2015-06-10 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー
安紗弥香 |
24時間経営を夫婦でうまく乗り切るコツ
このコラムのポイント
コンビニ経営といえば、24時間経営。もちろんスタッフなどの協力あって乗り切るものですが、やはりリーダーとして動くのは経営者であるオーナー夫婦です。そんなオーナー夫婦がうまく家庭と仕事との両立をはかるためにどうしたらいいのかについて書かれたコラムです。
フランチャイズWEBリポート編集部
こんにちは、コンビニ社労士、人材育成トレーナーの安紗弥香です。
「コンビニ経営」に関するテーマで、隔週でコラムを担当しております。
第5回は、「24時間経営を夫婦でうまく乗り切るコツ」について触れていきます。
夫婦経営のエピソード
夫婦で開業、というと、私は真っ先にあるご夫妻を思い出します。
それは、私がかつてチェーン本部の社員だったときに研修でお会いした、あるオーナー夫妻。関東で開業をされる、ということで、私のところに店長研修を受けに来られました。
その夫妻は異業種からのチャレンジで、お二方とも当時40代。新しい業務を2週間で一気に習得しなければならない、という過酷なスケジュールの中、最後まで諦めずに取り組まれていました。
特に奥さま(以下、マネージャー)は、機械操作が本当に苦手で、何度も同じ間違いを繰り返す状態。私はトレーナーとして関わりながら、この夫妻はちゃんと予定通りに開業できるのだろうか…と何度も不安になりましたが、とても素晴らしいな、と思ったのが、お二人の雰囲気。
「お疲れさま」「ありがとう」というやりとりはもちろん、「まだわからないところ、ある?」と、お互いに支えようという気持ちと、コンビニ経営に対する柔軟な姿勢が、言葉を発しなくても伝わってきて、私も、ひとつでも「できる!」という自信を持っていただきたい一心で、全力でサポートしていました。
その後、「なんとか開業にこぎつけた」という情報が入って以降、しばらく連絡は途絶えていたのですが、去年、3年ぶりに再会しました。そのきっかけは、オーナーが私の携帯に電話をかけて、社会保険の相談をしてくださったことでした。
私が独立をする際に、たまたまこのご夫妻が印象に強く残っていたので、いつかまた再会してお話ができたらなあ…と、開業挨拶のハガキを送っていたのですが、それを大事に持っていてくださり、今回のご連絡に至ったそうです。
ハガキを持っていてくださったこともそうなのですが、このご夫妻が3年経った今でも、しっかりお店を経営されていることを知った私は心が躍り、すぐに会いに行きました。
千葉県内のある店舗。研修期間でも「会いに行きますから~」と言いながら、一度も足を運べていなかった店舗です。駅からもよく見えるその立地は、ご夫妻の経営を応援しているかのようでしたが、お店に入ってみて、夫婦の雰囲気も研修のときと変わらずほんわかしていることが瞬間にわかりました。
3年ぶりにお話しするマネージャーは、さすがに研修のときのようなきわどい機械操作ではなく、非常に安心感のある対応になっていました。
その後、オーナーと仕事の話をしながら店舗シフトを拝見すると、オーナーと奥さまの名前も、アルバイトスタッフに紛れてたくさん入っています。夫婦で時間帯が完全にずれているところもあります。
さすがに夜勤は息子さんや他のスタッフに入ってもらっているようですが、なかなか家族でコミュニケーションもとりづらいんじゃないかなあ…と思いながらオーナーに聞いてみると、
「まあ、そうですねぇ。大変ですけどね」と言いつつ、その表情は笑顔。
続いてマネージャーを見ても、いつも優しい笑顔。改めてこのご夫婦の関係が良好であることを実感できる瞬間でした。
その後も、何度かお店に行ったり、社会保険に入るための書類のことで電話をしたりすると、マネージャーはその詳細はわからないと言いつつ、「店長は◯時にお店に来るよ~」とか「今なら家にいるから携帯出られると思うよ~」と、オーナーの状況を教えてくれました。
また、オーナーと直接やりとりする書類を私からマネージャーに預けると、ちゃんとオーナーにその日じゅうに渡っていたり、オーナーが緊急入院したときもマネージャーからその連絡がタイムリーに来たりと、マネージャーがうまく間に立って情報を伝えてくださるので、風通しがいいな、と感じたものです。
夫婦で仕事をする、ということ
以上のエピソードは、私が身近に経験をしたものでしたが、ここから夫婦経営がうまく行くコツを、私なりにピックアップしてみます。
1.開業前のコミュニケーションがとても大事!
