2016-01-14 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー
安紗弥香 |
コンビニ社労士が語る!雇用契約書を作成しておくメリットと記載事項
このコラムのポイント
店舗ビジネスの経営者になって、社員やパートの方を雇う際に取り交わす雇用契約。経営者と従業員、双方が労働条件の内容に関して合意のもと契約を結ぶには「書面」でのやりとりが効果的です。その理由と雇用契約書の書面に記載しておくべき内容、事例に関してコンビニ専門の社会保険労務士、安紗弥香氏が解説します。
フランチャイズWEBリポート編集部
こんにちは、コンビニ社労士、人材育成トレーナーの安 紗弥香です。
隔週コラムの第4回は、「雇用契約書を作成しておくメリットと記載事項」について触れていきます。
雇用契約を口頭じゃなく「書面」で行わないといけない理由
「採用します。2月から来てください」
「給料は時給1,000円です。月末締めで15日払いです」
スタッフの採用連絡を経て、いよいよ雇用契約となった際に、ついついこんな風に口頭で済ませていませんか?
これは、とても危険です。
雇用契約に関する書類が存在しないことで労使間のトラブルになった、発生したトラブルが悪化した…というケースはたくさんあります。私は社会保険労務士として日々多くの企業、店舗オーナーの方と関わっていますが、サポート開始のきっかけがこうした書類不足、記載不足によるトラブルで、社長一人で対処できなくなったから…ということも、実はよくあるのです。
誰しも無用なトラブルは避けたいもの。そのためにも、雇用契約は適正に、書面で交わしておくことが重要なのです。それでは、どのような内容が書面明示の対象になるのでしょうか。
雇用契約書の書面で交わすべきポイント
労働基準法の第15条では、「使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければならない」と定められています。
具体的には以下の通りです。
書面の交付による明示事項
1.労働契約の期間
2.有期労働契約を更新する場合の基準
3.就業の場所・従事する業務の内容
4.始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
5.賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
6.退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これ以外の内容、例えば「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」については、期間の定めのないフルタイムの社員(以下「正社員」と言います)採用の場合、口頭でも構わないとされていますが、正社員より勤務時間の短いパートタイマーについては書面交付が必須です。できれば正社員採用の場合でも「言った、言わない」を避けるためにも上記の内容とあわせて書面で明記しておきたいところです。
さらに、パートタイマーも含む期間の定めのある雇用契約(以下「有期契約労働者」と言います)を結ぶ場合は、以下の項目も必ず書面で交わさなくてはなりません。
・雇用契約の期間
・更新の有無
・契約を更新する場合または更新しない場合の判断の基準
法的な意味合いとしては以上なのですが、次に、雇用契約を書面で交わすことによる労使双方のメリットについてみていきます。
雇用契約を書面で交わすメリット5つ
雇用契約を書面で交わすメリットは以下の通りです。
1.勤務条件を明確に示すことができる
ここを明確にしておくことが、何と言ってもトラブルの防止につながります。また、どういう条件で働くかということは、採用されたスタッフも気になるものです。特に、給料、勤務時間や所定労働時間を超える労働(残業)の有無は重要視されることが多いため、それらが目で見てわかる状態になっていると、スタッフも安心して勤務できます。
2.「言った、言わない」を避けることができる
「言った、言わない」のトラブルは、まさに忘れる生き物である人間ならでは。そして、片方、主にスタッフ側が納得をしていない状態から起こるものです。「人は忘れる」ことを前提に、しっかりと書面で残しておきましょう。
3.しっかりとした会社(事業所)であると評価されやすい
法令遵守は、会社(事業所)としての責務です。法律の内容を守ることで、企業(事業所)の評価が上がるきっかけになりますし、そこで働くスタッフにとっても働きやすい環境が整っていきます。また、そうした取り組みの努力から口コミが起こり、新たなスタッフの応募や紹介なども発生しやすくなっていきます。
4.法律上スタッフに与えられる権利への意識が高まる
例えばスタッフの有給休暇の発生タイミングや日数は、意外と意識がいきにくいものです。それを書面で明示することにより、意識しやすくなるとともに、いつ入社して、どのタイミングから有休が発生し、さらに現在何日あるのかについても計算しやすくなります。
また、できれば有休は取ってほしくない…と考えがちですが、それがゆえに代表者が「隠してしまおう」とすればするほど、スタッフはその姿勢を見抜きます。そうしたところから、関係のほころびは発生し、広がっていくのです。
5.助成金を受けるための体制が整いやすい
前回のコラムでご紹介した厚生労働省管轄の助成金では、提出書類として雇用契約の書面を必須としているケースが多いです。もちろん、この書面だけを用意しただけでは足りませんが、助成金を受けるためにあわてて作っても、その書面は意味をなしません。日頃から作成するようにし、しっかりとスタッフに交付することで、助成金の本来の意味である「さらなる労働環境の向上」が実現していきます。
双方納得を形に残せる「雇用契約書」がおすすめ。サンプルも紹介
これまで、雇用契約を書面で交付する意味とメリットを見てきましたが、実はこの「書面」というのは必ずしも、採用したスタッフのサインや押印を必要とする雇用契約書でなくてもいいのです。
「労働条件通知書」(参考:厚生労働省の労働基準法関係主要様式)という、スタッフに対し一方的に労働条件を明示した書面を渡せば「書面で通知」をクリアできるのですが、私は労使双方が納得して雇用、あるいは勤務ができる「雇用契約書」の作成をお勧めしたいと考えます。
パソコンなどで「雇用契約書 ひな形」と検索すると、山のようにフォーマットが出てきます。さまざまなフォーマットが存在していますが、最も詳しいのが、前出の厚生労働省フォーマットです。
ただ、厚生労働省のフォーマットはあくまでも「労働条件通知書」ですので、その最後に署名欄を設けたものを活用されると、スタッフの署名をもらうことができます。