2015-09-16 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
一般社団法人キャリア35 代表理事 行政書士
尾久 陽子 |
起業初心者の女性が知っておくべき法律のキホン
このコラムのポイント
女性の起業傾向をふまえ、経営者となるうえでどのような法律に最低限留意したらいいのか。女性の起業支援をおこなう行政書士の尾久陽子氏がその基本についてレクチャーします。
フランチャイズWEBリポート編集部
はじめに
こんにちは。女性のローリスク起業を支援する一般社団法人キャリアの代表理事、尾久陽子です。今回は、法務のプロである行政書士としての立場から、『起業初心者の女性が知っておくべき法律のキホン』についてコラムを担当させていただきます。
もっとも、起業をしようと思ったときに、真っ先に法律のことを考える方は、まずいらっしゃらないと思います。どんなビジネスを始めるか、どのようにお客様を集め、収益を上げるか。気持ちはジャングルのハンター、荒野の開拓者。ルールのことなんて、構っていられないというのが本音だと思います。
ですので、今回は、ほんとうに、これだけは頭に入れておいていただきたいという大原則をお伝えしますので、どうか最後まで読んでいただけましたら幸いです。
起業に必要な法律知識とは
起業をすると、下記のようなさまざまな場面で法律が関わってきます。
経営者自身が、これらの多種多様な法律の詳細を、ぜんぶ頭に入れることは困難に近いでしょう。そこで、起業初心者の方には、一番に知っておいていただきたい原則があります。
事業運営にとって、お客様からの信頼を失うことが最大の損失であるということです。
お客様の立場になって想像してみてください。ニュースをにぎわす不祥事を知ってから、来店や購入をやめた経験はありませんか。
下記のキーワードだけでも、特定の事例を思い出されるのではないでしょうか。
これらはみな、不正・不当な行為なだけではなく、当然、さまざま法令に違反しています。事業運営に法律知識は関係ないとは言えないことが、お分かりいただけるのではないかと思います。
そうはいっても、小さな起業から始めるのに、ニュースに出るような大きな不祥事が関係するとは思えないという方もいらっしゃるでしょう。
では、こちらではいかがでしょう。これらも各法律で罰則も規定されている違法行為です。
たしかに、「ちょっとだけ」こんなことをしても、即逮捕されるわけではないかもしれません。
でも、お客様(そしてお客様の候補となる多くの方々、仕事の利益に関係する同業者や関係者…)は、まるで神様。あなたの小さな行いのすべてを見ています。その行動一つ一つが厳しくジャッジされています。そして、これらの小さなほころびは、時には、食中毒による死亡事件や違法設備の大火災、ネットで炎上する風評など、取り返しのない大事故を引き起こす要因にもなり得ることだということを、どうか忘れないでください。
何かアクションを起こすときには、法律的な規制がないか、一度立ち止まって考え、少しでも不安を感じるときは、専門家に相談してみましょう(もちろん、キャリア35にもお気軽にお尋ねください)。
一般消費者を対象とする事業を行うときは特に注意を
女性の起業では、一般の消費者に向けた事業を展開する割合が高いという点も特徴のひとつです。
このような販売業や営業を行うときには、顧客となる消費者を保護するためのさまざまな規制があるということを意識しましょう。特に、特定商取引法の規制対象となる下記の事業を行うときは、注意が必要です。
特定商取引法では、事業者に対して、消費者への適正な情報提供等の観点から、以下のような規制を行っています。
特定商取引法では、違反する業者に対し、行政庁が業務改善の指示や業務停止命令などの処分や罰則を適用することができることに特色があります。
法で規制する内容を知らないまま、熱心に営業行為をしているつもりが、実はこれが完全な違法行為。誰も正してくれないまま、顧客である消費者に被害を与え続けてしまう結果に。そして、ある時突然に消費者庁から改善命令の通知が届き、ネットや新聞で悪徳業者として公表され、信用は失墜。事業継続は困難に…、こんなことにならないようにしましょう。
前述の事業に限らず、どのような事業でも、誇大広告や不当な営業活動を擁護している法律はありません。経済産業省や消費者庁、各都道府県のホームページには、特定商取引法だけではなく、景品表示法や消費者保護法などの消費者を保護するさまざまな法律のガイドラインがアップされていますので、一通り目を通されることをお勧めします。
東京都が公開している指導事例付き事業者向け特定商取引法ガイドブック「これだけは守りたい販売事業者のルール 特定商取引法の正しい知識」は、おすすめです。
取引先と紛争発生。そこで、社長が一言。「消費者センターに訴えてやる」…!?
さて、社長(事業者)として起業すると、商取引の場面で保護してくれる消費者センターのような所はありません。自分自身で考え、自己の権利を自ら主張し、相手と交渉し、利益を得ていくことが求められます。
いかに賢い商取引をして利益を確保するか、自分の権利や、財産、(金銭だけではなく、たとえば著作権や商標権なども含めて)をいかに獲得して守るか、このような場面でも、民法や商法、知的財産権に関する各法律の知識が必要になります。
「起業の法律」といえば、多くの場合は、開業手続きについての法律か、このような権利確保のための法律をイメージされるでしょう。これらの法律知識についてはまた別の機会にご紹介させていただこうと思います。
しかしなにより大事なことは、自分の利益確保に目を向けるよりも、まず、社会的に「公正である」か、労働者や消費者などの「弱者を保護しているか」ということ。
起業の初心者の方には、この観点を忘れることなく、事業を運営していただきたいことを重ねてお伝えして、今回のコラムの筆を置きたいと思います。