まさにこれに尽きると私は思います。
コンビニ経営は、これまでのコラムでもお伝えしてきたとおり、決して簡単なものではありません。だいたい、オーナーである旦那さまが奥さまに「コンビニやりたい」と言うと、「24時間も働かないといけないの?」「お互いの時間が取れなくなるのでは…」「子育てもあるのに!」などと反対されます。そこが最初の関門です。
システム上は誰でも同じオペレーションができるように機器も整っているのですが、コンビニで提供する商品やサービスの種類は今や数え切れないほどあります(数年前:2,000〜2,500種類 → 現在:3000種類程度)。
習得もその後の運営や育成もある程度の時間を要します。仮に、オーナーがマネージャーに対してそのような全容を話さないまま開店してしまうと、以後はしばらくコミュニケーションを取る頻度も減ってしまいます。
そこから誤解や「そんなの聞いていない!」という反発につながってしまい、夫婦経営どころか、夫婦関係がうまく立ちいかなくなる…ということもあるのです。
感覚では「大変そう」と思っているオーナー夫妻は多いです。しかし、どれくらい大変なのか、どの程度だったら家族の関係などに支障をきたさないか…といったような、具体的な話をできる限り多く、しておくことがとても重要です。
2.マネージャーの存在を尊重する
例えば、子育てをしながら…という場合、だいたい負荷がかかるのはマネージャーです。
最初のエピソードに出てきたマネージャーの基本行動をお伝えすると、朝ご飯を準備して、その後先に店舗に出勤、しばらくスタッフと店舗を運営します。
その後、夕方にオーナーと交代、今度は買い物をしにスーパーなどへ出かけます。買い物が終わったらご飯を作り、オーナーの帰りを待ちながら、洗濯や帳簿付けなどの家事も行う…というように、1日動きっぱなしです。
オーナーが22時以降、夜勤スタッフへ引き継いで帰宅したら、先に寝ていたりすることもありますが、起きていることもある様子。
家庭と仕事をうまく両立させてくれているマネージャーに、オーナーも心からの感謝を持ち、かつ、「ありがとう」や「お疲れさま」というように具体的な言葉にして伝えることはとても大切です。
もちろん、マネージャーにも随時理解を促し、オーナーが動きやすい状況を作ることも大切です。どういう立ち回りをして欲しいのか、オーナーからしっかり伝えます。
「今日は夕方から行くから、お昼の時間は任せたよ」「夕勤のスタッフが出勤する17時までに、◯◯を終わらせておいてほしい」などというように。コンビニ経営はチームワークが一番。やっておいて欲しいことは、しっかり、具体的に伝えること。それが、信頼関係構築の秘訣でもあります。
3.お互いをねぎらう
2はマネージャーへの働きかけでしたが、コンビニ経営を夫婦で行う場合、互いにかなりの体力、精神力を使います。そんなときに、お互いの努力を認め合ったり、苦心を分かち合ったりする姿勢はとても大切です。
「自分の方が大変だ」「あっちは楽だよな」と比較するのではなく、オーナーとマネージャー、役割はそれぞれ違い、それぞれの役割ごとの喜びや苦労がある、ということを「知る」こと。そこから、ねぎらい、思いやりの気持ちは生まれます。
少しだけ、私の話をさせてください。
私の仕事はコンビニ経営ではありませんが、研究者の夫と結婚して9年になります。夫婦生活の期間は大した長さではありませんが、お互いに朝から夜まで仕事をしていて、その日話せないまま終わる、ということもざらにあります。
また、私は料理もしません。このとおり、根っからの仕事好きですが、こうして仕事を思い切りできているのは、夫がそういう状況を認めて、受け止めてくれているから。私はそれに心から感謝し、仕事を続けています。
その分、夫に無理をさせているところや、我慢をさせているところもあるので、できる限り普段から気になるところや夫の気持ちを聞いてねぎらいを伝えていますし、お互いがよりいい関係でいられるためにどうしたらいいか…ということを常に考え、話し合うようにしています。
これを見ると、どれも全て、コミュニケーションの話ですよね。
そうなんです、どういうときでも、夫婦で経営をうまく乗り切るコツは、コンビニスキルでもなんでもなく、「コミュニケーション」なのです。
でも…往々にして、旦那さまは奥さまを尊重し、感謝を伝え続けるようにすると、うまくいきます(笑)。オーナーになる旦那さまには、どうぞ頑張って欲しいな、と思います。困ったときは私にいつでもご連絡ください!
最後に
以上、5回にわたり、連載してきたコンビニコラム、いかがだったでしょうか。
最後に、最初に出てきたご夫妻は、本当に肩肘が張っておらず、お互いを理解しながら、4年目に突入。売上も利益も順調に伸びています。近くで工事している道路が開通したら、さらに賑やかさが増すので、そうした外部要因に伴う変化も、できる限り早めにキャッチして、対策を夫婦で考え、本部と協力しながら行動に移していくと、きっとこのご夫妻の店舗はもっともっと発展していくのだろうな…と思います。
そんなコンビニが、もっともっと増えていきますように。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。