでしょう。
もっとも、書類に印鑑を押すことがお仕事の場面でとっても多い方でない限りは、個人事業のお仕事の場面で、印鑑を押すのは請求書と領収書くらいです。実際にお仕事を始めてから、お気に入りのハンコを作っても遅くはありません。
初期費用は必要最小限に!
これから事業を開業するぞ!というひよこさんの段階のときは、相場がわからないことや、最初にある程度のものを用意しようという意気込みから、お財布の紐がゆるみがちです。
ロゴデザインやホームページの制作、オフィスの住所入りの封筒など…、後々振り返ると、全然使わなかった、すぐ変更した、無駄な出費をした…と、後悔することもしばしば。
大事なお金はいざというときに、まずは必要最小限で開業することをお勧めします。
印鑑でいえば、買うか買わないかより使い方に注意!
印鑑を買うか買わないかということよりも、これから起業する人は、押印の方法やその意味を知っておくことのほうが大事です。書類に押印する方法には下記のような種類があります。
1.割印(わりいん)
複数作成した文書が同一文書であることを示す。書類同士にまたがって押す。
2.契印(けいいん)
ページが複数ある書類の一体性を証明する。ページの継ぎ目に押す。
3.捨印(すていん)
後で文書の加筆修正に、訂正印として流用できる。書面の余白に押す。
印鑑を押す、ということは、自分の意思でその書類の内容について承諾・約束をしたということの証拠となってしまうもの。
今まで、なんとなく求められるままに印鑑を押してきたのではないでしょうか。経営者になったら、それではいけません。押印することの重大さを忘れずに、印鑑を取り扱ってくださいね。